第2話:巻き込まれる予感、笑いの予告編
授業が始まる直前の廊下は、まだ誰も座席に落ち着いていない。光は教室の前で立ち止まり、カバンの中身を確認していた。筆箱、教科書、水筒……あとは…? ふと横を見ると、三枝真琴が微笑みながらこちらを覗き込んでいる。
「光ー、今日も少し暇そうじゃない?」
「え、いや、普通に授業……」光は答えかけたが、真琴はすでに小さな箱を手にしている。その箱には何か仕掛けられそうな気配が漂っていた。
光は無意識に後ずさるが、廊下の端から黒川凛が鋭い目で二人を見つめているのに気づいた。髪を一つに結んだ凛は、普段の冷静な表情とは裏腹に、わずかに眉を動かして光をちらりと確認する。どうやら、光と真琴の小さなやり取りを黙って見ているだけでは済まなそうだ。
「……あんまりふざけないでよね」
凛の声は冷たいが、どこか微妙な緊張感が混ざっていて、光は内心ドキドキする。
教室に入ると、陽翔がすでに窓際の席に座っており、柔らかい笑顔で手を振った。光はほっとして隣に座ろうとすると、机の下からちょっとした振動が伝わってきた。
「なんだこれ…」光が手探りで触れると、小さな風船のようなものが弾け、軽く教室内に浮かぶ。瞬間、三枝真琴がくすくすと笑っているのが視界に入った。
「わ、わざとだろ!?」光は赤面しながら叫ぶ。
「偶然なんて、あるわけないでしょ」真琴の声は甘くも悪戯っぽい。
その様子を颯が教室の入り口から観察している。鋭い目つきで二人を見つめ、微かに笑みを浮かべる。彼の存在は、まだ何も起きていない教室に少しの緊張感を加えるだけだった。
教壇の方を見ると、雪乃が黒板の前で静かに授業の準備をしている。長い銀髪が光を受けてきらりと光り、何かを見通すような瞳が光と真琴を捉えている。光は思わず背筋を伸ばした。彼女は一切口を開かずとも、その存在だけで空気を支配していた。
授業が始まるベルが鳴る。しかし、光の心の中はすでに小さな嵐が巻き起こっていた。
「今日も、何か起きそうだな……」小さくつぶやく光。その視線の先では、真琴がさらに意味ありげな笑みを浮かべて、何かを隠している。
授業開始のベルと同時に、教室の中に小さな笑いとドッキリの予感が漂う――まるでこの学園の日常が、まだ誰も知らない面白さで満たされようとしているかのように。




