最終話 やっぱり大好きな人
最終話です。
途中で視点が変わります。
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「りゅと!しゅき!」
「りゅーと、だいすき」
「好きよ、リュート。大好き!」
婚約者として引き合わされた四歳の時から、
アリスは素直に俺への想いをぶつけてきてくれた。
贅沢な話、それを当たり前のように受け取るようになっていた。
だって俺もアリスの事が好きで、いつも彼女と同じ想いを抱いてきたから。
だけど同じような愛情表現は出来ない。
将来の国王を支える側近候補、ゆくゆくは宰相として従兄弟である王太子を支えるべく教育されてきた為に、感情を面に出す事を良しとされなかったから。
それでも俺は俺なりにアリスに想いを伝えてきたつもりだったのだが……。
「リュートのバカっ!浮気者!大っ嫌い!!」
……………ショックだった。
浮気を疑われたからじゃない、俺の想いが伝わって無かった事と大嫌いだと言われた事にとてつもなく打ちのめされた。
今まで誰に無表情、冷徹、腹黒と言われようが褒め言葉にしか聞こえなかったのだが、アリスからの拒絶の言葉には心を抉られた。
もちろん、アリスから本当に嫌われたとは思っていない。
自惚れだとは思うが、それを信じるだけの絆が俺たちにはある。
だってずっと一緒に育ち、側にいたのだから。
だからこそ、アリスにそんな事を言わせた自分が情けなかった。
このところ忙しく、あまり接する事が出来なかったのもいけなかったのだろう。
しかしアリスの為にも、ジュスタンが廃太子に追い込まれては困るのだ。
奴にはなんとしてでも王位に就いて貰わねば困る。
困るのだ。
アリスは生まれた時から膨大な魔力を持って生まれてきた。
いや、持ち過ぎて生まれてしまった。
過剰な魔力は上手く排出される事もなく蓄積されてゆく。
その為魔術を使わせて、無理やり体外に排出させなくてはならなかった。
それがいつからか、いや、正確にいうと二年ほど前からアリスの体内の魔力コントロールバランスが崩れ、新たな魔力を上手く作れなくなってしまったのだ。
表面上の健康に問題はなく無症状であった。
が、アリスは作られ難くなった魔力を補おうとしてか食事やスィーツなどのドカ食いを始めた。
ケーキのワンホールなんてペロリだ。
それでも太らないのは体質だと本人は思っているようだがとんでもない。
口から摂取したエネルギーは全て魔力に変換されているだけにすぎない。
そして魔力コントロールのバランスが乱れた原因を俺が探っているうちに、
何故かしゃっくりが止まらないという状態が体の異変として現れ始めたのだ。
何故しゃっくりなのか、それは本当に分からない。
深い意味はないのかもしれないが、何故かしゃっくりが出てそれが止まらなく(難く)なるのだ。
しかし止まらないしゃっくりというのはタチが悪い病とも言える。
特効薬もなく、止める手立てもない。
しゃっくりの所為で消耗するアリスを見て、辛かった。
代われるものなら代わってやりたい。
救ってやりたい、他ならぬ俺自身の手で。
心からそう思った。
そしてあらゆる手段を用いて調べに調べあげ、対処療法ではあるが、外部から魔力を体内に注ぐ事により、バランスを崩した魔力を一時的に安定させる方法を見つけた。
あくまでも対処療法だ。
それで完治出来るわけではない。
しかしそれでしゃっくりが止まるならその方法を用いるしかないだろう。
………魔力を体内に注ぐ……。
方法は四つある。
魔術により魂の一部を渡す。輸血をする。性行為による体液の交換、そして口づけによる唾液の交換だ。
………………。
まだ性行為をするわけにはいかない。
婚約者だからこそ彼女の事を大切にしたい。
魂の一部を渡すのは魔力属性を渡すのには効果的だが、アリスのこの場合にはそぐわない。
と、なれば………。
治療のためだ、仕方ない。
そしてしゃっくりの発作が出た時にそれを試してみたら効果は絶大だった。
しゃっくりはすぐに止まり、本人も楽になったようだ。
……“治療”の後の、アリスのとろんとした表情は凄まじい破壊力だったが。
しゃっくりではなく俺の息の根が止まるかと思うほどに。
嫌いだと言われた後の発作時も、素直で可愛いアリスは、使い魔のカワウソリスモドキを見せたら機嫌を直して“治療”を受け入れてくれた。
はぁ……アリス、可愛い……。
しかしやはりこれはその場凌ぎの対処療法だ。
根本的な治療をせねば、アリスの魔力コントロールバランスの不調はいずれもっと大きな病を引き起こすやもしれない。
それにはやはり、某国で開発された魔力を一定にする新薬が必要なのだ。
しかし我が国はその新薬を有する某国とは、過去の諍いから国交を断絶したままとなっている。
まずは国に働きかけ、国交を開かさねば……
ジュスタンならそれが出来る。
いや、俺がさせる。必ず国交を開くルートを作ってみせる。
だからその為には必ずジュスタンに王位を継いで貰わねばならないのだ。
それなのにあの第二王子派のバカ野郎共っ……!
