第三話 アマードコア操縦訓練
場所:火星マーズ・ヴィクトリー陸軍訓練所/演習場
火星の空は、赤黒い砂嵐を残しながら晴れ間を覗かせていた。冷たい金属の響きが演習場に響き、アマードコア同士の模擬戦が始まっていた。
「なにをやっとんだ!ディック! 大破のランプがついてるぞ! リタイヤだ!!」
軍教官の怒声がスピーカー越しに訓練場中に響き渡った。
モニターに映るのは、白煙をあげて膝をつくディックのアマードコア。右脚が損壊している。
「す、すいませんですぅぅ……メインCPU、焼けたかも……」
ディックの声は弱々しく、モニター越しにも分かるほど意気消沈していた。
「どけ、ディック! 俺がやる!」
アクスの怒鳴り声がスピーカーに乗って、響き渡る。
アクスの真っ黒なアマードコアが重い足取りで前進。練習用の無人ターゲットロボットが迎撃モードに切り替わり、火を吹いた。
「ダダダダダッ!!」
マシンガンの連射音が金属の大地に跳ね返る。アクスの機体は低く身を沈め、弾を避けつつ後退した。
「くっそ……!近づけねぇ……!」
汗が額を伝う。アクスの前に立ちはだかるのは、旧式ながらも火力だけは一級品の標的ロボット。
「ノンノン♪ 脳みそ使わないとね~、馬鹿力アクスくん!」
横から軽口を叩きながら割り込んできたのは、金色のラインが入った青のアーマードコア。
「うぜぇー奴が来たぜ……」
アクスは思わず舌打ちした。
現れたのはイーグル。あの、口数多く、妙にテンションの高い自称モテ男。機体にはなぜか“ELVIS”のステッカー。
「よう、男前くんたち! ここはイーグル様が華麗にキメてやるぜ!」
「お前、目立ちたいだけだろ!」
「左右から挟み撃ちにしない、怪物くん? その頭じゃ無理かなぁ~」
「いいだろ、どっちが先に沈めても恨みっこなしだ!」
「オッケー、頂きマントヒヒー♪」
「……(寒っ)」
アクスは思わず目をそらすが、タイミングは合わせた。
二機のアマードコアが、練習機を中心に円を描くように突進。
「ファイアーーー!!」
「ぶっ放せぇぇ!!」
ガトリング砲が両方向から火を吹く。標的ロボットのシールドが閃光と共に崩れた瞬間、イーグルの機体が跳び上がった。
「エア・スラッシュ・フィニッシュぅぅう!!」
イーグルのレーザーソードが宙を裂いた。
ドガアアアアァァン!!
大爆発。火の粉が空に舞い、標的ロボットが見事に炎上。破片が演習場に降り注ぐ。
「よっしゃああああああああ!」
「ブラボー俺っ!!ハリウッドもビビるぜぇぇぇ!!」
「うるせぇよ、バカ……でも、ナイスだったな」
アクスがぼそっと笑う。
「でしょ? 惚れちゃダメだぜ、野郎でも!」
「誰が惚れるか!!」
笑い声が二人の間にこだました。
その瞬間、スピーカーから軍教官の怒号が飛んできた。
「うるさいぞお前らああああ! 早く帰還しろ! 飯抜きにするぞ!」
「げっ、それは困るっ! 俺は腹が減るとダメなタイプだ!」
「じゃあ急げ!」
火星の大地に、沈みゆく赤い夕日が照りつける中、二人のアーマードコアが訓練施設へと駆け戻っていく。
地面には焼け焦げた金属の残骸と、若き兵士たちの情熱だけが残されていた。