第四話 峯原 雄大
「りっちゃん、なんか今日嫌なことでもあったの?」
「えっ?」
「だって今日りっちゃん帰りが遅かったし、それに…」
「それに?」
「本買って帰ってきたでしょ。」
「あ。」
ソファを見ると、小さめの本と大きめの本がまだ書店のレジ袋から取り出されずに放置されている。
「ストレス溜まった時とかに本買っちゃうその癖、未だに治らないわね。」
「……。」
子供扱いされているようで少し恥ずかしかった。
「で、今回は何の本を買ったの?」
「えーと、何だっけ?」
自分が買った本なのに全然思い出せない。レジ袋をダイニングテーブルの上に置き、二冊の本を取り出してみる。
「小さい方の本は小説?タイトルは…『五年三ヶ月後のラブレター』、タイムスリップものね。」
「猫目さんこれ知ってるの?」
「確かだいぶ昔にドラマでやってたわ。ストーリー自体が古臭いってことでえらく不評だったけど。」
「えー、そうなの?」
「キャスティングでなんとかフォローしてた感じだった。…でも珍しいわね。りっちゃんいつも小説だったらミステリーかヒューマンホラーしか買ってこないのに…。やっぱり今日何かあった?」
「いやっ、ホントに何もないよ。ちょっと疲れてるだけだと思う。」
「そう?ならいいんだけど。で、もう一冊は?」
二人はもう一冊、大きい方の本の表紙を見た。
『サルでも楽しめる!!フェレットの飼い方 入門編』
「やっぱりりっちゃん今日何かあったわね…。」
なんだかんだで猫目はそれ以上の追及はしなかった。
優しさの感じられる放置。六花にとってそれは心地のいいものだった。
猫目は啓斗が雇った住み込みの家政婦である。
ただの家政婦ではない。泉が日本にいない今、六花を育てる母親代わりとして雇われた、“六花の乳母”であり“育ての親”である。
地球の裏側とでも秒で繋がれるこのご時世に電話の一つも寄越さない実母と浄水器の訪問販売と同じくらいの頻度でしか家に姿を見せない父親。それはもはや『血や戸籍などで接点がある人たち』にすぎない。六花にとっての一番の家族は猫目である。
その証拠に猫目は六花のことはなんでも理解している。食べ物の好き嫌いはもちろんのこと、六花が時計をコレクションする際の選考基準まで把握している。自分の買い物に関して人から干渉されるのが大嫌いな六花に対して唯一意見を言えるのが猫目である。
癖を指摘されて子供扱いを受けても六花が反抗しないのもそのためなのだ。
泉や啓斗は娘である自分のことをまるで理解していない。だから理解したつもりでいられるのが癪に触って反抗するのだ。しかし猫目に対しては反抗のしようがない。お見通しなのだから。
キッチンに立って晩御飯を作っている猫目の姿をこうしてリビングのソファから見ていると六花はつくづく思ってしまう。
どうしてこの人が自分の母親じゃないんだろうと。あの人なんかよりよっぽど私の母親でいてくれているのに…。
「ん?どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ。」
「もうちょっと待っててね。この前テレビでやってた和風アクアパッツァのヘルシー風がもうじき出来上がるから。」
「いや『風』二回入ってんじゃん。」
「あ、ほんとね。」
こういうボケ方をするところも猫目さんのある種いいところかもしれない。そう思いながら六花は今日買った小説を読み始めた。
無意識に本を買って帰る癖。この癖が初めて出たのは小学六年生の時だった。
テストでいい点が取れず、塾の講師にこっぴどく怒られた。当時無理矢理通わされていた、金持ちばかりが通う感じの悪い塾。その塾で、自分は頭がいい人間だと信じて疑わないナルシストな講師に罵詈雑言を浴びせられた。
家に帰ると手提げかばんの中に包装されたままの本が入っていた。知らないうちに万引きしてしまったんじゃないかと思って慌てた。財布にきちんとレシートが入っていて安心した。
確かに買ってはいるが買った記憶のないその本は『ウツボカズラの反撃』という、体罰教師が殺人犯に仕立て上げられて世間から袋叩きにされる復讐ミステリーの小説だった。
その後もこの癖は忘れた頃に現れるようになった。
この癖の特徴は二つある。一つは良いことか悪いことかは関係なく、ある一定度の衝撃を受ける出来事に直面すると発生するということ。
そしてもう一つは、買ってしまう本は決まってその出来事に何かしらちなんでいるということである。
お気に入りだったウミガメのキーホルダーを川に落としてしまった時には、スコットランドの海洋研究家が世界中で撮影してきたウミガメの写真をまとめたフォトブックを買っていた。
またある日の夜遅くコンビニにアイスを買いに行く途中で、四十年周期で見られるというパレンバル彗星を偶然見た。その時はアイスと一緒に、雑誌コーナーの隣のラックにあった小説も買っていた。ヒューマンホラーだった。たしかタイトルは『降る星たちを君と埋めて』。
中学時代に密かに好意を寄せていた男子が他の女子とデートしてるところを見てしまった日に至っては、ミステリー小説を上下巻セットで買っていた。タイトルは『狂気はいつも植物園に』。しかし今にしてみれば、植物園をデート場所に選ぶ彼と自分とでは価値観など合うはずもないだろうと思う。
そして今日また本を買ってきてしまった。
なぜだろうか、この癖の特徴はよく分かっているはずなのに思ってしまう,受けた衝撃に引っ張られ過ぎだろと。
タイムマシンをビジネスに利用している店なんて現実的にありえるのか、いいやありえない。
二本足で立つフェレットがおじさんの声で人間の言葉を喋るなんてありえるのか、いいやありえない。
それ単体でも十分ありえないような事象にダブルコンボで遭遇したのだ、衝撃を受けるまではうなづける。いつもの癖が出るのも仕方がない。
しかしだからといってここまでわかりやすく動揺していいものか!