あんな第二王子が王位に就いたら我が国は滅びるわっ!!
第二王子の生母である側妃とその生家の侯爵家が第二王子を祀り上げて王位の簒奪を企んでいるのだ。
姑息な事にジュスタンを廃太子とするべくあの手この手と仕掛けて来やがる。
そして謂れのない罪の捏造も図りやがった。
まぁ全て悉く潰してやったが。
それに反してヤツらは、叩けば埃が出るわ出るわ。
使い魔を召喚し、その証拠を集めるという地味で魔力を消耗する作業だが、これが武力に頼らず平和的に奴らを排する一番効果的な方法なのだから仕方ない。
そして奴らは案の定、それらを仕切っている俺の弱みを握るべく、身近な人間を狙い始めた。
俺の弱み、弱点といえばアリスしかいない。
元々第二王子派とは水面下で争いを続けてきた。
奴らがいずれ俺の大切な者に手を出すであろう事は容易に想像出来た。
そこで予め人の姿にも変身出来る高位魔法生物を召喚しておいた。
この件に関わる資格を得るべく、ジュスタンが高位魔法生物を召喚して。
そして俺とジュスタンとその魔法生物…今回はミリアという名を付けた。
この三名で魔導誓約に基く契約を交わした。
異なるフェーズの生き物と契約を結ぶ際には必ず誓約魔法で細かな取り決めをするようにと、大陸魔導法には定められているからだ。
契約内容は誓約魔法に則り、第三者に口外は出来ない。
それぞれその誓約内容は違うが、守秘義務が一律発動した。
守秘義務以外でも誓約を破れば、身体的な罰が下る。
それでも構わない。
アリスを守る為ならなんだってやってやる。
しかしミリアを召喚したはいいが、ジュスタンの魔力量ではその存在を留めておけない。
なので俺の魔力を対価として渡す事となり、常時魔力の補給の為にミリアと共に行動した。
奴らに俺の大切な存在が代わったとフェイクを見せかけるには丁度いい。
ミリアにはついでに諜報活動や潜入捜査もさせた。
これらの目的が叶うように協力する事が契約だ。
とことん使い倒してやる。
だがその際にミリアが手に入れた証拠を引き出す為の行動を、アリスに見られたのは想定外だった。
念のため結界を張っていたにも関わらず、実は俺よりも魔力の純度が高いアリスは無自覚に結界をすり抜け、その現場を見てしまったのだ。
それにより……それにより誤解を生じさせ、俺の事を嫌いだと言わさせてしまった………。
嫌い……だと。
俺の事を嫌いだと。
しかし今更後には引けない。
もう少し、もう少しなんだ。
証拠は揃った。あと一押し、奴らが言い逃れ出来ない状況を作り、一気に叩き潰す。
後に遺恨を遺さない為にも、第二王子は王族としての身分剥奪の上、王位継承権を自動的に放棄させる。
そしてバックにいる侯爵は爵位を返上させ蟄居幽閉、側妃は廃妃に追い込むのだ。
そろそろヤツらが動き出すと、ターゲットにされているミリア自身がその情報を掴んできた。
今夜か、明日か。
ミリアには奴らが事に及び易いよう一人で行動しろと伝えてあったのだが………。
何故ミリアの側にアリスの魔力を感じるっ?
