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狼ラプソディ

作者: みぶ真也

 一世紀に渡るロマンスの一大長編ドラマの撮影が終了した。

 長丁場の最後は、一ヶ月のヨーロッパロケ。

 但し、ぼくの出番はその前に終わっているので、残念ながらロケには参加出来なかった。

 打ち上げにホテルの会場を予約していたのだが、新型コロナの影響でキャンセル。

 結局、撮影中長く一緒だった一部のスタッフキャストだけで小さな飲み会をすることになったのだ。

 場所も場末の居酒屋。

「お疲れ様でした」

と地味な乾杯の後、雑談が始まる。

「ヨーロッパロケ、どうでした?」

 ADの草間くんに尋ねてみると、

「全然、面白くなかったです。コロナのせいで、撮影以外はホテルから出られなかったんです」

「それは、残念でしたね」

「それに、森で夜間撮影してる時に、野良犬か何かに噛まれちゃって…」

 ズボンをめくりあげる。

 なるほど、ふくらはぎに歯型のような傷痕が残っている。

 少人数とは言え、それなりに盛り上がった打ち上げの後、帰る方向が同じなので草間くんとタクシーに乗った。

 彼は飲み過ぎたらしく、乗車すると同時に前のめりになって寝てしまう。

 しかたないのでぼくが行き先を告げ、タクシーが走り出す。

 窓から満月のあかりが差し込んで来た時、草間くんに異変が起きた。

「う~ん、う~ん…」

 喉を鳴らすような苦しげな唸り声をあげ始めたのだ。

「おい、大丈夫か?」

 背中をさすろうとして、ぼくはぞっとした。

 背中の感触がおかしい。

 セーターの下に毛皮を着込んでいるかのように、ゴワゴワしている。

「草間くん、大丈夫か?」

 答えることもなく、喉を鳴らすように唸っている。

「吐きそうなのか?」

 尋ねても、相変わらず唸り続けるだけだ。

「お客さん、停めましょうか?」

「お願いします」

 一端、停車する。

 神戸市といっても北区の山の中。

 運転手も車の中で吐かれたら困ると思ったのかも知れない。

 空には満月がこうこうと輝いている。

 そういえば、草間くんはヨーロッパロケで森で野良犬か何かに噛まれたと言って傷痕を見せてくれた。

 もしかしてその野良犬というのは…

 草間くんの背中が波打つように動き出した。

「ドア、開けてもらえますか?」

「わかりました」

 運転手さんがドアを開けると、苦しんでいた草間くんが急に勢いよく外へ飛び出した。

 四つん這いのまま山奥へ走り去る。

 それ以来、草間くんは行方不明だ。

 そして満月の夜、神戸市北区の山の中で狼の遠吠えのようなものを聞いた人がいるという。


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