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短編物語

どうやっても俺の子孫は世界を滅ぼすらしい

作者: 0


『いいか義経(よしつね)! これだけはよーく覚えとけ! おめーが正しい女と結婚しなかったらな――』


 胡坐の上に置いたノートパソコンの画面がチカチカと点滅している。

 その中に浮かんでいるのは二次柄のデフォルメされたアイコンのキャラクター。

 パソコンから流れる音声に合わせて口が開閉する。



『――世界が滅ぶんだぞ?』



 開け放たれた窓から勢いよく風が吹いた。

 風に打たれたカーテンが、すぐそばの俺の顔を激しく叩いた。


 息苦しさと共に視界が闇に覆われる。


 しかし、それどころではなかった。


 世界が……滅ぶ……?

 俺が正しい女と結婚しないと?


 ……いや、ハードル高すぎない?

 結婚どころかこちとら生まれこのかた十六年、異性とお付き合いしたことがないんですがなにか?


 ◆ ◇ ◇ ◇ 


 悪魔のような一日となったのは春先の日曜日。

 冬の寒さも和らいできて、ここ最近の日中は過ごしやすい日が続いていた。


 しかし、この日はせっかくの休日だというのに天気は最悪。

 朝から空は重くるしい曇天。おまけに天気予報を確認すると大雨と雷の警報が出ていた。

 

 翌日の学校が面倒くさいな、なんて思いつつ、俺はベッドの上でいつものようにノートパソコンを開いて、趣味の動画投稿サイト動画を眺めていた。


 そんなときだった。



 世界が白に染まった。



 見たこともないくらい輝く純白に。

 世界からは白以外の色が消えた。世界が白に染まった。


 そして、衝撃と空気を切り裂くような破裂音が遅れてやってきた。


 ――雷が落ちたのだ。


 混乱冷めやらぬ頭だが、それだけは理解できた。

 昼前だというのに家がパッと暗くなった。

 曇天も相まって自分の部屋だというのに、ひどく部屋が無機質で冷たいものに感じた。


 家が揺れた余韻を感じる。

 地震以外で家が揺れる、という経験は初めてだった。


 雷の来襲はあまりにも突然で、短くて。

 雷には地震のように怯える暇もなかった。


 ただ――

「びっくりした……」


 俺は窓を開けて周囲を見渡す。

 昼前だというの、どの家も明かりがついてなかった。


 ――停電。


 暗くなった部屋で、ノートパソコンの画面だけが俺の顔を照らし出していた。

 パソコンのバッテリーの表示を見ると、充電中の表示は消えていた。

 少なくともこの家の電気はいま止まっているらしい。

 

 幸いにして、充電しながら使っていたノートパソコン。

 充電はほとんど満杯にあった。


 俺は気を取り直して、最近お気に入りのインフルエンサーの動画の視聴を続けることにした。

 