アリスに付けてある仕事も、アリスがミリアと共にいる事を如実に伝えてくる。
ーーくそっ、何て事を!危ないだろうっ!!
何故、今日に限ってケーキを食いに行かないんだ!
徐に立ち上がった俺に、ジュスタンが瞠目する。
「リュート?いきなりどうした?」
「回収に行ってくるっ……」
「回収?」
ジュスタンの声が背後に聞こえたが、俺は構う事なく部屋を後にした。
転移魔法でマーキングしてあるアリスの元へ飛ぶ。
到達するとすぐに、ミリアの声が聞こえた。
「アタシのお弁当になってくれない?」
「…………え?」
「だってぇ~アリスちゃんの魔力、美味しそうなんだもん」
「た、食べるの?わたしの魔力を?」
「うんそう。人によって魔力の味が違うのよね♪アリスちゃんのはねぇ、匂いでわかる。絶対に美味しいって。もうリュートのばっかりで飽きちゃったのよ~ねぇ?いいでしょ?」
「いい訳ないだろうがっ」
「「ぎゃっ!?」」
突然現れた俺に、アリスとミリアが同時に飛び上がった。
◇◇◇◇◇
「リュートっ、どうしてここに?」
突然現れたリュートに、アリスは驚きを隠せない様子だった。
「どうしてもこうしてもない。アリスがミリアと一緒にいる気配を察知して慌てて飛んで来たんだよ」
「どうしてそんなに慌てて?」
アリスのその問いかけに、リュートはミリアの方を見た。
「……アリスにはどこまで話した?」
ミリアは肩を竦めて言う。
「アタシに関する事は概ね?あとボクちゃん達の事もちょっとね」
「そうか……」
リュートはそれを聞き、ある意味ほっとした様子だった。
誓約魔法を交わした以上、自分からは話せない。
覚悟はしていたが正直アリスに誤解されたままなのは辛かった。
リュートはアリスに視線を戻した。
その際にミリアから「目つきが全然違う!」と抗議されたがそれは無視だ。
「なら分かるな?アリス、ミリアの側は危険だ。帰ろう。送っていくよ」
「え、でもミリアさんは……?」
「ミリアにはこれから仕事がある。対価の分はしっかり働いて貰うさ」
「ちょも、どいひーー!せめてアリスちゃんの魔力をひと口頂戴よぉ」
「却下だ」
「えーー!お腹が空いたら頑張れないぃぃ!」
「お前な」
駄々を捏ねるミリアを見て、アリスはリュートに告げた。
「ねぇ少しだけならいいんじゃない?」
「は?」
「やったーー!アリスちゃんイイコっ♡」
「アリス、ダメだ。必要ない」
「でも……ミリアさんはわたしの代わりに誘拐されるんでしょう?せめてお弁当を渡したいわ」
「遠足じゃないんだぞ」
「遠足気分で頑張って来るわよ~!」
「ね?リュートお願い、いいでしょ?」
「…………」
リュートは昔からアリスの「お願い」には弱いのだ。
小さく嘆息して、リュートは頷いた。
「ほんの少しだけだぞっ」とミリアに釘を刺すのを忘れずに。
ミリアはアリスと向かい合った。
「わたしは何をすればいいの?」
「何も?そのままでいいわ♪勝手につまむから。でもそうねぇ、食べ辛いから目を瞑っててくれる?」
「こう?」
アリスは素直に従う。
ミリアはそんなアリスを食い入るように見つめた。
そして………
目を閉じるアリスにキスをしようと顔を近づける。
バコッ!!「ギャッ!!痛っ!!」
当然、リュートに殴られて阻まれたが。
リュートは拳を握りながらミリアに険しい顔を向けている。
「貴様っ……何のつもりだ……」
「アハっ♡ゴメンゴメン、あまりにもアリスちゃんが可愛いからついね、つい♡」
「つい♡じゃねぇ!」
「………?」
ーーどうしたのかしら?なんだかリュートが怒っているけど。
アリスは律儀に目を瞑ったまま待っていた。
