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ショコラ

作者: 桂螢

ショコラの香りを嗅ぐと、今でもとある同級生の男性を思い出す。男性にチヤホヤされない私にとっては、バレンタインより印象深く、忘れがたき思い出である。


高校時代、彼は学校に馴染めず、引きこもりだった。私はというと、当時の恋人と関係がこじれただけで、鬱病を罹患した。高校を運良く卒業し、社会人になると、今度は私が引きこもりになった。息をすることも含め、全てが嫌になったのだ。彼は消息不明だったが、私は他者への心配など、頭の片隅にも置いていなかった。


ある日の午後、神の啓示を受けたわけではないが、唐突に自分の将来を憂いた。「このままでは自滅する」と、危機感が募り、勇気を出して外出に踏み切った。


久方ぶりに長く散歩をした。道すがら、真新しいお洒落な花屋を見つけた。窓辺を飾るトランペットを彷彿とさせる百合の花に吸い込まれるように、アンティークな木目調の扉を開いた。店をぐるりと見渡し、キキョウの花を手入れしているうら若い男性の姿が目に留まると、仰天した。あの高校時代に引きこもりだった彼が、黙々と一心不乱に働いていたのだ。数年振りの再会である。彼も私を覚えていて、私に気がつくと、驚き、緊張した面持ちになった。もっとも、元々繊細で心優しい彼は、私の複雑な事情を承知し、理解していたのだろう。気を遣ってくれた。ありがたかった。


ちょうど今日入荷したばかりだというチョコレートコスモスを薦められた。チョコレートの香りが漂う、ドキッとするほどの深紅色をした個性的なコスモスである。活き活きと働くまぶしい彼と、甘い芳香に励まされた。久方ぶりの鼓舞である。チョコレートコスモスを大切に抱え、帰宅した。私の身体は、何かに導かれるように、引きこもりに特化した公的な福祉団体に電話かけていた。

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