第三話 手荒な輸送
トラクターのエンジンが「ゴトゴトッ」と唸りを上げ、赤土の山道をゆっくりと登っていく。
荷台にはアクス、イーグル、ディックの3人が揺れながら乗り込み、積まれた資材や燃料タンクがカタカタと音を立てていた。
照りつける太陽の下、遠くの稜線には酒泉衛星発射センターの通信塔が小さく見える。
「そーいえば、ドミノのおっさん、家族はいるの?」
イーグルが背もたれ代わりのコンテナに腕をかけ、気軽に声をかけた。
「娘が3人おるわ。こないだ休暇であってきたが、大きくなっていた。子供は勝手に育つな」
ドミノ曹長は、風に揺れる麦わら帽子を押さえながら笑った。
「3人!モテモテじゃないですか〜!写真とかあるんですか?」
ディックが身を乗り出す。
「運転席のハンドルの横に貼ってあるわ。いつも一緒だよ」
「おー!キュートガール!お父様、会わせてくださ〜い!」
イーグルが両手を合わせて拝むような格好をする。
「会わせるわけないだろが!軍人なんてもってのほかだ!」
ドミノ曹長は片手でハンドルを握ったまま、もう片方の拳を振り上げた。
「やっぱり、軍人は親に嫌われるんだろうなぁ」
アクスがぼそりと呟く。
「そりゃそうだ。死んでしまえば、お終いだからな。階級が特進したところで、遺影が増えるだけだ」
ドミノの声が一瞬、低くなる。
「・・・・・」
アクスが口を閉じ、遠くを見つめた。
「・・・・」
ディックも黙って空を仰ぐ。
重い空気を感じ取ったイーグルが、わざと明るい声を出した。
「私は生き残って、このキュートガールに会いに行きまーす!」
「会わせないって言ってるだろうが!馬鹿どもが!」
「がはははは!」曹長が笑い飛ばす。
「でも、曹長の娘さん、きっと強い女性なんでしょうね」
「そりゃあそうだ。ワシに似て、口も手も早い!」
「それは……怖いかも」
ディックが小声で呟き、イーグルが肘でつつく。
「おい、聞こえたら撃たれるぞ」
「なにゴチャゴチャ言ってんだ!もう少しで峠越えだ!覚悟しろ、トラクターが跳ねるぞ!」
「えっ!? うわぁぁぁ!!!」
荷台の3人が一斉に飛び上がる。ガタンッ!とトラクターが岩を越え、マグナムの部品が「ガシャーン!」と音を立てた。
「おいおい、このトラクター、大丈夫なんですか!?」
「心配するな!この“レッドドラゴン号”はまだまだ現役だ!」
「ネジ、落ちましたけど!」
「それは“勇気のネジ”だ!気にするな!」
ディックが苦笑いを浮かべる。
「勇気って便利な言葉ッスね……」
「曹長、この山道、長いんですか?」
アクスが尋ねると、曹長は後ろを振り向かずに答える。
「もうすぐだ。峠を越えたら、酒泉の発射台が見えてくる」
「おぉ、やっとロケットかぁ!早く打ち上げたいですね!」
イーグルが両手を空に伸ばす。
「焦るな、若造。宇宙は逃げん。だがな――時間は待ってくれん」
その一言に、アクスたちは思わず黙り込んだ。
やがて、夕陽が差し込み、赤い山肌が金色に染まっていく。
トラクターの影が長く伸び、風が心地よく頬をなでた。
「……ドミノのおっさん、娘さんたち、見てるといいな」
「ん? なんだ?」
「俺たちが、何のために宇宙へ行くのか。ちゃんと、伝わるといいなって」
ドミノ曹長は少しの間、黙っていた。
そして、ハンドルを握る手に力をこめ、
「伝わるさ。お前らが生きて帰ってくりゃな」とだけ言った。
トラクターはそのまま、夕暮れの山道を登っていく。
その先には、酒泉衛星発射センター。
そして、火星へ向かう新たな戦いが、待っていた。




