デート
僕たちはあの一緒に見た海の最寄り駅で待ち合わせることにした
まずは一緒にランチでも、と誘ったのだ
どんな格好が良いかと聞くので、そんなに気にしなくていいと、それからこちらの格好を聞かれたのでスーツだと答えておいた
当日待ち合わせたところに行くと、彼女はベージュのジャケットを着て、以前よりも柔らかな質感のワンピースを着ていた
色は変わらず青だが、小さな花柄が可愛らしい
靴はぺたんとしてはいるが、パンプスを履いている
僕はその格好に何となく満足して、少し歩こうかと提案した
彼女は少し訝しんだが、頷いてついてくる
けれど、僕があまりにもずんずんと歩いていくものだから、後ろからどこまで行かれるんですか? と尋ねてきた
僕が少し遠い公園の名前をあげると、彼女は何故と聞いた
正直、理由はない。余りに母に気に入られた彼女に意地悪をしたくなったのかもしれない
僕が黙ると、彼女はそれなら行きたいところがあると言った
それは近くに係留してある船で、今は使われていないが中を見学することができた
僕は彼女についていき、彼女は嬉しそうに興味深そうに内装を見て回っていた
レトロなラグジュアリー船の内部は美しく、母もこういうのが好きそうだと思った
一通り見て回ると満足したのか、楽しかったと彼女は僕にお礼を言った
僕は思わず顔を逸して時計を見る
良い時間になっていた
「行こうか」
「はい」
彼女はご機嫌で、僕の後をついてくる
僕たちは来た道を戻っていった
僕は予約していたレストランに彼女を伴って入った
きょろきょろと彼女は辺りを見回して、席に案内されると生真面目に今日のコース説明を聞いていた
僕たちが魚のコースを頼み、ウェイターが下がるとまた辺りを見回す
「珍しい?」と聞くと、内装を見てるのが好きだと言う
かけられた絵を見て、何とかに似てるだとか、装飾が細かいだとか言う
僕はふぅんと思いながら、彼女の指す場所を眺めた
そうしているうちに食事が運ばれてきて、僕たちは黙々と料理を食べた
彼女は戸惑うことなくカトラリーを使ったし、食べ方も綺麗だった
僕は不思議だな、と思った
彼女にあまり教養があるとも思っていなかったし、母のいう品性のようなものも感じていなかった
けれど何故だか、ウェイターは彼女にとても丁寧ににこやかに接するようだし、所作も申し分ない気がした
僕だけが分かっていないだけなのかな、とそんな気にさせられる
食事が終わって外に出ると、彼女は歩こうと言ってきた
今度は僕が彼女について歩いていく
どこに行くの? と聞くと、僕が最初に行った公園だという
行きたかったんでしょう? と
僕が少し顔を引きつらせると、彼女は笑った
少しは歩かないとだめですよ、と
どこか、出始めた僕のお腹を見ているような気がした
結局僕たちはその公園まで20分ほども歩いて、疲れて座っている僕に、彼女は飲み物を買ってきてくれた
甘くない、ただのお茶だ
僕は飲み物を差し出す彼女を、やっぱり不思議そうに見上げた
歩きたくないとも言わないし、料理に一度も文句を言わなかったし、へばっている僕を気遣ってくれる
ありがとうと受け取ると、彼女も隣に座った
疲れたのか、ふぅと息を吐いてお茶を飲む
僕たちはそのまましばらくぼんやりとしてから解散した