第十三話 決戦ウルル―血と炎の渦
砂塵が舞う赤い大地、ウルル。
破壊王 グリズリー の怒りが空気を震わせる。妻シャウラを奪われたその瞳は憎悪に赤く燃えていた。
アクスたちは冷静に息を整えた。
「今だ……メテオストライク、全弾発射!」
ディックのミサイルアーミーが空へ、地へ、雨のように弾を降らせる。
「ぐおおおおおおっ!」
サムソンボンバーは腕で防ぐが、爆風が大地を裂き、岩が粉砕され、砂煙が視界を遮る。
アクスは背中に手を置いたイーグルのマグナム ブルーバード と一体化し、次の攻撃準備に入る。
「アルティメット、発動……!」
右手に巨大リボルバーを構え、全身で衝撃を受け止めつつ、連射――
「1発目!2発目!3発目!4発目!」
グリズリーのマグナムは弾を受けるたびに歪み、変形する。
その目からは、悲痛と怒りが入り混じった叫び。
「シャーウーラー……子供達、すまない……!」
続けざまに「5発目!、6発目!、7発目!」
爆風が大地を抉り、アクスのマグナムは衝撃で100メートルほど吹き飛ぶ。
轟音と振動が岩を砕き、砂塵が渦を巻く。
空気が爆ぜ、雷鳴が轟く。
「そして――8発目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「アルティメット!消えろ、哀しみと共に!」
引き金が引かれた瞬間、全ての音が消えた。
世界が一瞬、静止する。
その一秒後、
天地を貫く閃光が爆裂した。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
ボオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーン!!!!
砂煙が晴れた瞬間、そこに残ったのは、
静寂と、破壊の跡。
グリズリーのマグナム、サムソンボンバーは完全に消滅していた。
一方、バーバラとマーシャルの戦いは死闘を極めていた。
赤いフラメンコのような レッドパッションダンサー が宙を舞い、ナイフが閃光を切り裂く。
「うわぁああっ!」
マーシャルはゲイボルグを縦に構え、槍の束を破裂させて防御する。
「ゲイボルグ・ジャスティス!」
槍の雨が降り注ぎ、バーバラの機体は無数の突きで身動きできなくなる。
「う……踊りはここまでか……」
バーバラはそれでも立ち上がり、瞳には傭兵としての意地と誇りが宿る。
「大佐、私にも戦う理由があるんだ……!」
だが、最後の一撃が迫る
爆炎が舞い、機体は炎に包まれ、ついに爆発。
「すまない、バーバラ……」
マーシャルはマグナムから降り、静かにアクスを見据えた。
「アジトにミレーユがいるはずだ。アクス迎えにいってやれ。
場所は山奥にある。昔バーバラが教えてくれた。」
夕闇が山の稜線を黒く染めるころ、アクスたちは山道を降りていくようにしてシャウラの隠れ家へ向かった。
木立の間を抜ける風は冷たく、鉄と油の匂いが混じった戦の匂いがまだ地面に残っている。レッドオーシャンの砲塔を締め、ブルーバードは低空でホバリング、ミサイルアーミーは慎重にキャタピラーを滑らせる。ディックは最後の配線をチェックしてから小さく頷いたキャタピラーの損傷は応急処置で動く程度に直してある。
「目標はこの辺りのはずだ。バーバラが昔話してくれたって場所だろ?」
アクスが地図と太陽の位置から位置を確かめる。イーグルが高い岩の上に上り、周囲を見渡した。
静けさ。だが、そこに「生活の音」は確かにあった。遠くで誰かが子どもを呼ぶ声、鍋をかき混ぜる小さな音。隠れ家は古びた木造の小屋で、気取った要塞ではない。シャウラの“家”は、戦の傷跡をうまく隠すように山の地形に溶け込んでいた。
「まずは静かに行く。民間人を巻き込むな」
マーシャルの言葉が短く現場へ降りる。アクスはうなずき、三人は分担して進入の準備をする。イーグルは上空で見張り、ディックは遠隔でセンサーを走らせる。マーシャルは接触チームを率いる形で木戸に近づいた。
扉には外から手の加えられた跡がある。薄い布のカーテンが揺れて、なにやら小さな足音。アクスは銃口を下げ、ゆっくりと扉を押した――勢いよく開ければ子供たちに恐怖を与える。