 しかし、

「あれ? 動かない? フリーズ? うそうそうそ……! これまでのお年玉の貯金と、アルバイトで貯めたお金を全部使って去年買ったばかりなんだぞ!」


 一切操作を受け付けず固まった画面を叩く、わけにはいかないので、パソコンを持ち上げて上下に揺らす。


「頼む頼む頼む頼む頼む……!」



 プツン――。



 その願いも空しく、まるで電源が切られたかのように画面の光が途絶える。

 わずかな残光が一筋の細いラインとなって漂い、画面の端を切り裂くように消え去る。

 その儚い光の残像と共に俺の正気も消えてしまいそうだった。


 何もする気が起きなかった。


 ただ真っ暗な部屋で、真っ黒になった画面をただ見つめていた。

 十秒、二十秒、三十秒……。


 止まらない時間の中で、俺の思考は止まっていた。


 冷え切った部屋に、ピッ、という機械音が響いた。

 遅れてパソコン内部の駆動音、ファンの回る音が息を吹き返した。


「うぉぉおおおお!!」

 俺は叫ばずにはいられなかった。


 ノートパソコンを掲げてベッドに背中から倒れ込む。

 こんなに嬉しいことはない。高校二年生になって半年ほどたつが、今までで一番嬉しいかもしれない。安心すると、少し涙が出てきた。


「いぃぃやっほぉぉおお!!」


 起動画面を抜けて画面が立ち上がるとそこには、



『うるさいぞッ! バカたれッ!』



 見たこともないデフォルメされたアイコンのキャラクターが、でかでかとホーム画面を占拠していた。

「へ?」


 驚きのあまりノートパソコンを手放すと、重力に従ってその鉄の塊は俺の顔面へと降りかかった。


 ◆ ◆ ◇ ◇ 


『どうやら成功したみたいだな』

「う、ウィルスッ!?」


 俺は急いでWifiを無効化し、念のために機内モードを有効にした。


『だーれがウィルスかッ!?』


 しかし、画面を占拠した謎のアイコンは止まらなかった。


「おわった……。短い夢だった……」

『何をごちゃごちゃ言ってんだ?』

「すみません。出来心だったんです。でも俺たちはそう言う年頃なんです。そういう動画や写真は見るのは生理現象というか、俺が悪いんじゃないんです。あれですよね? 昨日の夜中に見た例の。でもこれだけは言わせてい下さい。俺はあくまで本能に従っているんです。それに俺の家はあまり裕福じゃないです。身代金とかそういうお金は用意できません。あっ、でも三万円までなら次の給料日に支払います。だから、どうかそれで手を打ってパソコンを俺に返してください。お願いします」


『……早口になると余計わからん。なんにせよ俺はウィルスなんかではないって言ってるだろ! バカたれッ!』

「……じゃあなんなんです?」


 アイコンは少し黙り込んだ後に、

『未来からの、使者?』


 おかしい、電源ボタンを教えても画面が切れない。


『おい、何をしれっと電源を落とそうとしてるんだバカたれ――無駄だ。もうこのデバイスは完全に俺の制御下にある』

「やっぱりウィ――」

『――ルスじゃないって言ってるだろバカたれ!』


「嘘つけ! この前学校で習ったばかりだぞ! ランサムウェアとかいう奴だろ! 昔、どこかの角川さんがそれで大きな被害を受けたって教科書にも載ってたし!」


 クラッカーによるサイバー攻撃を受けて、データの復旧ならびに窃取したデータの黙秘の引き換えに身代金を要求された大規模な事件。その事件は情報セキュリティの大切さを改めて教えてくれる教訓として教科書で語り継がれていた。


『はぁー、その足りない頭でよく考えろバカたれ。お前にランサムウェア攻撃して俺は何が貰えるんだ? お前に身代金を払う金がないことはお前が一番知っているだろう?』

「た、たしかに……」

『精々、攻撃して得られるのはお前の個人情報と自作のポエム、自作小説ぐらいなものだ』

「それはそうだ――ってちょっと待って! 個人情報はともなく、なんでポエムと小説のことを!? 誰にも言ったことないし、まだどこにも公開していないのに!?」

『ほほぅ、まだ(・・)ってことはいずれ公開するつもりだったのか、うひぃー』


 アイコンの奥の本当の顔は知らないが、からかわれていることだけはわかる。

 画面の向こうでも相手が自分の作品をみて絶対に笑っていると思うと顔が熱をもつ。


 アイコンのくせに、アイコンのキャラクターの癖にッ!


「い、いいだろ! 別に! 俺の勝手だろ!?」

『いひひひ、まあな。人の趣味だ。とやかく言う趣味はねぇ……にしても『君の笑顔は僕の太陽』か。いい趣味してるじゃん』

「うわああぁぁ!!」


 とやかく言ってるじゃん。めちゃくちゃ言ってるじゃん!

 

