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魚影

作者: りんご汁

初ホラーです。なんかやってるとの話を聞いたのでお試しで投稿します。

クオリティが低いのは気にしないでいただけると幸いです。


 「じゃあ、ばあちゃん行ってくるよ」

俺は祖母に出かける挨拶だけして祖父の唯一残した形見であるオンボロ車に乗り込んだ。すると、祖母はわざわざ玄関まで俺を見送りにやってきた。

「はいはい、裕史、これがダメになったらちゃんと働くんだよ」

そう言う祖母の口調にはどことなく疲れと呆れのようなものが感じられる。その原因が俺にあることぐらいは俺自身分かっているつもりだ。大学を出てからというもの手に職をつけず、日々売れない動画を作ってはネットに上げるだけの生活、当然収益は上がらず、両親に勘当されてから、祖父にそっくりだというよく分からない理由で昔から俺を何かと甘やかしてきた祖母の家で暮らしている。何かと1年以上厄介になっていたが遂に祖母も我慢の限界が来たらしい。

「うん、分かったよ」

俺はそう短く返事してから車を出した。

 俺が作っている動画の内容は主にネットの掲示板に挙げられていた“都市伝説”の検証だ。今まで良さそうなのを見つけては実際に現地に出向く日々を送っていたが、結果は今一つって感じだ。だから祖母にまで働けと言われるのだが。しかし、今回行く“都市伝説”の現場は今までとは少し事情が違う。どうせ最後になるならと思って今回はこれを選んだのだ。その“都市伝説”とは、俺の祖父が数十年前に行方をくらましたという地域周辺にあると言われている、一年中霧雨が降りしきる村、大堤村へ繋がるトンネルが梅雨ごろの水曜日にだけ現れるというものだ。昔から冒険好きで好奇心旺盛な人物だったという俺の祖父はもしかしたらそのトンネルに入ってしまって出られなくなってしまったから、表向きには失踪ということになってしまったのかも知れない。そう考えると不謹慎だがちょっとワクワクした。

 家を出てから3時間もすると、ザ・田舎とも言うべき景色が広がってきた。俺が今運転しているこのオンボロ車は祖父の愛車だったものだ。祖父が失踪した日、祖父は愛車には乗って行かなかった。これには別に特別な理由があるわけではなく、単に車が点検に出されていたがためなのだが、祖父は車も無いのに何故家から遠く離れたこの地にまでやってきたのだろう。そんなことを考えているうちに、チラリとスマホを見ると、案内が目的地までもうそんなに遠くないことを示していた。このオンボロ車は“オンボロ”からもなんとなく察せると思うがカーナビがついていない。だからいつもこうしてスマホをナビがわりにしているのだが、、、今日は運が悪かったらしい。目的地に着く寸前の所でバッテリーが切れてしまった。普通の人ならこんな田舎で独りほっぽり出された暁には大慌て間違いなしだろうが、俺は違う。といっても俺が何かすごい能力をもっているとかではないのだが。実を言うと、この車は祖父が冒険好きな性格をしていたのもあって大量に紙の地図を積んでいるのだ。その中から探せばここらへんの地図ぐらいはすぐに見つかる。まぁ、祖父が失踪した時の地図ゆえに少々古いのが気になるが、大体の場合はなんとかなることが多い。

 その後、無事に付近の地図を見つけた俺は山肌を道に沿って走っていった。そして地形、道のはしる形が掲示板で見たものと完全に合致する場所に来た。“都市伝説”の大半が作り話なことぐらいは分かっている。それでも俺はロマンを求めたかった。そして、、、

「お、本当にあるじゃん!」

思わず声が出てしまった。無いと分かっているからこそ見つけてしまった時にどうしようもないほどの興奮に襲われる、“都市伝説”を追うというのはこういうことなのだ。レンガ製の車一台が通れるか通れないかというぐらいに小さなトンネルの上には石製の看板に確かに「大堤村」と彫られていた。そのトンネルは長そうな上、薄暗く、ライト一つ付いていやしない時点で少し不安だったが、俺はゆっくり慎重にトンネル内へと車を進めていった。

 百メートル以上は走った頃だろうか、トンネルがやけにくねくねしていたせいでとんでもなく運転しづらかったが、ようやく出口らしきものが見えてきた。やがて、トンネルを抜けると確かに霧雨が降っていた。トンネル内の閉鎖的な環境から解き放たれた俺は、雨でもいいかと外の空気を吸うために車の窓を開けた。そしたら想像以上にじめじめとしていて耐えられなくなり、すぐに窓を閉めたが、車内にまでじめじめが侵入してくる。霧雨が常に降っているからと言われて試しに持ってきておいた湿度計の針はいつの間にか振り切れ、助手席に放っておいた地図はふにゃふにゃになっていた。かといって、他にどうしようもないので結局俺はじめじめした車内に嫌気がさしながらも運転を継続した。