その様子を見てミリアが毒気を抜かれたように笑う。
「ぷ…ふふ、可愛いわねアリスちゃん。リュートが必死になる訳だ。ありがとご馳走様。やっぱりアリスちゃんの魔力は美味しいわ♡でもちょっとバランスを崩してる感じなのね、可哀想に。リュート、ちゃんと治してあげるんでしょ?」
「当然だ」
「ならアタシもアリスちゃんの為に頑張るとするか!じゃあヤツらが捕まえ易い場所に行ってくる♪じゃーね~!」
と、そう言ってミリアはどこかへと転移して行った。
「え?もう食べちゃったの?触れずに?そんな一瞬で?え?み、ミリア様お気をつけて!」
アリスは唖然としながらミリアを見送った。
後に二人残され、沈黙が辺りに広がる。
リュートはアリスに手を差し出す。
「行こうか、掴まって。やはり念のため転移魔法で送り届ける。いや、今日だけじゃないな、これからは毎日俺が転移で送り迎えするよ」
「えっ……リュート、毎日ジュスタン様のサポートに忙殺されているのに?」
「このくらいの時間はある。そうだ、最初からそうしておけば良かったんだ。それならアリスの身も守れるし僅かな時間でも一緒に居られる」
その言葉を聞き、アリスは胸がいっぱいになった。
「……わたしと、少しでも一緒にいたいと思ってくれるの?」
「当たり前だろ」
迷いのないその答えにアリスは尚も訊ねた。
「ねぇリュート……リュートはわたしの事、好き……?」
頬に朱を刷き、小さな声で訊くアリスにリュートは答えた。
「好きだよ。幼い頃からもうずっと。アリス以外はどうでもいいと思えるほどに」
「リュートっ……!」
アリスはリュートの胸に飛び込んだ。
いつの間にか逞しくなったその体でアリスの体を難なく受け止めてくれる。
「リュート……ごめんなさい……嫌いだなんて、嫌いになっただなんて言って、本当にごめんなさい。全部嘘よ……わたし、リュートを嫌いになんかどうしてもなれない」
「アリス……」
「好きよリュート。やっぱり大好きっ!わたしのリュート、早く結婚してっ!」
そう言ってアリスは再びリュートにぎゅっとしがみついた。
と、思った瞬間に何処かへ引っ張られる感覚がした。
一瞬地を離れたと思ったら足が次に接地したのは、踏み慣れた自室の絨毯の上だった。
リュートが一瞬で転移魔法で飛んだのだ。
そして部屋に着いてすぐに唇を塞がれた。
「……!」
それはしゃっくり病の治療で行うあのキスとはどこか違う。
想いが溢れたキスだった。
「ウリュ?ウリュ~♡」
またまた、ウーちゃんだけが二人のその様子を見つめていた。
◇◇◇◇◇
「見て見てアラベラ~!リュートがこの邸を守る為に新たに使い魔を一体連れて来てくれたの~♪」
休日の午後、サットン侯爵家に遊びに来たアラベラに、アリスは自慢の新しい使い魔を披露した。
「………そいつは……アレよね?東方の国に生息するという白と黒で形成される熊と同じ動物よね?」
「いやねアラベラ。パンダじゃないわよ~魔法生物よ~?でもパンダみたいで可愛いでしょう?こうやって体当たりでしがみついても受け止めてくれる逞しさと寛容さ!惚れちゃう~♡名前はパンちゃん!これしかないわ!」
「……少しは捻りなさいよ。……リュート様って、ホントにアリスの喜ぶツボを抑えるのが上手よね」
「ほらアラベラも抱きついてみて!癖になる包容力だから!」
「……遠慮しておくわ」
そう言ってアラベラは庭に用意されてあったお茶に口を付けた。
今日のスィーツは爽やかなレモンゼリーだ。
ミルク仕立てのレモンゼリーとレモン果汁とかくし味(香り)に柚子を搾った透明なゼリーが二層になっている。
少し汗ばむ季節にはもってこいのスィーツだった。
