第32話 ホームズはパイプを吸い、モリアーティ、考察す
--秘密の扉は見えているのに鍵が見つからない。
もう少しなのにどういうことだ、教えてくれ。
頭の中でぐるぐる渦巻いている、
それでも解けない謎がある。これだと指で示せない。
本当はそれほど深くないのか、僕の考えすぎなのか--
モリアーティが、ナイトメア・ビフォー・クリスマスの“ジャック・オー・ランタン”の歌を歌っている。
「勝手にアフレコつけないでよ、こっちは本気で考えてるんだから!
それにこの煙、あー喉がイガイガする。初代はよくこんなの我慢してたな」
「俺の家の煙草部屋に文句があるなら帰れよ。
ホームズさんが思いっきりタバコ吸わなきゃ考えがまとまらないっていうから、俺の家に来たんだからね。
嫌ならティールームで他のみんなとお茶飲んだら?ケーキスタンドにケーキいろいろあるよ。
頭使うのにはやっぱり甘いもんがなくちゃ」
山盛りドーナツのカゴを抱えながらモリアーティが言った。
「いいよ、ホームズさんも食べてないもの。
初代が言うには、推理が難航しているときは飲まず食わずで考えに集中して、正しいと確信するまでは頭の中で吟味を重ねるんだって。
そういう時には何を話しかけても聞こえてないから、静かにしてるしかないんだ」
当の私は、眉根を寄せて下を向いたまま、強い黒タバコをプライヤーの古いパイプ(カッコ付けのメアシャムのパイプはマザーに元に戻してもらった)に詰め替え、詰め替えしながら黙りこくって部屋の中を歩きまわってばかりいた。
私は緊張すると、食事をする気になれない。
消化作用なんかのために、エネルギーを費やしていられないのだ。
精神を集中し、深い黙想にふけるとき、私にとって何より必要なのは“孤独”だ。
いろんな出来事を思い浮かべ、深く思考する事で、それがたったひとつの方向を指しているのが見えてくるのだ。
しかし、状況証拠は何か新事実が現れれば、いつでも覆されてしまう。
何かが足りない。もう一つピースが欠けている。
まだ表面に出ていない何かが伏在している気がする。
思わず爪を噛んでいた、悪い癖だ。
ここにワトソンくんがいたら、叱られそうだな。
「今のところは憶測と状況証拠ばかりだものね。でも当て推量はダメだよ。大事な推理の基礎となる小さな事実の観察を怠っちゃうからってホームズさんも言ってるし。
でも、考えるたびに、根本的疑問に引き戻される。首をすげ替えることに、何かメリットがあるのかな?偵察してきた黒兎によると、ピエロは完全黙秘を貫いてる。
正直ピエロが絶対言おうとしない理由って何なんだろう?」
五代目が頭を抱えていると、モリアーティが答える。
「凡才が悩んでも無駄だよー。俺は半分は解けたね」
「じゃあ、君の意見を言ってみろよ。下半分のB・Bを殺したのは誰かわかるの? ピエロって言うなよ」
「違うよ、死んだ上半分のピエロの姉さん、本物のアイリーンの方さ。だって彼女には、どうしてもB・Bに死んでもらわないと困る動機があったもの」
「え、どんな?」
「もう、ニュースを聞いてなかったの?ピエロのお父さんの話では、ピエロことチャーリー・チャンと、B・Bは、“ピエロ姉弟のマジックショー”の芸名どおり、表向きは姉弟として振る舞っていたが、正式に籍を入れ結婚していた。
その間アイリーンはずっと本物のB・B、女優として生きていた。ところが金持ちとの結婚話が持ち上がり、結婚のため戸籍を取り寄せたら、なんと自分(B・B)は戸籍上既に結婚していた。これではCEOと結婚できない、重婚罪になるからね」
「それが動機?」
「多分ね。今更結婚相手に自分は偽物だとも言えず、玉の輿を逃すわけにもいかない。お父さんの病気と借金のこともある。
さらに、全てを知ってるマネージャーがバラすと脅迫して来た。
それで堪えられずに殺してしまったんだと思う。
だからアイリーンは、話し合うためハロウインの前日の夜サーカスにやってきた。
ここからは俺の推測だけど、多分二人に離婚するように迫ったのだろう。
あの離婚届がその証拠だ。
でも、B・Bは承知しなかった。これから子供だって生まれるのに、戸籍まで入れ替えたら、B・Bは戸籍上はピエロと姉弟になってしまい、永久に結婚できないんだから。
その上B・Bはピエロのお父さんに言ったように、入れ替わっていたのを公表すると言いだした。それで、アイリーンはB・Bも殺してしまったのさ。
人間って、一人殺すと歯止めが効かなくなるらしいから。
アイリーンはお互いがそっくりなのを利用してB・Bが、まだ生きているように見せかけるためショーに出た。
そのあと離婚届を出し失踪、死体をミンチにしてライオンに食べさせて処分する。死体がなければ、殺人の立証は不可能。そういう筋書きだったんだと思う。
でも、アイリーンはギロチンマジックの失敗で死んでしまった。いや、事故だと言ってるけど、本当は妻と子供の復讐にピエロが殺したんだよ。
だって嘘のつけない正直ピエロは、終始一貫『僕がお姉ちゃんを殺したんだ』と、言い続けてるんだから」