「それで何の用なんだよ! いい加減にパソコンを俺に返してくれよ!」


 俺は半泣きになって画面のアイコンに泣きつくと

『――いいぜ』

「……なんだ、おまえいい奴じゃん。アイコン野郎のくせに」



「――ただし条件がある」



「……なに? さっきも言ったけどお金ならないよ?」

『そんなもんどうだっていい』

「お金じゃない? じゃあなんなのさ」

 俺は眉をしかめた。


 家系が華麗なる一族だったり、親が企業の重役だったりするわけではない。

 そんな一般人枠の俺に金以外でどんな条件を突きつけようというのか。



『結婚しろ』



「……は?」

 その答えは斜め上の方角からやってきた。

 思わず自分でも間の抜けたと思う声が漏れた。


『だーかーらー、結婚しろ。お前が正しい女と結婚したらこのパソコンはすぐにでも返してやる』


「は? どういうこと? なにこれ? もしかしてドッキリ?」


 手の込んだドッキリだな。危うく騙されるところだった。


「……お前、状況が吞み込めていないようだな?」

「だから、ドッキリでしょ? ははは、わかったってば……。カメラさーん。出てきて大丈夫ですよー! もう本当に焦ったんだから」


「――本当に焦らせてやるよ」


 ピコン、と場違いな音が鳴った。

 それは枕元に置いていたスマートフォンからだった。


『見てみろ』


 スマートフォンの画面の電源を入れる。

 そこには幼馴染の女子からのメッセージアプリの通知が表示されていた。


 そこに表示されていた文字は、

『自作のポエムいきなり送りつけてくるとか正気?笑』


 は?


 ピコン、ともう一度通知が鳴ると、表示されていた文字が書き換えられる。


『めっちゃ受けるw なにこれ罰ゲームかなんか?笑』


 俺は急いでメッセージアプリを起動した。

 

 そこには送った覚えのないファイルが、幼馴染の彼女とのメッセージアプリの画面に貼られていた。

 パソコンにファイル名を偽装した上で保存してあった自作のポエムの一つが。

 

 衝撃が走った。


「ま、まさか、おま、これッ……!」

『だから言っただろう? もうこのデバイスは完全に俺の制御下にあるって。このデバイスに同期しているお前の他のデバイスも同様だ』


 それが意味するところは、


『俺は今すぐにでもお前の恥ずかしい過去を世界中にばら撒くことができる。お前のポエム、自作小説、検索履歴に閲覧履歴。それに自撮り画像や、お前のお気に入りフォルダにあるファイルたち――これが意味するところ、かしこいかしこい義経くんならわかるよな?』


 こ、こいつやりやがった!!


 ◆ ◆ ◆ ◇ 


『――俺はダンデラ。未来を変える未来の科学者だ』


 俺のパソコンを乗っ取ったアイコン野郎はそう名乗った。

 未来を変える未来の科学者、なんだかなんかややこしい肩書だ。


 アイコン野郎改め未来の科学者を名乗るダンデラは、

『何百年、もしかしたら何千年後かもな――俺たちの世界は滅ぶ』


 唐突に衝撃の未来をぶっこんで来た。


「え? で、でも今こうやって話してるじゃんか!」

『最後っ屁みたいなもんだ』

 そう言ってアイコンは話している内容に反して朗らかに笑った。


「そんな……」

『未来への影響を抑えるために、多くの情報は与えることができないが――』


 ダンデラがアイコンの裏側で大きく息を吸うのが聞こえた。


『――いいか義経! これだけはよーく覚えとけ! おめーが正しい女と結婚しなかったらな世界が滅ぶんだぞ?』


 風でめくれあがったカーテンが視界と呼吸を奪った。


 慌てて顔に被さったカーテンを剝ぎ取ると、

「お、俺のせいで世界が滅ぶ……? お、俺にはそんな秘めた力が、確かになんかクラスメートとは違うな、って思ってたけど――」

『あー、盛り上がっているところ悪いが、正しくはお前の子孫のせいで世界は滅亡する、だ。お前自身には毛ほども世界に与える影響なんてねーよ、バカたれが』

「ですよねー」


 俺は窓を閉めながら、小さな声でそう返した。

 さすがに少し気恥ずかしかった。


『それで俺たちが死ぬ気で調べたところ、義経。お前に辿り着いたってわけだ』

「でも、どうして俺に? 他のご先祖さまでも?」

『お前が一番、ちょろ――話を聞いてくれる可能性が高いっていう、予知? みたいなものがあったんだよ』


 今ちょろいって言いかけなかったか? このアイコン野郎。


『俺たちだって計画の段階ではお前より前だったり、お前を消すことも考えたさ』

「いや考えんなよ。こわいなぁ」

『ただ、そうするとそれ以前の世界の存続に必要な人物が今度は生まれなくなるみたいなんだ。つまり、もっと早くに世界が滅ぶってことだ』

「世界ってそんなに簡単に滅ぶものなの?」



『……お前はきっといい時代に生きているんだろうな。羨ましいよ』

 


 それはダンデラの紛れもない本心だった。

 たいして長くも生きていない俺でもそれだけはわかった。


 その羨望の声には返す言葉がなかった。


 ダンデラは言葉を続けた。

『後でもダメ。前でもダメ。だから、お前が選ばれたんだ』

「で、でも俺は女の子と付き合ったことなんてないし、二人きりで遊んだことだってないし……」


 百歩譲ってダンデラの話が本当だったとして、そもそも俺は結婚できるのか?