アリスを放置してお茶を楽しむアラベラの隣には、政務の間に訪れた王太子ジュスタンの姿もある。
「リュートのヤツ、ミリアの他にパンダとカワウソまで使役して……アイツの魔力量はどうなってるんだ?」
アリスが抱きついて戯れているパンダの使い魔を見ながらボヤいた。
アラベラがその様子に苦笑しながらジュスタンに問う。
「今、リュート様は外務大臣と共に、国交回復の斥候として某国へ行っておられるのですわね?」
「ああ。今日帰国予定だよ。だから城ではなく、わざわざここへ来たんだ。リュートのヤツ、絶対にまずはアリスに会いに戻るだろうと思ってね」
「その読みは絶対に正解ですわ。それにしても、第二王子殿下の身分剥奪には驚きましたわぁ」
アラベラの言葉にジュスタンは鷹揚に頷く。
「僕も驚いたよ。まさか幼気な女子生徒を誘拐して陵辱しようなんて、王族としての品位を貶めるような行為であり、大変な裏切りだ」
「その他にも後ろ盾である元側妃様や外戚である侯爵の不正や違法な取引など、数々の罪が明らかになったのでしょう?本当に恐ろしいですわ」
「なんとも度し難い奴らだよ。国王も大層なお怒りでね、元第二王子共々生母である側妃も廃妃の上身分剥奪。爵位返上し、罪人となった元侯爵と同じく生涯幽閉と決まったよ」
「元第二王子は違法魔法薬物を使用するなど素行も悪いと噂が絶えませんでしたものね」
「同じ王族として恥ずかしいよ」
「ジュスタン殿下はご立派な方ですわ。殿下のような方が次期君主となられるなら、我が国は安泰です」
「リュートという怖ーい次期宰相もいる事だしね」
「はい。ますます安心です」
そう言ってジュスタンとアラベラは笑い合った。
アリスとリュートが仲直りが出来たあの日、
ミリアは見事、第二王子派の手の者に誘拐監禁された。
まぁミリアがただで監禁されている訳もなく、犯人達の目を盗み、証拠集めをしていたそうだが。
その場所に第二王子の姿も認め、ミリアはリュートに遠隔で連絡。
予め準備しておいた手勢十五名ほどで監禁場所に乗り込み、第二王子諸共現行犯で捕縛した。
直接誘拐監禁している現場に踏み込まれた事により第二王子に言い逃れは出来ず、敢え無く罪人となったのだった。
怖いくらいにリュートとジュスタンが計画した通りになったので、人間って怖いわ~とミリアは言っていた。
今、ミリアは一時的に召喚を解かれ、自分の世界へと戻っている。
ちょっと頑張り過ぎて休みたいのだそうだ。
でもまた召喚されると思うから、その時はまたアリスの魔力をつまみ食いさせてね♡とミリアは言っていた。
アリスのしゃっくり病はやはり時々出てくる。
だけどその度にリュートが甘い治療をしてくれるので、アリスは以前よりは辛くない様子だ。
きっともうすぐ某国との国交が回復し、アリスの魔力バランスの乱れを治す新薬を服用出来るようになる事だろう。
「なんだ。全員サットン侯爵家に勢揃いか」
そう言って、アリス達がいる庭に足を踏み入れる者がいた。
「やっぱり帰国してすぐに登城するのではなく、真っ先にここに来たな」
ジュスタンがその人物…リュートに言った。
「ごきげんようリュート様。いつも私の分までケーキの代金をお支払い頂きありがとうございます」
アラベラが礼を言った。
「いや。こちらこそ、いつもアリスの面倒を見てもらいすまない。本当に感謝している」
アラベラが悪戯っぽく微笑む。
「ふふふ。魔術学園入学と共に私とアリス様を引き合わせたのは、そうなる事を望まれての事だったのでしょう?」
「……ジョンズ伯爵令嬢の人柄が申し分ないという噂をよく耳にしていましたから」
