Only< > proto
勢いで書き始めたのでどうなるかは分かりませんが、ツボにはまってくれる方が一人でもいれば幸いです。
あと個人的な好みで申し訳ないんですが、設定資料(とか、それっぽいもの)はあんまり表に出す気無いです。
なるべく頑張って本文で(クドくならない程度に)説明してみるので、わかんねーって単語あっても我慢してもらえると嬉しい。です。
全てはモノクロと言ってしまっても良かった。
眩い天球の消えた空は旧世代のプラネタリウムよりも余程鋭く瞬く星の光にのみ照らされていたのだから。
或いはそれらに純粋さ故の美しさを感じることも出来るのだろうが、僕がそんなことを感じることなんてついぞ無かった。
外気温-192℃。今日は随分暖かい。
そういえば、今頃は旧暦でいえば春であった事を思い出した。
積層で施された対冷処理とテトラコック構造によって半永久的に保持される熱量が無くなれば即座に氷像として崩れ去れるその状況下で、吹き荒れる半透明な酸素とメタンの雨が記録で見た薄いピンクの花びらだったこともあるのだろうかと、もはや絶対に確かめようもないことに思いを馳せる。
普段の僕であればそんな無駄なことを考えることは絶対にない。
そうとも、無駄はあってはならない。
地熱を利用するため深くへ深くへと潜っていく都市群は、しかしその実困窮していた。
「アタ」が旅立った後、内部分裂によって各都市が分断した挙句にそれらを繋ぐ"道"は断層に飲み込まれ機能を停止。都市群は3つを最低のユニットとして補完するように設計されていたから、単独で稼動するしかなくなった都市群はその全てがつまるところのジリ貧に追い込まれていた。
それがどれくらい酷いかといえば、世界に6人しかいなくなったスペシャリストをたった一人で3000kmも移動させざるを得ない程度だ。
そう、その程度だ。
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事の顛末はこうだ。
「アタ」が出発して40年。どうやら向こうも相当に参っているらしかった。
そこでスペシャリストが望まれたわけなのだが、「アタ」と通信を行えるだけの電力を唯一保っているセントラルにはそれがいなかった。というよりも、いなくなったというべきか。
「アタ」からの通信は多分にノイズを含んでいる。その割合も年とともに大きくなって行くことは当初の計画通りだった。それらは並列処理された都市群が"翻訳"することになっていたのだが、それが不可能となってしまった為に代わるものが必要になった。
そうして白羽の矢が立ったのがスペシャリスト、つまり僕のようなヤツだった。
「アタ」は人ではないけど、人になりうるように作ってある。彼は彼女でもあり、私でもある。だからスペシャリストは人でなければならなかった。 僕を育てた講師-彼もまたスペシャリストなのだが-は僕にそう説明した。
そうして幾人かが選ばれて、その翻訳を行うことになったのはいつごろだったか。
だがそれ、つまり生身を通した翻訳/通信を提唱した人間をすら驚かせたのは、スペシャリストを通す事で機械よりも遥かに流暢な言葉に代えるように出来ることそのものでなく、むしろ遥か遠方にいる「アタ」と本来的に、物理的に不可能なリアルタイムでの通信が可能になるその性質にあった。
本来あるべきでないものが見える、そんな経験は誰にでもあるだろう。スペシャリストを見出した講師の曰く、それは本来ありうるはずではあったが、誰にも認知できなくなってしまった可能性の露出、らしい。更に続けて、残像のようなものだ、とも。君はそれを追いかけることが出来るのだ。そう言った。
自らの残像をアタまで延々と繋げることが出来るのならば、君はアタにいるのだから、そこにいるもの達とコンタクトを取れるのは至極当たり前だ、そのように説明された。
では何故こちらとも喋る事ができるのか、と聞けば。
君の残像の一つは事実としてここにあるからだ、そんな答えが返ってきた。釈然とはしない。しかしその事実に僕が反論することは無かった。何故なら出来る事と分かる事には大きな溝があるのだと、少なくとも年相応には分かっていたのだから。 けれどその云わば繋がるという行為こそがセントラルのスペシャリスト達がいなくなった原因なのだと聞かされた時、僕は理屈にならない恐怖を感じた。
しかし、僕の生まれ故郷にいる残り2人の"スペシャリスト"は余りに幼かった。
そんな彼らよりは長生きした僕が命を捨てに行くのは、少なくとも僕の居た都市では当たり前。
自己犠牲なんて概念ではない。"暖かい"この星で、僕らはそうしなければ、そうしてこなければもはやこの星が無くなるそのときまですら生きることが出来ないのだろうから。
だから僕は頷いた。
耳元から電子音がなった。
そうして、セントラルまで後10kmだという旨を伝えるとそれは再び沈黙した。