六花は自分自身にひどくムカついた。そしてなぜだかとても悔しかった。
「・・・最近はフェレットもそこまでマイナーな存在じゃない。需要も年々高まってる。ウミガメの時みたいに、写真集なりフォトカレンダーなり探せばあったはず・・・。それがどうして『飼い方』を選んだ私?!
ビックリはしたよ、確かに。何なら今でも今日見たあれは夢か幻だと思ってるよ。だからって飼うにベクトル向かなくてもいいじゃん!しかもちゃんと初心者向けのだし。一瞬だけ猫目さん、『飼うの?』って目してたし。
そりゃあ生き物飼ったことないけどさ。だからってわざわざ『サルでも楽しm・・・って誰がサルだ!!」
晩御飯を食べ終わって自分の部屋に戻った六花は、今日買った2冊の本を勉強机に並べて文句を言い続けた。ちなみに晩御飯の和風アクアパッツァのヘルシー風を六花は何度もおかわりして、ものの見事にすべて平らげた。ご近所へのお裾分け用に猫目が多めに作っていたことを知る由もなく・・・。
六花自身わかっていた、自分の感情を抑えきれていないことに。暴飲暴食がその何よりの証拠である。しかし今彼女の部屋に彼女の感情をぶつけられる“的”になるものがない。今日買った本二冊に対してでは到底ぶつけ足りない。故に六花は空中に文句を投げ続けている。
ひとしきり文句を言ってから深呼吸をして一度落ち着く。そして小説の方を手に取ってベットに寝転がる。栞をはさんでいたページを開けて、枕の上に広げて続きを読んでいく。
第三章の途中まできたが、よくこれでドラマ化されたなと思う。
『君に僕の気持ちを伝えるよ、時空を超えてでも。』
製本化に至った経緯を是非とも知りたいものだ。
それにしても今日見たアレは本当にタイムマシンだったのだろうか?
外観はそれっぽかったが、それ以外は全然タイムマシン感がなかった。
もっと車みたいな乗り物に乗るイメージだった。もっと時空のトンネル的なものが出てくると思った。もっと人が瞬間移動するようなものだと思った。しかし実際は全然違った。
里子さん座ったままだったし。そのまま帰されてたし。
あれだけみたらどう考えても詐欺である。
ただ、そんじょそこらの磁気ネックレスの詐欺商法なんかよりも信用できる何かがあの家にはあった。
あの一見胡散臭い男が詐欺師の皮を被った何かに見えたからだろうか?
タイムマシンには似つかわしくない装置に何かを感じたからだろうか?
