プロローグ
千年の昔魔術大戦と呼ばれる戦争が存在した。三大魔術師が生きた時代のことである。魔術開花の時代でもあり魔術が世界を支配していた時代でもあった。
最強の魔術師龍堂源之助。龍堂一派を創始した鬼才で、謎に包まれたままの男。
究極の魔術師大江広元。魔術を多数所持しその全てを極めた天才。現代魔術の源流を築き上げた男。
祝福の魔術師甘利千志郎。神々に祝福された異端の徒。現代神術の源流を築き上げ、大戦のきっかけを作ったといわれている男。
かれらを魔術太祖と人々は呼ぶ。
外黒来猛神が産み出した惨状によって彼等は立ち上がり、日本を次代へと繋いだ。多大な犠牲を払いながら拙勝し、魔術大戦は幕を閉じた。そして、魔術は表舞台から姿を消す。
それから千年。
千年の月日が流れ人々の記憶からは魔術は抹消される。
魔術はせかいの裏側へ至った。
魔術とは本来生まれ持った才能のようなもの。魂に刻まれたコードは1人の人間に特別な異能を与える。
術式とよばれるものであった。
術式とは本来全ての人間に存在する。だが、なぜかそれらは発現しない。人々の肉体には受肉しないのだろうが、魂に備わった異能はほとんどの場合現世に顕現しない。
それは魂によるコードのインストールができていないことに起因するのかもしれない。
ただし魂への刻印が完了していたとしても発言するかどうかは運なのだが。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
俺の名は黒川渚。もう直ぐ高校生になる転生者で、クソみたいな神のシナリオを書き換えようとしている愚か者だ。
この世界は『魔術大戦』って漫画が原作になっている創られた世界で、俺はその世界にいる。定められたレールをぶっ壊してその先何があるのかは分からないが、その先を求めたって別にバチは当たらねぇだろう。
この世界は醜く汚い。血と肉が唸り怨嗟を吐露する死に易き物語で、誰であろうと関係なく昇天の末路を飾る運命線を是いとする。
かつて愚炎の魔術師は言った。
「真実の業火を知らぬままに殉ずる者は幸福なのだ。深淵の底には人には理解できぬ領域がある。道標のままに逝くことを容認されぬ賢士は己の無知と非力さを恨祈しながら引き伸ばされることになるのだからな」
その意味を渚は少しだけ理解していた。全てを識るなどという傲慢さは持ち合わせていないが、この世界について誰よりも認知している。
魔術とは結果として罪なのだ。だからこそ、彼女は暗躍する。渚にとってそれは最大の敵だった。
倒すべき未来である。
全てはいずれ彼方へと繋がっていく。
そして、それらは少女のためになる。
渚は己が望みを叶えるために禁忌へと至る。
ここはそういった場だった。
阿部神社
安倍晴明とは全く関係ないわけでもないところがややこしいが殆ど関係性を持たない。神系のもの達の領域の世界にはそれ相応の匂いが漂うというが、阿部家の深淵殿は素人にも注意すればわかるほどの違和感を持つ。阿部真央による結界術式がなせる技だろう。
「ここにあるのか…」
渚は社殿の見える参道の入り口に立っていた。
300メートルほど続く石畳みを竹林が立ち並びその先に社殿らしきものが見える。参拝客は平日の夕方とあってほとんど見られない。
所々にはトーテムポールに似た石塔が少し斜めに建っていた。
蛇が天に昇り何かを喰らおうとしている。そんな画だ。
渚は夕日に染まった鬼景を眺めると歩き出した。
だが彼の唇は閉ざされずひとりでに謳い出す。
『あかい虚に閉ざすあお。軛よりはなちて堕ちらう竜』
その歩みはゆっくりとしている。
まるで舞台を我が物顔で進んでいく主演俳優みたいに、渚は確かな足取りで目的地へと向かう。
世界はまだ呼応していない。
『揃いで善。噛み合う悪。心は無相。』
『天より授する異様の事。はなれて消えて残影せん。』
『むらさきあおしろくろきももあかはいぎんみどり』
『うらとおもてが一になる。円は描かれん。緣は紡がれん』
構築される言の葉達の演舞が参道に描出していく。奥地にはもはや届いた。後数メートルのあ