 しばらく道なりに沿って進むとようやく「大堤村」と大きく書かれた、そこらじゅう緑に覆われた木製の看板が見えてきた。それを過ぎ去ると、あたりにはボロボロになった民家と稲も作物も植っていない耕作地が広がっていた。薄々勘づいてはいたが、こういった“都市伝説”の正体は大体廃村とかと相場が決まっている。取り敢えず、動画を撮ろうといつも通りにビデオカメラを回しそうとしたが、使い古し過ぎたのか壊れてしまっていた。仕方ないが、こうなってしまえば正直打つ手は無い。俺は少し落胆しながらも引き返すためのスペースを探した。そうしてまたしばらく走っていると、舗装が途切れ林道につながりそうな道が出てきたところで車が止まってしまった。

「ったく、だからこのオンボロは」

俺は仕方なく傘をさして車から降り、ボンネットを開けた。すると、俺がエンジンやらを調べ、何が原因か突き止めようとしていたその時だった。何か後ろから妙な気配を感じ取ったのだ。しかし、後ろを振り向いてもそこには誰もいなかった。それでもその奇妙な気配に興がのった俺は一度車の修理をやめ、気配が消えていく先だとしたらここだろうという林道へと慎重に進んでいった。

 どれくらい歩いただろうか、車はもうとっくに見えなくなり、周りを囲むのは枯れた木ばかり、中には折れているものも多くあった。しかし、歩き回った末にあったものはせいぜいボロいハンカチ一枚ぐらいで、俺も流石にもういいだろうと思い、帰ろうと振り返ったとき、再び似たような気配がした。それも一つや二つじゃなかった。ざっと十数には囲まれている。今度こそと思い振り返るとそこには予想外のものがいた。

「………魚影?」


 「はぁ、はぁ、なんなんだあいつら、はぁ、数は多いわしつこいわで、いったいどうなってやがる」

逃げまわった俺の足はもうとっくに限界を迎えていた。鬼ごっこはもう懲り懲りだ。それでも奴らは執拗に追いかけてくる。俺は持っていたものを落としてしまうぐらいには必死に逃げ続けた。そして、なんとか林道の出口が見えてきた。

「あ、あ、あそこを出れば」

そうして林道を出ると、そこには一台の車が止まっていた。

「あれは、、、俺の車!」

俺は運がまわってきたかと神に感謝しつつ、車へと飛び乗った。幸いなことに鍵はついていた。少しエンジンのかかり具合が悪かったが、何度かやれば走れるようにはなったので、俺はすぐに来た道を走り帰って行った。

 命からがら何とか逃げ帰ってきた俺は家の扉をノックした。おリョウは出かけていなければ家にはいるだろう。やがて奥から声がして、出てきたのはどこかおリョウに似ているが見知らぬばあさんだった。すると、ばあさんは俺の方を向くやいなや突然泣き出してしまった。

「おいおい、誰だか知らんが泣くなっての」

俺がそう言っているにも関わらず、なぜかそのばあさんは俺に、「お帰りなさい、お待ちしていましたよ、ホントに長くお待ちしていましたよ」と訳の分からぬことを言って俺を家の中に上がらせた。普通ならば、自分の家なのだから怒鳴ってでも追い出すべきなのだろうが、不思議とそのばあさんを追い出そうという気に俺はなれなかった。それは、このばあさんがおリョウに似ていたからかもしれないし、我が家がどこか異質な雰囲気を醸し出していたからかもしれないが結局その場で結論を出すことはできなかった。

「夕餉にいたしますね」

俺がまだ頭の整理を終えぬうちに、ばあさんは涙を指で拭きながら、それだけ言って厨房のある方へと向かっていった。それで、仕方なく居間の襖を開いて中に入ると俺はひどく驚いた。

 そこには俺の記憶にある居間の景色に混ざっていくつか珍奇なものが置かれていたし、テレビらしき物は俺が知っていたものより遥かに薄くなり、部屋の隅に置かれた扇風機はひどく小さくなっていた。部屋中を歩き回っても俺は戸惑うばかりだったが、とりあえず、いつも通りにテレビ裏へと手を伸ばし、それらしきスイッチを押してテレビをつけた。そうすると意外にもばあさんがすぐに夕飯を持ってきた為、不気味ににこにこと笑うばあさん横目に2人で夕飯をとった。

「そういえば博さん、ヒロシはまだ帰って来ないのかねぇ」

「………俺はここにいるじゃないか」

俺は困惑しながらもそう返した。もはや、ばあさんが俺の名前を知っていることなど気にもならなかった。


〈ここで速報をお伝えします。先日から補修工事が行われていた堤の杜ダムですが、ダム湖の湖底から白骨死体が見つかったことで一時工事を中断することが決まりました。また、付近からは“ヒロシ”と刺繍されたハンカチも見つかっており、警察は死体との関連を調べると同時に、死体の骨の状態が殆ど劣化していないことから死亡後、誰かによってダム湖へ遺棄されたのではないかとみて捜査を進める方針です。〉


俺はばあさんと目を見合わせた。


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