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虚空の砦

今回はサラ オルコットという女性の夢のお話しです。


彼女の夢はイゲルフェストという虚空に浮かぶ巨大な要塞都市。



『ふぅ……片付くどころか増える一方ですね……』


机の上に積み上げられた書類の山を見つめ一人の女性が呟く。

年齢は20代ぐらいだろうか、黒髪を後ろで束ね、きらびやかな装飾が施された軍服に身を包んでいる。

彼女がふと窓の外を見てみると、戦闘列車の群れが無軌道走行で、降下している最中だった。

ここは、虚空にぽつりと浮かぶ要塞都市イゲルフェスト、武装鉄道結社シュバルツェアルプの拠点である。

武装鉄道結社と聞いて、「なにそれ?」と思うのが大半だろうが、その説明の前にこの世界について説明しなければなるまい……。

この世界は夢と呼ばれる場所であり、イゲルフェストは彼女が見ている夢なのである。

人は誰でもこの夢と呼ばれる世界を持っていて、眠っている最中はこの世界に来る事ができる。

また、他人の夢も並行世界のように存在しているが、そこへ行くには混沌の空間を越える必要があり事実上不可能である。

しかし、その不可能を可能にしたのが、武装鉄道結社シュバルツェアルプの特殊な列車の鉄道網なのである。

ちなみに、彼女がこの世界に来てから今日で丁度40年……

しかし、不思議な事に彼女は全く歳をとっていない。

『サラ!探したよ!』

突然部屋のドアが開けられ一人の小さな少年が飛び込んできた。もちろんノックも無し……普通なら銃殺ものだが、彼は例外だ。

彼はフラウ ラッテ、シュバルツェアルプの総帥である。

ちなみにサラと言うのは彼女サラ オルコットの事である。

『どうなさいましたか?総帥』

彼女が尋ねると、フラウは彼女の膝の上に座りこう切り出した。

『暇だから来ちゃった♪』


書類に埋もれるサラにとっては理不尽極まり無い一言だった。

しかし、サラは優しくフラウの頭を撫で、怒る事はなかった。

得に怒りは感じていないようだ……

『今日で40年……だね♪』

『そうですね……一度壊れてしまったこの世界もここまで再生しました。』

サラは額縁に飾られた一枚の絵を眺めながらこたえた。

その色あせた絵は、お世辞にも上手いとは言えない絵だ。

『イゲルフェストのイメージ……懐かしいなぁ♪』

その様子に気付いたフラウが呟いた。

『それでは、懐かしいあの頃の思い出話でもいかがでしょうか?』

サラの提案にフラウは無言でうなずいた。






どこまでも続く虚空……

そこを漂う残骸……

サラは絶望と共に虚空をさまよっていた。

ここに来る前、最後に見たのは迫り来るヘッドライトの光……

気が付くとこの場所を漂っていた。

サラは事故で死に、ここは死後の世界だと考えた。


『天国……いや地獄かなこれは……』


サラは周囲を見渡しながらそう呟いた。


『天国でも地獄でもありませんよ。』


不意に頭上から声がした。声のした方を見てみると、少し上を漂っている残骸に一人の小さな少年が腰掛けていた。

見た感じの年齢は12歳ぐらいだろうか、真っ黒なスーツに蝶ネクタイ、シルクハットの様な変な帽子と普通の格好ではない。

そして、一番異常なのは、その深紅の瞳……人間に赤い瞳は存在しない。

しかし、サラは不思議と恐怖は感じなかった。

逆に、その少年の少女でも通用しそうな可愛らしい容赦にみとれてしまった。


『ここは夢……そして私は夢に住む夢魔と呼ばれる存在です。』


少年はまるで紳士のような動きで深々と頭を下げる。


『そうなんだ……私はサラ オルコット、貴方のお名前は?』


『私はフラウ ラッテと申します。』


フラウは名前を名乗りながら一枚のカードをサラに手渡した。

カードにはフラウの姿が描かれていた。


『これは?』


カードを眺めながらサラは尋ねた。


『コントラクトカードと言って、夢魔が別の夢に住み着く時に、夢主に渡す物です。』


フラウの説明にサラは首を傾げた。

契約であることは間違い無いが……

その様子を見て取りフラウは更に詳しい説明を続ける。

『夢主というのは夢の持ち主の事、つまり貴方の事。』

『そして、このカードはいわば夢の賃貸契約書のような物です。』

『私達夢魔は、夢を拡張し街の様に大きくしていきます。』

『そのために、夢の持ち主の許可を得る訳です。』


フラウは説明が終わると最後にこう言った。


『私が求める契約は、自由に夢を拡張する権利……了承して頂けるならカードに手を当てコントラクトと唱えて下さい。』


サラは少し考えこう言った。


『条件を一つ、私にも参加させる事』


フラウは笑顔で頷き

『もちろん、貴方が居なければ何もできませんから。』

と答えた。


契約成立、サラはフラウを抱き寄せた。


『ちょ…なにするの!』

フラウは顔がみるみる紅くなる。


今更になってしまうが、彼女は男の娘が大好きという少々歪んだ性癖を持っている。


『抱っこじゃなくて、カードに手をかざすの!』


フラウは手足をばたつかせて抵抗するが、無駄な抵抗以外の何物でも無い。


その後、どうなったのかは、フラウとサラの二人だけの秘密である……。



それはともかく、これ以降、サラの夢にはシュバルツェアルプの夢魔達が住み着き、現在のイゲルフェストが造られていった。





ふと気が付くと、フラウはサラの膝の上で寝てしまっていた。

普段の総帥としての冷徹な顔からは想像できない可愛らしい寝顔が寝息をたてている。



虚無空間は今日も何処かの夢を蝕み、彼等の住む場所を奪っている。


『どうか、彼等がまた平和に暮らせる時が来ますように……』


サラはフラウの寝顔を眺めながら、そう祈るのだった。

今回は回想中心で、派手な戦闘シーンや戦闘列車の戦いも無しでした……


夢魔達に生存という目的があるように、ボイド達にも何か目的があります。


どちらも正義であり悪は存在しない、そういった部分を作品で描いていけたら良いなと考えています。

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