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時を超えた使命  作者: はるまき
一章:時を超え
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5.突きつけられたふたつの現実

 突然うつむいてしまったリュインを見て、ティエは彼が体調を崩したんじゃないかと思い、リュインの表情を確認しようと目の前にしゃがみ込む。視界内に年頃の女の子が上目になってこちらを見ている姿が映り、リュインは思わず驚きの声を上げてベッドに飛び乗るようになりながら後ずさりをした。体調は崩していないようでよかった、とティエは安堵の表情をする。

 体調が悪いわけではないが、今のリュインには精神的に大きなダメージを受けている。親友を守り切れずに不甲斐なく死んでいったと思ったら、わけの分からないところで倒れていて、親友はいない。気づけば見知らぬ女性がいて、命拾いしたかと思ったらこの現実である。実際は短時間なのか分からないが、リュインにとっては短時間であるこの間で、彼にとっては様々なストレスが発生しているのだ。


「ほんとに……、508年なのか……?」


 未だ信じられない。信じられるわけもない。産まれてから今まで、人間がタイムスリップしたなんて情報は、一切聞いたことがない。そんな技術も、今のこの世界では実現ができないと言われてきた。しかし、今リュインは1008年のログマ・フェンザにいない。508年のログマ王国にいるというのだ。


「逆に聞くけど……、リュイン、何年生まれの何歳なの?」

「……991年生まれ、17歳だ」


 そう言いながら、いつの間にかベッドに、柄だけになって置かれてあったナイフを取る。その柄には、はっきりした字で『991 リュイン』と彫られてある。ティエはその柄をリュインの手から拝借し、舐めとるように眺め始めた。


(なにこの金属、あたし……、こんな金属今まで見たことない)


 柄を眺めていると、ふとティエの脳内に1人の人間が現れた。その人物がはっきり脳内に現れた瞬間、ティエは何かを閃いたようだ。柄を持ったまま、突然立ち上がる。そのまま、再び台所代わりの机のところへ走り、何かを探し始めた。

 リュインが不思議そうにティエを見る中、何かを見つけたのか、ティエは柄を机の上に置く。そして、台所横に置かれた小さな収納から、古くなった紙と、ペンのようなものを取り出す。そして、もうひとつの自由に使える机の前に座り、何かを忙しく書き始めた。ティエが何を書いているのかが気になったリュインは、興味本位でその様子を覗き込もうと、ベッドから降り、ティエの向かい側に座る。まだ痛みがするせいで、動くたびに顔を歪ませるも、なんとかティエの前に座れた。


 ティエが書いていたのは文字ではなく、何かの絵だった。急いで描いているため割と汚いものの、人物を描いていることはなんとなくわかる。


「リュイン、未来から来てるってことだよね……?」

「そうなるな……」


 ペンを走らせながら、リュインに問うティエ。描かれている人物の絵が、徐々に完成に近づいている。どうやら、未来から来たという言葉に、ティエは何か引っかかったようだ。


 ティエの絵が完成したようだ。古い紙に描かれた人物は、男性のようだ。細かいところまではなかなか理解できないほどの雑な絵ではあるが、その人物が鎧をまとい、剣と盾を持ち、全身からオーラのようなものを放っているということまでは分かる。


「あのね、昔、未来から来た人がいたの。昔って言うほど昔でもないんだけど、6年くらい前」


 『6年前』という言葉を聞き、リュインの表情が少し変わった。


「あたしが討伐隊に入ったころかな? このあたりで人が倒れてたんだって。ほんと、リュインみたいな感じだったらしいの。優しい討伐隊の先輩さんが助けてくれて、今はログマ王国のお城に住んでるの。あたしはあんまり会ったことないし、顔もおぼろげなんだけど、すっごく顔が整ってて、魔力もすごくて実力もあって。いつの間にかこの国の騎士団長さんなんだよ」


 『魔力』『実力』『顔が整っている』。リュインの脳内に、1人の男性が浮かんでくる。ティエの言う男は6年前に過去に来た。リュインの頭の中に浮かぶ男は、6年前に姿をくらました。そして、『顔が整っている』ことや『実力』というところが一致している。


(兄貴じゃ…………?)


 そう、リュインの脳内に浮かんだ男は、リュインの実の兄、ラスラ。彼は6年前に行方不明となっている。ティエの話す人物と、どこかしら一致している点がある。リュインはその人物が誰なのかを知りたくなり、ティエの顔をじっと見つめ始めた。


「な、なに!? 急に見てこないでよ、びっくりするじゃん」

「その男、名前とか年齢とか、知っているのか?」


「えー……っと、年齢は20代ってことしか知らないなー。あこがれの人なんだけどね。名前は、『ラスラ』。ラスラ・イナクさんだよ。知ってるの?」




(!!!!!!)


 リュインは突然立ち上がった。背中に猛烈な痛みが走ったが、今のリュインにはまったく痛みを感じない。そんな痛みよりも、今ティエが放った言葉が、リュインの心臓めがけて一気に突き刺さってきたのだ。ラスラ・イナク、20代。6年前に突如現れ、「未来から来た」と言われている男。顔が整っていて、実力も備わっていて。どこをどうとっても、リュインの脳内に浮かんできたあの男、兄のラスラと完全に一致している。


 生きていた。死んでいなかった。あの日からずっと信じ続けていたことは、本当だった。

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