中は狭く、簡素だが暖かい灯りが灯っていた。囲炉裏の残り火と、焦げた鍋の匂い。小さな影が三、四つ動いている。子どもたちだ。顔は埃で汚れているが、目には生気が残っている。シャウラの子供たち――小さな鎧やおもちゃの武器を抱えて、こちらを見上げた。
「だ、誰だ…?」ひとりの少女が震える声をあげる。
アクスは両手を見せてゆっくりと歩み寄る。銃は下げたまま、しかし視線は鋭い。
「俺たちは味方だ。誰も傷つけない。お前たちを安全な場所に連れて行く。」
マーシャルの声音は低く、説得力があった。子どもたちは目を見合わせる。ほんの一瞬の沈黙の後、最年長らしい少年が一歩踏み出す。
「シャウラは?」
その問いに、アクスの胸に小さな石が落ちた。返事をする代わりに、マーシャルがゆっくりと首を振る。子どもたちは一瞬で顔色を変え、赤ん坊のようにすがりついてきた。
「大丈夫だ。君たちはまず安全な場所に行く。修道院に預ける手配はつけてある」
マーシャルがそう言うと、子どもたちはようやく涙をこぼした。アクスはその様子を見て、拳をぎゅっと握りしめる。戦場の男が見せる、とても小さな慈しみの時間だった。
小屋の奥の棚に、古い木箱が無造作に置いてあった。アクスがそれに気づいて近づくと、箱の中に革で包まれた書簡が見えた。封印は一見してただの政府文書とは違う。大統領の紋章と、軍用の暗号スタンプ。期待と緊張が一瞬にして交錯する。
「それだ……これが大統領の書簡か?」
ディックが無造作に包を開き、中の紙を取り出す。インクの文字は粗めだが、内容は重要さを滲ませている。マーシャルの表情が瞬時に変わった。書簡は機密の交渉メモと、ある高位将校への「密使としての手渡し」を指示するものだった受取人の名前が、火星軍のある要職に一致している。
「中身は……想像以上だ。これが公に出れば、双方の主導権が一気に動く」マーシャルは低く呟く。アクスの胸で鼓動が速くなる。ミレーユはその封筒をぎゅっと抱きしめ、顔を上げた。目に涙が宿っているが、その表情は安堵に近い。
一方で、シャウラの子どもたちはじっとアクスたちを見つめる。生き別れの親を追ってここに残された子らの目は、戦争が彼らに奪ったものの大きさを語っていた。アクスは無言で頭を下げ、子供たちの肩に触れる。力のある温もりが、ほんの一瞬だけ彼らを落ち着かせた。
「修道院への移送はここから南に四時間の旧道だ。夜を利用して移動しよう」マーシャルが指示を出す。イーグルは尾翼をわずかに動かし、上空で見張りを続ける。ディックは子どもたちに簡単な毛布と乾パンを手渡し、困った顔を笑顔に変えようと必死だった。
荷の準備が整うと、ミレーユはアクスに向き直った。声は小さいが確かだった。
「兄が……頼んだんです。あなたに渡してほしいと」
彼女は封筒を軽く握りしめる。アクスはその手を取り、しっかりと受け取る。二人の間に言葉は要らない。動かない戦場でも、伝わる想いがある。
夜道を進む車列は、慎重に影の中を移動する。修道院に着くと、助けを待つ人々がいた。修道女たちは震える子どもたちを迎え入れ、静かに祈りの声を上げる。シャウラの子供たちは、初めて安らぎを見せたように、肩を寄せ合った。
出発前、ミレーユは小さな祭壇の前で、短く祈った。
「行ってきます。そして、終わらせます」彼女の声は震えたが、瞳は確かな決意で満ちていた。アクスは背後で拳を握り、山の闇の向こう、火星へ向かう道を思った。
彼らが去った後、小屋の片隅には使い古した布や、子どもたちが作った小さな人形が残された。戦いの傷は消えない。だが今、ひとつの家族が救われ、ひとつの書簡が守られた。風が流れ、山の木々が静かにざわめいた。
振り返れば、戦場は静まり返っていた。
しかし、マーシャルとバーバラの姿はもうそこにはない遺体も、痕跡も消えていた。
アクスは宇宙服に身を包み、仲間たちと共に宇宙へ向かう。
火星への旅立ちは、まだ終わらない。
血と涙と爆炎の記憶を胸に、彼らは次なる戦いに向かう。




