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第一話 火星軍訓練所

西暦2247年。


薄紅色に染まる空の下、赤い砂嵐が吹き荒れる大地に、訓練用のサイレンが乾いた音を響かせていた。ここは火星の都市「マーズ・ヴィクトリー」。地下資源によって発展したこの都市の郊外に、「火星陸軍訓練所」は存在する。


砂嵐の中、ひときわ目立つ黒い訓練ドームに遅れて走ってくる男がひとり。


ゼエゼエと息を切らせながら、その男、アクスは訓練場の中央へと飛び込んだ。


挿絵(By みてみん)


「アクス! 貴様、集合時間に10分も遅刻か!」


ドスの効いた怒号が響く。口ひげを蓄えた筋骨隆々の教官が、指をピシリと鳴らす。


「はい!教官どのッ!」


アクスは背筋を正して敬礼する。汗に濡れた短髪がぴたりと額に貼りついている。


「よし、ならば罰を与える。スクワット100回、腕立て伏せ200回だ!地面がめり込むまでやれ!」


「了解であります!やらせていただきます!」


アクスは即座に地面へ体を落とし、スクワットを始める。


「1! 2! 3!」


「声が小さいぞぉ!貴様のその情けない声じゃ、地球には届かんぞぉ!」


周囲の訓練兵たちは苦笑いを浮かべながら、それでも誰も助け舟を出さない。


(またアクスの奴、やられてんな……)


挿絵(By みてみん)


そうつぶやいたのは、細身の眼鏡の青年ディック。彼もまた第24陸軍部隊の訓練兵であり、アクスの親友だ。


「ディック!おしゃべりが過ぎるぞ! 貴様もアクスの横でスクワットだ!」


「ア、アイアイサーッ!」


細い腕を上げて敬礼しながら、ディックは泣きそうな顔でアクスの横へ移動した。


「マジで?俺、筋トレ嫌いなんだよぉ……マッチョまん」


「しゃべってないで動け、ディック!」


「へいへい、121・122・123……はああ、キツいってばよ……」


訓練場の地面は、赤茶けた火星の砂でできている。歩くだけでズブズブと沈むその地を、アクスはまるで獣のような目で睨みつけ、歯を食いしばりながらスクワットを続けていた。


(なんで俺は、こんな場所にいるんだ……)


15年前、地球。突如起きた爆発と銃声。 地球政府要人宅の中で気を失った彼は、気がついたとき火星にいた。テロリストによって地球から連れ去られたことは、今では遠い記憶のように霞んでいる。


気づけば、20歳になっていた。


「いいか馬鹿ども!今日は重要な講義だ!スクワットしながら聞け!」


軍教官が大声で言いながら、黒いシートをはがす。中から姿を現したのは、黒球体の奇妙な機体だった。


「これが、来年から戦場に実戦投入される予定のアマード・コアだッ!」


ざわ……と訓練兵たちがどよめく。


人型兵器【アマードコアDATA】

全高:2.5m

重量:5.6トン

装甲厚:0.6~1.4cm

胸部:球体コクピット搭載


挿絵(By みてみん)


黒光りする球体ボディの左腕にはガトリング砲、右腕にはレーザーソードが装備されていた。


「左の操縦スティックで照準、右で近接戦闘だ。胸の球体を回転させると中に乗れる。」


「……あれが、ぼくちんの棺桶か……」ディックがひそひそとつぶやく。


「……おもちゃみてぇなマシンで殺し合いか……」アクスも低く、誰にも聞こえない声で言った。


教官が鋭く叫ぶ。


「明日からはこのアマードコアを使った訓練を開始する!全員、覚悟しておけよ!!」


赤い空に響く怒号、火星の風が舞い上げる砂。


その中に、アクスの額から落ちたひと粒の大きな汗が静かに火星の大地の地面へと吸い込まれていった。



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