第四話 地球 ミレーユの誕生日
場所:アメリカ 国立看護大学 校舎内
アメリカ東部、春の陽気が漂う午後。
ミレーユの教室の前には、花束とプレゼントを抱えた学生たちが集まっていた。
「ミレーユちゃん、誕生日おめでとうございます 」
学生たち「おめでとう〜!20歳だね!」
「いつ会ってもほんっとに綺麗だよ……ミス・キャンパス!」
男学生が恥ずかしそうに花を差し出す。
「ありがとう」
ミレーユはにっこりと微笑んで受け取る。
だがその瞬間、鋭い声が飛んだ。
「ミレーユにそれ以上近づいたら……お兄様に殺されるわよ」
ミレーユの親友であるレイチェルが、男学生の前に仁王立ちする。
「え、あの超絶イケメン、マーシャル将校の妹さんって本当だったのか……」
「兄からプレゼントが届いてるはずなんだけど……」
ミレーユは小さくつぶやいた。期待と寂しさが入り混じる。
「ミレーユちゃん、夜にどっかでパーっとやらない?」
「ごめんなさい。今日は……大事な日なの。家に帰るわ」
「ほらほら、狼どもは帰った帰った!あんまりしつこいと密告するからね。お兄様に。射殺されたい?」
レイチェルの目が本気だった。男子たちは一斉に退散する。
「そーですね……じゃ、また明日〜!ミレーユちゃ〜ん、愛してる〜!」
しばらくして、キャンパスの裏門に出る。
レイチェルがミレーユと並んで歩いている。
「ミレーユって、誕生日になると暗くなるよね……」
「うん……昔から、誕生日って……ただ歳を取るだけの日じゃないの。思い出すから……」
「お兄様のこと?」
「そう。約束してたの。『20歳の誕生日には必ず帰ってくる』って……」
レイチェルは沈黙した。歩道の先にあるタクシー乗り場まで、しばし無言で歩く。
場所:ミレーユの自宅・屋根裏の部屋
暖炉の火が優しく灯る、木造の古い屋敷。
部屋の一角に、届いたプレゼントの箱があった。
ミレーユはそれを開けて、中から出てきた銀色のブレスレットを見つめる。
「……これが、兄さんから……」
だが、その手紙はなかった。
「また……言葉もなしに、物だけ。どうして、戻ってきてくれないの?」
怒りが、にじむ。
「大義のため?戦争のため?そんなの……家族より大事なの!?」
ミレーユの声は、誰もいない部屋に吸い込まれていく。
夜。部屋の窓辺にて
外は星が瞬き、静かな風が吹いている。
窓辺に座るミレーユは、左腕の貝殻のブレスレットにそっと口づけをした。
(アクス……生きてるの?今、何をしてるの?)
(あなたがくれたこのブレスレット……ずっと、身につけてる。あなたの匂いが残ってる気がするの)
(どうして連絡してこないの?あの夜、約束したよね。私の誕生日に……会おうって……)
ふと、机の上にある写真立てを見る。
そこには、軍服姿の兄マーシャルが写っていた。
「大好きな兄さんも、アクスも……私の前から、みんないなくなってしまった……」
(でも私は……ずっと待ってるよ、アクス)
窓の外、夜の星空に向かって、ミレーユは小さくつぶやいた。