表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

天使と笛の謎②

改訂版で訂正しましたが、


モルビー君が、ストーカー予備軍からピュアな少年になりました。


まだ、改訂版を読んでないかたは、ちょっと話の繋がりがわからないかもしれません。

 モルビー・ランクは最高潮に気分が高揚していた。



だが、それと同時に視界に入る天使の男にモルビーは眉間の皺を深くする。


 中性的に整った顔(のように見える)、聖性のにじみ出る清らかな光(※蛍光灯の光)、なにより男性体の天使なのに、女子寮で暮らすことが認められている上に、あの、あのエリスと同じ部屋で寝食を共にしているのだ。


 男として「そこ代われ!」と言いたくなるような喉から手が出るほど羨ましい環境だ。


 彼の心境は「イケメンなんて滅べ」という僻みからくるものだろう。天使とはいえ、外見は頭に輪っかが浮いているだけの若い男である。


 使い魔というだけで、エリスの隣を我がもの顔で座り、エリスの笑顔を向けられるのも当然のように、ふんぞり返り、一生懸命、話しかけるエリスに怠そうに話を聞いている。



羨ましい、妬ましい。そんな感情がモルビーの胸を焦がす。


それと、同時にモルビーは天使(かれ)にある種の憧憬を抱いた。



彼のように大切な人を守れるような、強い人間になりたい。と



**************




「ラクセル!氷結の礫!!」



「ヒヒィン!!」



モルビーは、ラクセルが一番得意な氷結技に、自分の魔力をこめ、つららを量産する。


手を抜いたら負けになる。それがわかるから、モルビーはエリスを遠ざけ、流へと怒涛の攻撃技を繰り出す。


「ヒラン・デラルカ!!」


だが、エリスも負けてはいない。咄嗟に火の精霊に氷を溶かせる呪文を唱え、流に当たる直前に攻撃を防ぐ。


護られた当の本人は無表情でモルビーを見据えて、微動だにせずに、海の中でたっている。


エリスの援護を信じていたのか…それとも予測していたのか…


「…(やばい、今、本気でチビりかけた。)」


…いや、普通に動けなかっただけだ。と言うか、もはや凶器と言うしかない氷柱が飛んできた事に、流は冷や汗を流す。


「(に、しても。あの馬…おとなしそうな顔をして結構な攻撃するな!)」





 正直に言おう、モルビー超ヤバイ。



 ベルツハイドの時はまだ奴自身、油断していたが、モルビーは背水の陣で流に挑んできている。


どちらが凄いかときかれたら、流は間違いなくモルビーと答えるだろう。


地味な攻撃ばかりだが、それでも冷静にジワジワと流を追い詰めていく。


 使い魔とモルビーとの絶え間ない攻撃。


 モルビーが詠唱中に、使い魔のラクセルが流を攻撃&牽制し、エリスと流を近づけないようにし、モルビーが魔法攻撃時には、ラクセルは水属性の攻撃で援護するという恐ろしく隙がない連携をする。その上、合体技までタイミングよくするものだから堪らない。


本人達は気がついていないようだが、地味に厄介だ。



 これが、本来の魔術師の正しい戦い方なのだろう。


だが、そんな戦いの中モルビーは内心焦っていた


戦闘終了時間はあと10分。それまでにポイントを稼がねばならないのに…当たった攻撃は最初の不意討ちだけ…。


あとは流の奇跡的な回避とエリスの援護魔法でしのがれている。



 有利とはいえ、時間がない。


モルビーは勝負に出た。


「カシエル様!!いきますよ!」


「!」


篤と(ハーネル)水を飲み干し(ブラリタス)唄って(ラッソ)踊れ(ラールテ)



「っいけない!カシエル様、上級精霊魔法が来ます!」




その声にハッとして、流は胸元のホイッスルを握りしめる。



モルビーの周りを螺旋状に踊る水の量が、増えていく。あたかも、渦潮のような魔法に、流は躊躇なくホイッスルを口に加えた。



「くそ、こうなりゃヤケだ!」



流は思いっきりホイッスルを吹いた。



が…しかし



「つまっている…だと…!」




海水に濡れたせいか、いまいち音の出が悪かった。


出てきた音は前回よりも酷い。


ブビビィという不気味な音が、紺碧の海に広がる



「ヤバッ!」


「いけぇえ!!」


モルビー君の渾身の叫びと共に、魔法で出来た巨大な渦潮が、流へと放たれる。



「…!」


「カシエル様!」


エリスが泣きながら必死に魔法陣を構築しているのが見えて、流はふと、あの日の父の目を思い出した。




炬燵で蜜柑の皮をもぎながら、白い筋を飛ばしてくる幼稚な姉、休日はぐぅたらで、屁が最強に臭かった父親、若干、腹が出てきた母



そんな家族と昔…プールに遊びに行ったとき、迷子になった。


白い太陽の下煌めく水と、はしゃぐ来場者たち。そんな真夏の混みあったプールの中ひとりだけ取り残された、懐かしい記憶。


実はその時、母が熱中症になり、父が慌てて母を医務室に連れていっていた。症状が、深刻だったようで、救急車に搬送され病院まで行ったようだ。


急いでいた父は中学生だった姉に、病院から戻ってくるまで流の面倒を頼んだのだが、ワガママプーな姉は弟の面倒を見る気がさらさらなく、プールで会った友人達と、ウォータースライダーのコーナーへ行ってしまったのだ。



