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時を超えた使命  作者: はるまき
一章:時を超え
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6.イナク

 衝撃的すぎる現実を突きつけられたかと思えば、自らの命より大事な最愛の兄の生存という嬉しい現実。リュインの心は忙しく動き続ける。


「も、もう一度言ってくれ、ティエ。お前、ラ、ラスラと言ったか……!?」

「えっ、ラスラさん。ラスラ騎士団長さんだけど……」


 突然立ち上がり、突然声を荒げるリュインに、ただただ驚くことしかできないティエ。言われるがままに男性の名を再び言う。ティエがもう一度その名を言った瞬間、リュインが目を見開く。何かの血が騒いだのか、と不安に思うティエだが、今の彼には何を言っても聞かなさそうだ。


「兄貴……!!!!」


 リュインがぽつりとつぶやいた言葉を聞いたティエ。その瞬間、リュインと同じように立ち上がり、目を見開いてしまう。ティエが聞いたことが事実なら、今目の前にいる未来人の男は、この国の騎士団長の弟ということになる。世界中にニュース速報として飛び回るほど、かなりの緊急情報となるのだ。


「え、え!? リュイン、ほんとなの!?」


「……信じられないかもしれないけど、本当だ。俺はリュイン・イナク。俺の兄貴は、ラスラ・イナク。6年前に行方不明になったんだ」


 リュインにとってはここはまったくの見知らぬ土地。命拾いはしたものの、ここで平気で嘘をつけるような状況ではないと、ティエは勝手に考える。まだ出会って数時間しか経っていないし、リュインと話し始めてからは、もしかすると1時間も経っていないかもしれない。だが、リュインが嘘をつく人間には見えない。言っていることを信じても、裏切られることはおそらくないだろう。

 興奮して立ち上がってしまっていたティエは、再びその場に座り込む。なんとかしてリュインとラスラを会わせてあげたい。騎士団長に簡単に会わせてくれるのか、無理なのか、今までの記憶を引っ張り出して思い出そうとしている。


「……ねえリュイン」


 ティエが呼び掛けると、リュインが彼女のほうを向く。自分が未だに立ったままなのに気づいたリュインは、あわててその場に座りなおした。立ち上がった時は何も感じなかった背中の痛みは、座るときにはしっかり感じてしまうようだ。リュインの表情が少し歪んだ。


「基本はね、見知らぬ人の発言はあんまり信用するなって、うちの隊長にしつこく言われてるの」

「嘘じゃな……」

「分かってるよ。リュインの言ってることとは嘘じゃないって、なんか分かる。それでなんだけどさ」


 リュインの首が、ティエに向かって少し伸びる。先ほど感情的になりかけた自分を少し反省した。


「リュイン、これから行くところとかあるの?」


 リュインは少し考え始める。これから行くところと言えば、回収した鉱石を村に持ち帰るつもりでいた。だが、いつの間にかこのありさま。村に帰ろうにも、今自分のいるところが500年前の世界じゃどうしようもない。ヘタに動けばそのうちどこかで野垂れ死んでしまうだろう。


「ないな……。村に帰れないし……」


 待っていましたと言わんばかりに、ティエは大きく息を吸った。


「じゃあ、ログマ城に行こうよ。あたしが案内してあげるよ。ラスラさん、いつもはお城で王女さんの護衛とかお世話とかやってるらしいの。だから、なんとかお願いしたら、会えるかもしれない」


 リュインの表情がまた変わる。一気に晴れやかな表情に変わる。おそらく、この地に来てから初めて、リュインの口角が徐々に上がっていっている。嬉しくなってしまうのも仕方ないとはいえ、シュン以上に表情が目まぐるしく変わっている気がする。

 リュインの晴れやかな表情を見たティエも、すこし笑顔になる。自分の提案を理解してもらえたようだ。迷っている人を案内することは慣れているため、ログマ城まではすぐに向かえる。


 リュインはまだ深くは知っていないが、この508年の世界には『魔物』が存在し、人間に向かって襲い掛かってくる奴もいる。その『魔物』からリュインを守るためにも、同行しなければならない。討伐隊の仕事は、ただ魔物を討伐するだけでなく、迷い人の道案内兼、魔物の盾となって同行することも、れっきとした仕事である。


「俺の名前を名乗れば、城の人は通してくれるのか?」


 リュインの問いかけに、ティエはゆっくりと首を横に振った。


「……ダメだと思う。城の人も城下町の人も、なかなか信じてくれないのよ。ハイハイ、みたいに軽くあしらわれて終わりかもしれない」


 ティエからの返事に、リュインは少し肩を落としてしまう。突然知らない人間が入ってきて、「自分は弟だ」と城の人に言って、簡単に信じるわけがないとはリュインも分かってはいる。しかし、やはり会いたい気持ちは強い。


「策ならあたしが考えるよ。大丈夫、明日の朝までには絶対いい策見つけるから」


 ティエはそう言って、また威張るように胸を反った。

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