砂の中のさがしもの
家族ぐるみで海に来た。家が隣どうしの家族と一緒に。
私は海なんて行きたくない。海はベタベタするし塩臭いし、何より濡れるから嫌いだ。
けれど私の意見なんて誰も聞いてくれない。二個下の妹の侑夏は海に行きたいと言うし、私の両親も向こうの両親も海に行くことで話が決まっている。
せめてもの反抗に家を出てからずっと仏頂面でいてやる。ママから顔が汚いと言われても、構うもんか。
海に着いても私は水着に着替えず、パラソルの下で座って砂を指でいじる。指と指の間に付かないようにすれば、指に砂が付く感触も悪くないと思う。
大して力を入れなくても、さらさらと指が沈むのが妙に心地いい。たまにひっかかる大きな石や貝殻を砂の上に並べるだけでも十分に海で遊んでいる実感が湧いた。
「美冬ちゃん、何してるの?」
隣の家の小春ちゃんがいつの間にか私の前でしゃがんでいて、私のことを見ていた。
小春ちゃんは私の一つ下。でも私よりずっと明るくて可愛くて、ほとんど私と背が変わらないから、私は小春ちゃんのことをお姉ちゃんみたいだと思っている。
「砂を掘ってるの」
「海で遊ばないの?」
「私、泳げないの。水が苦手だから」
「そうなんだ。じゃあ私が美冬ちゃんと遊んであげる」
そう言って小春ちゃんも砂を掘り始める。私は小春ちゃんにつられて、さっきよりも深く砂を掘っていく。
指の間に砂が入って、気持ち悪い。さっきまで楽しかったのに、今は全然楽しくない。
「あっ。見て見て。こんなにおっきな貝を見つけたよ」
と言って小春ちゃんは自分の手のひらよりも大きい貝殻を砂から引っ張り出した。
さっきまで私が見つけていた貝殻は、小さいのや割れたものばかり。どう見ても小春ちゃんのには敵わない。
「二人に見せてくる!」
小春ちゃんはその貝殻を持って立ち上がって、海にいる佑夏と一番下の秋緒くんのところへ走って行った。
私はまた砂の中を探す作業に戻る。何を探しているのか、何を見つけたいのか分からない。
多分私の探しているものは、砂の中にはないのかもしれない。砂の中にないなら、それはどこにあるんだろう。
海で楽しく遊ぶ小春ちゃんと佑夏と秋緒くんを見る。私は一人だ。
私が今も仏頂面でいるのに、佑夏は二人と一緒でとっても楽しそうだった。
夏も、海も、大っ嫌い。早く冬が来て欲しい。