1.出発?
気持ちの良い風が、辺りを覆いにきた。
木々に囲まれた小さな村。ここに住む人間たちは、皆が活き活きと毎日を生きている。
充実した日々を過ごす村の住民。その中の一人が、木で造られた小さな家から出てきた。
齢は20もないだろう。青年と言うより、少年と言った方が正しいのではないかと思えるほどの、若い男が現れる。心地よい風に吹かれ、金色の髪が暴れだす。少年は鬱陶しそうに頭を押さえ、少し目つきが悪い状態のまま家の周りを見回す。
「やっぱりなぁ……。起こしに行くか」
ため息を漏らしながら、消えそうな声でつぶやく少年。
誰かと待ち合わせでもしていたのだろうか。しかし、少年の家の前には誰もいない。彼以外の住民は、いつものようにのんびりと散歩をしていたり、釣りをしていたり。少年の探しているであろう人影は、一切見当たらない。
もう一度、はぁ、と少年がため息を漏らす。腰に差している護身用のナイフを手に取り、手になじませるためか、一回空気を切り裂いた。
「一回切りつけなきゃダメなのかあいつは……。仕方ない。行こう」
自分に言い聞かせるように、再び独り言をつぶやく少年。ナイフを再び腰にしまうと、顔を上げ、『あいつ』という人物のもとへと歩き始めた。