第七話 兄の頼み
ミレーユの家。
「兄さん、お帰りなさい。いきなりの帰宅ね。休暇でももらったの?」
ミレーユはハーン将軍の口を押さえながら、慌てて声を潜めた。
「お前は……役立たずの地球軍……モゴモゴ」
「フギャアアアア!フギャアアアア!」
ハーン将軍はアインシュタインを追いかけ、隣の部屋へ逃げていった。
「向こうで、アインシュタインと遊んでなさい。」
ミレーユは深呼吸して、兄に向き直る。
「……兄さん、軍を退役してきたの?」
マーシャルは静かに頷き、目を細める。
「そうだ。もう、地球軍の高官にはならない。」
「えー?!でも、兄さん、軍の高官になるのが夢だったじゃない。」
ミレーユの声には驚きと不安が混じる。
「夢より、今やるべきことを選んだんだ。」
マーシャルは窓の外を見つめ、沈黙を破った。
「私は今からオーストラリアに行く。二度と戻れないかもしれない。」
ミレーユはその言葉に胸が詰まり、思わず目を伏せた。
(こんな、真剣な兄を見るのは、あの時以来……)
「ここに、大統領の書状がある。」
マーシャルは封筒を差し出す。
「中身は言えないが、重要なものだ。アクスと接触して、火星軍の総監に渡してもらう。」
「火星軍の内部に、内通者がいるのね……直接手渡すしかないのね。」
ミレーユは覚悟を決めるように頷いた。
「アクスはオーストラリアにいる。空港内で、連絡要員も手配してある。」
「兄さん……これから何が起きるの?」
ミレーユは涙をこらえながら聞いた。
マーシャルは小さく息をつき、彼女の肩に手を置いた。
「この戦争を終わらせるんだ。私たち3人で力を合わせて。」
「……私たちの家から、この戦争は始まったんだね。」
ミレーユの声は震えていた。
マーシャルは力強く頷いた。
「そして、ここから終わらせる。」
しばし、二人は黙ったまま見つめ合う。
部屋には静寂が流れ、外ではアインシュタインが小さく鳴く声だけが響いた。
飛行場にて
「ミレーユ……君は、僕たちの信念を信じられるか?」
「……はい。兄さん、私も、あなたと一緒に戦います。」
マーシャルは封筒を握りしめ、ミレーユに微笑んだ。
「では行く。気をつけろ、空の旅は危険がつきものだ。」
「兄さん……」
ミレーユは涙をこらえながら手を振った。
マーシャルは輸送機へ向かう足を速めた。
マーシャル専用機 アマードマグナム
機体名:ホワイトナイト
聖騎士をイメージして作られたバランスの良いマグナム。
ゲイボルグの槍はいかなるものも貫き、ジャスティスの鉄槌を下す。
マーシャルは操縦席で深呼吸し、心の中で誓う。
(俺たち3人で、この戦争を終わらせる……絶対に)
輸送機の飛行機のエンジンが唸りを上げ、ホワイトナイトは滑走路を離れた。
ミレーユは地上から手を振り続ける。
涙でかすむ視界の向こうで、兄の背中がどんどん小さくなっていった。




