第四話 砂塵の制空戦 ― インド戦線の空にて
まだ空は群青色。
テントの外では風が砂を巻き上げ、遠くで機体の整備音が響く。
アクスは無言でヘルメットを被り、レッドオーシャンのコックピットに乗り込む。
イーグルは軽口も叩かず、黙ってブルーバードの翼を確認した。
ディックはミサイルの最終ロックを終え、そっと呟いた。
「……戻ったら、みんなで何かうまいもんでも食おうぜ」
誰も返さなかった。
それぞれの瞳に、わずかな恐れと、確かな覚悟だけがあった。
やがて、司令塔の赤信号が点灯する。
発進。
轟音と共に、三機の試作型マグナムが、夜明け前の空へと飛び立った。
砂塵を切り裂き、朝日を背に。
戦いの幕が、静かに上がった。
夜明け前、インドの平原はまだ冷たい風に包まれていた。
だが、その静寂は長くは続かなかった。
東の地平線が赤く染まり始めると同時に、轟音が大地を揺らす。
薄い霧と砂塵の中、両軍500万の兵が対峙していた。
地平線が燃えるような朱に染まり、太鼓の音が響く。
ドンドンドン
中央から突き進むのは、蜀軍の“四霊獣部隊”。
4体の専用マグナムが大地を震わせ、戦場を切り裂いた。
【白虎】馬超
砂を蹴立て、四足歩行の白虎が獣のように走る。
爪が地面をえぐり、突進の衝撃で火星兵が次々と吹き飛ぶ。
装甲車両がまるで紙細工のように弾け飛んだ。
「うわああっ!来るな!化け物めぇっ!」
白虎の咆哮が響き、兵士たちは逃げ惑う。
馬超は通信越しに笑った。
「人間ごとき、牙で十分だ!」
【玄武】張飛
その背後では、黒鉄の巨体・玄武が重々しく進む。
ビーム弾が降り注ぐが、分厚い甲羅が全てを弾く。
ガン、ガン、ガンッ!
鎖鎌が振り抜かれ、火星軍の歩兵部隊が一線ごと消えていく。
人もマグナムも、血煙と金属片の中に飲み込まれた。
「動くなァ!一網打尽だァ!」
分銅が飛び、アーマドマグナム一機が真っ二つに裂けた。
通信に悲鳴とノイズが混ざる。
【青龍】関羽
空からの援護を狙って降下するイーグルの【ブルーバード】を、
青龍刀の光が貫いた。
「当たらんわ!」
次の瞬間、ビームが横殴りに走り、
ブルーバードの左翼が爆ぜる。
「ぎゃっ……!? くそっ、コントロールが――!」
青龍の関羽は、冷ややかに一言だけ残した。
「天を舞う者、地に堕ちよ」
その眼差しはまるで神の裁きのようだった。
【朱雀】劉備
上空では、火焔をまとう朱雀が旋回していた。
翼を広げ、空気を燃やしながら火線を描く。
地上の火星軍部隊が焼け焦げ、黒煙が上がった。
「空を切り裂くは、我が朱き翼!」
イーグルの機体が限界まで上昇し、
アクスの【レッドオーシャン】を投下する。
「行くぞ、アクスちゃん、空で散るなよ!」
「任せろ!」
レッドオーシャンが朱雀の真上に突入する。
右腕のリボルバーが火を吹いた。
「喰らえぇッ!!」
弾丸が朱雀の翼をかすめ、火焔がはじけ飛ぶ。
だが劉備は笑った。
「熱さを恐れる翼が、空を制せると思うか!」
朱雀の脚部が回転し、蹴りがアクスの機体を吹き飛ばした。
衝撃で地面に叩きつけられるレッドオーシャン。
コクピット内でアラートが鳴り響く。
「アクス!応答しろ!!」
一方そのころ。
キャタピラーを唸らせながら、ディックの【ミサイルアーミー】が
丘の陰へと退いていた。
「ミサイル……補給切れだ。くそっ、仕方ねぇ、補充してくる!
誰もいねぇよな……今のうちに!」
冷や汗が背を伝う。
背後では爆音と炎、仲間の通信が途切れていく。
「……こんな殺し合い、聞いてねぇぞ……!」
煙の中で、友軍のマグナムが崩れ落ちる。
ディックは目を逸らし、アクセルを踏み込んだ。
彼の背中に、誰も気づかなかった。
火の地面を転がりながらも、アクスは機体を立て直す。
両腕の油圧が悲鳴を上げるが、目は死んでいなかった。
「……まだ終わっちゃいねぇ」
コクピットに飾られた貝殻のブレスレットを握りしめる。
彼の中に、ミレーユの声がよみがえる。
(“生きて、戻ってきて”)
「ああ、生きて帰る。必ず!」
レッドオーシャンが再び走り出す。
炎に包まれた戦場の中心へ、孤独な反撃が始まった。
戦場の空は、真っ赤に染まっていた。
それは血か、夕日か。
誰にも、もう区別はつかなかった。