「まさか友人まで用意されたとはアリスも思わないでしょうね?でも私は、私の意思でアリスと友人になりましたのよ。あの裏表のない性格に癒されますし、心から信頼できますもの」
「ありがとう。これからもアリスを頼みます」
「お願いされなくともそのつもりですわ」
そうやって三人で話していると、ふいに名を呼ばれた。
「リュートっ!!」
アラベラ達と会話してるリュートの姿を見つけ、アリスが破顔する。
そしてパンちゃんの手を引きながらリュートの側へと寄って来た。
「おかえりなさい、リュート」
「ただいまアリス」
二人、互いに微笑み合う。
「あーあ。二人のアツアツにアテられるのも何だから、我々は退散する事にしようか?アラベラ嬢」
ジュスタンがそう言いながら立ち上がる。
そしてアラベラへと手を差し出した。
アラベラは笑いながらその手を取る。
「そうですわね。お邪魔ムシは帰りましょう」
アラベラをエスコートしながら、ジュスタンはリュートに言った。
「今日はもういいから、明日は必ず登城して報告を上げるように。どうせお前の事だから首尾よく進めて来たんだろう?」
「まあな」
アリスと手を繋ぎながらリュートが答えると、
ジュスタンは満足そうに頷き、アラベラを伴い去って行った。
「お仕事が上手くいって良かったわ。さすがはリュートね。お父様が感心していたの、まだ学生なのに外交にも携わって凄いって」
「この国交の再開だけはどうしても成功させたくてな。無我夢中でやってるだけだ」
「やっぱりリュートは凄いわ。わたしの将来の旦那様は頼もしいわね」
「俺の将来の奥方もケーキを丸ごとペロリと平らげる頼もしさがあるな」
「まぁ!言ってくれるわね!」
「あははは」
いつの間にか庭にはアリスとリュートの二人っきりだ。
侍女のユナや侍従たちの姿は見えない。
他にはパンちゃんにジャレついて遊ぶウーちゃんが居るだけだ。
アリスはちらりと隣りにいるリュートを見る。
アリスのその視線に気づき、リュートは笑みを浮かべながら訊ねた。
「どうした?」
「ふふふ。やっぱり大好きだなぁと思って」
「……頼むから……もう二度と嫌いだなんて言わないでくれ……あれは……本当は相当堪えた」
「え?本当?リュートってば平気そうに見えたけど」
「精神の揺れ幅が表に出ないように教育されてるからな」
「ふふふ。じゃあわたしが二度と嫌いになったなんて言わせないようにしなきゃね?」
「ああ。もうあんな思いはゴメンだ」
「わたしもよ。わたしも二度とリュートに嫌いだなんて言いたくない……」
「アリス」
「リュート、大好きっ!!」
そう言ってアリスはつま先立ち、
その大好きな婚約者の頬にキスをした。
今年の秋に二人は学園を卒業し、結婚式を挙げる事になっている。
おしまい
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これにて完結です。
五話程度のド短編だと言っておきながら、三話増えての完結となりました。
お読みいただき、本当にありがとうございました!
さてもう次回作の話ですよ☆
書ける内は書き続けますよ!٩( 'ω' )وガンバル
タイトルは
『あの約束を覚えていますか』です。
少女時代に口約束で結婚の約束をしたヒロインととある少年。
少年は家庭の事情で少女が住む街から出て行くが、十数年後にヒロインの上官として街に戻ってきた。
隣りに美しい女性を伴って。
まぁ昔からよくあるようなお話でごさいます。
ジレキュンか?ジレっとしてキュンなのか?
と思われたそこのあなた、是非お読みになって確かめて頂けますと幸いです。
投稿は明日の夜から。
どうぞよろしくお願いします!