第九話 上海・戦士たちの休暇
長江の激戦を制し、火星軍はついに曹操の魏の主力部隊を撃破した。
その報せは世界を震撼させ、火星軍は上海にて補給を行うこととなった。
さらに新たな戦闘員が続々と到着し、兵力は七百万へと膨れ上がる。
それは勝利と緊張の狭間に与えられた。
たった三日間の休息。
「中国人と英知な国際交流してきまーす! チャイナドレスサイコーね!」
イーグルは軽快にバイクを吹かし、上海の街へ飛び出していった。
ヘルメットの後ろに翻る火星軍の紋章が、陽光にきらめく。
アクスとディックは、街の喧噪を遠くに眺めながら歩いていた。
摩天楼の隙間を風が吹き抜け、ネオンサインの残光が昼の街にも漂う。
「僕はね、新しいマイクロチップを探しに行くんだ。
性能が二倍のやつ。センサー系を改造すれば反応速度も上がる。」
ディックが電子部品のリストを広げながら言った。
「お前はほんと、戦争中もマニアだな。」
アクスは苦笑した。
「アクスは行かないよね?」
「……たまには一緒に行くか。」
ディックはぱっと顔を上げ、嬉しそうに笑った。
「なんかいいことでもあったの? o(^▽^)o」
「別にねえよ。」
本当は、あった。
アクスの胸ポケットには、一通の封筒が入っていた。
淡い香りのする手紙。ミレーユからのものだ。
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親愛なるアクスへ
お手紙ありがとう。私も愛してるわ、アクス。
写真を送ります。アクスも写真を撮って送ってきてね。約束よ。
兄はアメリカへ呼び戻されました。しばらく会えないけれど、
私は信じて待っています。
そうだ、手編みの手袋を作ったの。送ります。
愛を込めて。
ミレーユより
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アクスは無言で手袋を見つめた。
深紅の糸で丁寧に編まれたそれは、戦場の鉄と火薬の匂いの中で異様にあたたかかった。
「その手袋は何だい?」
ディックが不思議そうに首をかしげた。
「……別にいいじゃねえか。」
「今日は暑くないかい? それ、冬用だよね?」
「そういう気分なんだよ!」
アクスは赤面しながら立ち上がる。
「カメラ買いに行くぞ! カメラ!」
「スマフォでも撮れるよ?」
「もっといいやつで撮りたいんだよ!」
ディックは吹き出した。
「わかった、付き合うよ。たまには人間らしい趣味もいいね。」
二人は上海の電気街へと自転車で向かった。
露店が並び、客引きの声が飛び交う。香辛料の匂いと、どこか懐かしい音楽が混ざる。
アクスはカメラ売り場のショーウィンドウに立ち止まり、
レンズ越しに映る街の人々をしばらく見つめた。
カメラを購入
笑い合うカップル、走る子ども、空を舞う赤い風船。
そのすべてが、どこか遠い世界のように思えた。
夜。基地に戻ったアクスは、机の上に便箋を広げた。
だが、ペンを握ったまま、何も書けなかった。
....
今の自分の言葉では、彼女に届かない気がした。
アクスは静かに手紙をたたみ、封筒の上にミレーユの手袋を置いた。
窓の外では、上海の夜景がまるで星空のように輝いていた。