(…確か、あのあと、迷子になったんだよな。)


荷物を置いた場所がわからず、待ち合わせの場所も広すぎる上に人がたくさんいて、わからなくなっていた。


だから、姉を探しに行ったが、姉とは会えないまま迷子になった。


 その後、何とか病院から戻ってきた父親が、待ち合わせの場所に姉しかおらず、姉が流を放置したのを察したのか激怒しつつ、プール中探し回っていたという。プールの職員を巻き込んで大騒ぎになったらしく、見つかった時、父親から泣きつかれたのを覚えている。



《…まったく、もうちょっと早く呼びなさい》



そうだ、そんな事を言われたのだ。


(あの時、俺は迷子センターに行くのが面倒だったのだ。小学四年で、迷子とか恥ずかしかったし…放送で迷子案内をされるのが、嫌だったんだ。)


 心配する父とエリスの泣き腫らした瞳が、やけに重なって、流の心を揺らす。


 家族でもないのに、流を見るエリスの目は涙でこぼれ落ちそうなほど脆い。


 彼女はモルビーの攻撃対象ではなかったが、流を守るために、援護魔法を休みなく連発していたから、今にも魔力がつきて崩れそうだ。


(エリスの元に行かなくちゃ)


そう、流が思った瞬間、暖かい放流が冷えきった流の身体を包み込んだ。


**********



モルビーは、あの日のでき事が頭から離れなかった。



あの日、ベルツハイドとエリスが決闘した日、モルビーは逃げたのだ。


ベルツハイドの女好きは有名だったし、いずれエリスにも言い寄るだろうとは思っていた。


でも、エリスはベルツハイドに対して恋愛感情はなく、むしろ嫌悪していたから安堵していた。けれど、ふたりが決闘の約束を交わした時、モルビーは決闘を止められなかった。


ベルツハイドは自分より強い人間だった。


モルビーの使い魔であるラクセルですら餌にする翼竜リントヴルムを使い魔にする、天才とうたわれる最も力を持った貴公子、対して、万年うだつが上がらない気弱なガリ勉。


誰の目にも実力差は歴然だった。


そんな自分とは違い、彼女は養父の誇りを守ろうと使い魔もないのに単身、ベルツハイドに戦いを挑んだ。


 そんな彼女とベルツハイドを止められなかった自分が情けなくて…


そんな時、彼女を助けたのが天使だった。


 彼が圧倒的な力でリントヴルムを倒し、彼女と契約した時、モルビーはエリスの本当に嬉しそうな笑顔を初めて見た。


 それを見た時、罪悪感と後悔が胸をつく。


 モルビーの初恋は人知れず終わりを迎えた。



まだ、エリスを好きな気持ちに整理がつかないせいか時々嫉妬心が顔をだすが、それでも、彼女の天使のように大切なひとが守れるようになりたいと、思うようになり、気がつけばラクセルと必死に訓練していた。


そして、今、憧れた天使と戦っている


今度こそ逃げないと、自分言い聞かせてモルビーはがむしゃらに戦っていた。



 ざばぁあん!と大きな音をたてて、渾身の上級精霊魔法が天使にクリティカルヒットをした。と、確信したモルビーは、自分の頭上に浮かぶ得点に目をむけて、愕然とする。


得点は2のままだった。


だが、モルビーが驚いたのはそれだけではない。


「な、!」


頭上に大きな影が覆い、翼を広げた大きな何かが旋回しているのが見える。


 空に浮かぶ白い雲のような三対六翼の純白の翼


象を片足で三匹も捕まえられそうな強靭な足に、鋭い嘴、金色に煌めく瞳。





 それは、巨大な鳥だった。





 よく見ると巨鳥の嘴の先端に、光輪を頭に浮かばせた天使がぶら下がっている。



「そ、そんな、召喚の気配なんてなかったのに!!」



 焦る主人同様に、ラクセルも恐怖で数歩、後退する

散り散りになり他の場所で戦っていた他のクラスメイトも、その光景に絶句する。



夏の空の積乱雲のような 巨大な鳥はヒョイッと首を上に上げた。その瞬間、嘴にぶら下がっていた流が空中に投げ出されたが、流は難なく空中で一回転すると、巨鳥の頭の上に鮮やかに着地した。


巨鳥は、流が頭の上にいるのが嬉しいのか喉をクルクルと鳴らす。



その動きも、さることながら…恐らくあの大きな鳥は天使が呼び出したのだろうと、周囲は息を飲んだ。



「…まさか、アレッて…アゼルの…」


つんざくような巨鳥の鳴き声が、海に反響して波紋をつくる。その波紋は、小波なり紺碧の海を揺らす。



ハッとしたランデル教諭はそれをみた瞬間、間髪いれずに腹の底から叫んだ。



「総員、退避ぃぃい──────!!」


 その叫びに続いて、巨鳥の六翼が力強く羽ばたいた瞬間、台風も霞むような暴風が海域中を大きく揺るがした。



その日、近くにいた漁船は陸地まで飛ばされ、震源地の海域に棲んでいた魚達は気絶したり、陸地まで押し流された。


幸い、死人は出なかったが、木造の家が八軒、石造りの古い家屋二棟がその風で半壊した。


後に、その怪異はリシェル諸島の怪異と呼ばれ、 リシェル諸島の住人からは、神のくしゃみと呼ばれるようになる。



なんか大事件に発展しちゃいました。


笛の謎と、巨鳥の正体は次回の③にて。


次は22日に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