 結婚なんて物語の話で、我が身として考えたことがなかった。


『お前は必ず結婚する――必ずだ』


 それは確信をもった力強い言葉だった。


「……いやぁ、なんかそう聞くとむずがゆいな」

『バカたれッ! そのおかげで未来の世界が滅ぶんだぞ!』

「ご、ごめん。でも、それじゃあ俺にどうしろっていうのさ! さっきダンデラも言ってたけど、結婚しなきゃしなきゃで世界が滅ぶんでしょ? 八方塞がりじゃん!」

『だから、正しい女と(・・・・・)結婚しろ、って言ってんだよバカたれ』


 いや、いきなり異性経験皆無の男子高校生に正しい結婚なんて言われても。


「正しい、ってどうやってわかるんだよ……」


 それがわかれば誰も苦労しないだろ。


『それはこっちに任せろ。俺の味方には世界の運命みたいなものを視ることのできる奴がいて、そいつの視える世界線で世界の滅亡を回避できる結婚相手を見つけることがお前の仕事だ』

「なんか未来ってすごいファンタジーな世界だなぁ……。具体的にはどうしたら未来は変わるの?」


 そんな便利な力があるなら早く言って欲しい。


『キスで未来が変わるって言ったら信じるか?』

「はい。解散」


 ピコン、再びメッセージアプリの通知が鳴った。


 それは母親からだった。

『お母さん、こういう小説とかよくわからないけど、後で読んでみるわね。お勉強もがんばってね』


 書きかけの自作小説が母親へのメッセージアプリの画面に添付されていた。


 死にたくなった。


「お、おまえ、やっていいことと悪いことがあるだろ!」

『そうだな。世界を滅ぼさないための行動を怠ることは悪いことだ』

「あ、アイコン野郎がぁ……!」

『……ずっと思っていたんだが、それはお前の時代では悪口なのか?』


「わかったよ! やってやろーじゃないか! ただし、俺からも条件をつけさせろッ!」

『ほぅ……。俺に秘密を握られている男がどんな条件を付けるというのか?』


 座っていたベッドから立ち上がると居ずまいを正す。


 俺はベッドの上で三つ指をつくと、

「お願いです。俺が彼女を作るのを手伝ってください……」


 ノートパソコンの画面に向かって土下座した。


 俺は異性と付き合ったこともなければ、異性と口づけを交わしたこともなかった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ 


 それから俺の苦難の日々が始まった。


 同級生、後輩、先輩、大学生に社会人。

 異性の手を握ったこともない俺が、毎日のように異性にアプローチする生活。


 幼馴染とのデートでは手汗がひどく、クラスメートとは周囲から冷やかされ、後輩の前ではいい恰好をしようとして空回りし、先輩の前では張り切って失敗した。


 恥ずかしさと悔しさで枕を濡らした日もあった。


 でも、止まらなかった。止まれなかった。


 なぜなら――

「ほらほら、お前のキメ顔自撮り写真をクラスメートにばらまかれたくなかったら、わかってるよな?」

 ダンデラによって退路は断たれていたから。


 俺の黒い歴史や、恥ずかしい過去を証拠付きで拡散されたら社会的に死ぬ。

 なまじその証拠品が自分の作品であることが致命的だった。


「わ、わかったやるよ! だから!」

「――ったく、最初からそう言えばいいんだ」


 それから何回も、何回も恋をした。


 デートを重ね、俺はついに初めてくちづけを交わした。

 初キスはレモンの味、なんて話をきいたことがあたが、緊張して味なんてわからなかった。

 ただ、口づけを交わすと体の芯から熱くなった。


 初めてキスをした日は家に帰ってもまだ心臓の音が聞こえた。


 俺はパソコンを立ち上げると、

「――おいダンデラ、いるか?」

『……あぁ、義経か。おかえり』


 我が物顔でホーム画面の中央に大きく陣取るアイコンから眠たそうな声が返ってきた。

 

 俺は一抹の照れ臭さを感じながら、

「キス、したよ」

 端的にそう告げた。


『おおやったな! でかした! おい義経が初めてキスしたそうだ。そう初キスだ!』


 寝起きのような気怠い感じだったダンデラが『キスした』という発言で興奮気味に声を出す。

 ダンデラのそばには誰かいるようだ。

 声が少し遠くなって、誰かに話しかけているのがわかった。


「そんな初キス何回も言うなよ、絶対聞こえてるだろ」

『ちょっと待ってろ。俺の仲間が未来予知してるから――おっ、どうだった? おうおう、あぁ、それで? あー、そうなるのか、なるほどな』


 アイコンからはダンデラ以外の声は聞こえない。

 しかし、ダンデラの反応からして未来予知ができるという仲間にその結果を聞いているのは想像に難くない。


 自分のことなのに自分を差し置いて会話が進んでいることがもどかしく感じた。


『わかった。ありがとう――っと悪いなこっちで話し込んで』

「いやいいよ。それで? 未来は変わった……?」

『あぁ、ばっちりだ』

 

 俺はホッと息を吐くと肩を下ろすと、

「良かった。色々あったけどお前と出会えてよかったよ」


 そもそも俺が誰と結婚する予定だったのかは知らないけれど、彼女と出会えてよかった。

 

「これもダンデラ。お前のおかげなのかもな。俺が彼女との付き合えたのは――」

『ばっちり改悪された。世界滅亡が一週間ほど早まったみたいだ』


「――は?」


『次だ次。切り替えていこうドンマイドンマイ』

 スポーツ観戦のような気軽さでダンデラはそう言った。


 心なしかブブゼラのようなラッパ音のような音が、アイコン越しに聞こえてきたがした。


「ち、ちょっと待って! 彼女はどうなるのさ!? 次のデートの約束まで取り付けたのに!」

『そっちはキャンセルで。良かったな、傷はまだ浅い』

 事もなげに言ってのけるダンデラに、

「はぁぁああああーー!!」


 俺は人生で一番の大声を張り上げた。


 義経うるさいわよー、と家族の声が部屋の外から聞こえてくる。

 俺は自分で自分の口を抑えた。熱く荒い息が抑えた手の隙間から漏れる。


 先ほどまでと違った意味で心臓がどきどきしていた。


『しかたねーだろ。俺たちもまさかこれ以上に悪くなるとは思わなかったんだから』

 言い訳がましい声がダンデラの口から漏れる。


「おまッ! ふざけッ!」

『彼女には俺から言っといたから』

「は? おまッ――」


 ピコン、メッセージアプリの通知が鳴った。

 それは話の渦中の彼女からだった。

『許さない』


 急いでメッセージアプリを起動するが、彼女の連絡先は既に消されていた。

 

 聞かなくてもわかった。ダンデラの仕業だった。


 慌ててパソコンのアイコンを睨むと、

『まぁ、なんだ……。大丈夫だとは思うけど夜道には気をつけろよ?』

「誰のせいだボケェェええええーー!!」


 ちょっとー義経! ご近所さんに迷惑でしょー? という母親の声に、俺は枕を噛み殺す。

 声なき声が枕を噛みしめた歯の奥から漏れる。


 叫ばずにはやっていられなかった。

 俺の押し殺した悲鳴と、ケラケラと笑うダンデラの声が部屋に響く。


 未来の世界を滅亡の回避のために、嫁探しの道のりは険しい。


 なんでだよ。未来が変わっても世界を滅ぼすってどうなってるんだよ。


 どうやっても俺の子孫は世界を滅ぼすらしい。


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よろしくおねがいします。

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― 新着の感想 ―
 おもしろかったのですが、希望が……希望が、ない!!!  いや、義経くん、ふつーの、良い子じゃないですか。で、こんな風に未来からの介入のせいで、手あたり次第、女ならだれでも、になるから、最悪な女性しか…
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