「りっちゃん。まだお風呂入らないの?」
「猫目さん。・・・スケッチブック買いたいんだけど。」
「スケッチブック?この前買ったばかりじゃない。」
「うん、そうなんだけどね。」
「・・・何か大作を描こうとしてるの?」
「そう。“大作”をね・・・。」
六花は『五年三ヶ月後のラブレター』を栞を戻さずに本棚に置いた。
「んー。竜頭の破損部分は二日もあれば修理できますが、問題は電池ですね。このモデルに使われているのは国内では販売してないんですよ。」
「そうなんですか!?」
「イタリアから発注することになります。」
「フランスじゃなくて?」
「青いベルト部分とパッと見のデザインでよく勘違いされるんですが、この時計はイタリアで製造されてるものです。デザイナーがかなりこだわりの強い方で、使う電池までこの時計専用にしちゃったんですよ。」
「へー、そうなんですね。で、電池の交換はどれくらいで済みますか?」
「最短でも一週間はかかると思います。間に合いますか?」
「なんとかなると思います。」
「誰かからのプレゼントでしたか?」
「ええ。今度ちょっとしたお祝いがありまして。そこで着けていこうかなと。」
「お祝いというのは、浮気相手の方との?」
「えっ!?…あいや、妻とのお祝いですよ。」
「時計自体もイタリアでしか販売してないんですよ。奥様がイタリアでお買い求めに?」
「た、確かそう言ってましたよ。」
「数量限定で即完売だったので販売してた期間は七年前の約二ヶ月間に限られます。」
「……。」
「その頃妊娠していた奥様がどうやってイタリアへ?」
「どうしてそれを?」
「スマホのロック画面。お子さんの入学式の時の写真ですか?」
「ええ。」
「背景に写っているカフェののぼりの新メニュー、今年のものですよね?つまりお子さんはおそらく今ちょうど七歳ですね。もし時計の販売期間中に奥様が妊娠中だったとすればその時計を買ったのは誰なのか…。」
「どうか!どうかこの事は内密に!!」
「顔を上げてください。僕は探偵でもなければ強請り屋でもないですから。その代わりに如月堂の存在を口外しないでいただく。双方秘密厳守でいきましょう。」
「…ありがとうございます。」
「それではこちらの時計は一度お預かりいたします。修理と電池の発注・交換すべて込みで二万三千円です。」
「じゃあ、これで。」
「ありがとうございます。仕上がりましたらまたお電話させていただきます。」
「わかりました。」
ピンポーン。
「おやおや、もう次のお客様ですか。」
「次のお客…、まさか妻がここに!どうしよう!」
「落ち着いてください。おそらく奥様ではなく単なるこの店の客です。」
「そっ、そうですか。」
「いいですか。上手に隠し事をするコツはきっと『隠しているという事実を意識しない』ことだと思います。あなたが思っている以上に奥様はあなたが何を意識しているか知っていることでしょうから。」
「はぁ…。」
「玄関までお送りいたします。さ、行きましょう。」
・・・来てしまった。
昨夜の決心が当日になって揺らぐということは往々にしてある。
授業中も「やっぱり真っ直ぐ家に帰るべきなんじゃないか」と彼女は何度も自分に語りかけた。
帰りの道中でも、実は狐狸にでも化かされていて記憶をたよりに訪れるとそこは空き地だった、なんてオチじゃないかとか思いつく限りのパターンを妄想しまくった。
しかし今、如月堂は確と目の前に存在している。
夢でも幻でも蜃気楼でもない。狐狸に化かされている説は…一時保留とした。
何より彼女も自分の意志でここまで足を運んできてしまった。興味がすべてを上回ってしまったようである。
昨日は里子と遭遇してこの場所に辿り着くまでに時間がかかったから辺りは真っ暗だったが今日はまだ明るいうちにここへ来た。
家全体が昨日よりも小さく見えるのはそのせいだろうか?と六花は思った。
インターホンへ伸ばした手を一度引っ込める。最後に自分を躊躇させているのは恐怖か?それとも怒りか?
腰に手を当て空を見上げ、大きく深呼吸をする。
そして再びインターホンへと手を伸ばす。人差し指がスロー再生のようにゆっくりとインターホンのスイッチに近づいていく。あと十センチ、五センチ、一センチ…。
ピンポーン。
・・・反応がない。留守だろうか?そうだ留守に違いない。つまりこれ以上ここにいても意味はない。そうだ今日は帰ろう、延期にしよう。そう思った時だった。
ガチャン!
玄関から男二人が出てきた。
「・・・何やってんの、六花ちゃん?」
インターホンを指差した状態で六花は固まっていた。
「それではまた後日ご連絡させていただきます。」
「あっ、あーはい!よろしくお願いします。」
おどおどした様子で帰っていく客と入れ替わりように六花は玄関へと向かう。
「いらっしゃいませ。来るとは思ってたよ。」
「お得意のご名推理ですか?」
「“ご”は余計じゃないかな。推理なんて大したものじゃないよ。はいこれ。」
そういうと薬袋は六花に大学ノートを渡した。
「ここへ戻るための口実に忘れ物するんだったら、もうちょっと忘れ物感のあるものなかったかなぁ。」
六花は昨日いたリビングに通された。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。…。ハーブティーなんて飲むんですね。」
「あらら、飲まなそうなイメージ持たれてるの?」
「なんとなく。さっきの男の人もタイムスリップしに来たの?」
「いいや、あの人はただ時計の修理依頼に来ただけ。ほら、あれ。」
薬袋が目線をやった棚にはさっきの青ベルトの腕時計が置いてあった。
「電池切れだったら修理期間長くなりそう。イタリアからの発注になるでしょ?」
「ホントに君は時計好きなんだね。ちなみに言っておくと、ハーブティーは来客用で僕はコーヒー派なんだ。」
「・・・。」
「えっ、コーヒー飲むイメージも持たれてないの!」
「誰もそんなこと言ってないわよ!ていうかそんなに気にするところかなそれ?」
「相手にどんなイメージを持たれてるか知るのは大事なことだ。それは自ずとその相手の価値観を教えてくれる。」
薬袋はマグカップにコーヒーを注ぐと、テーブルを挟んで六花と向かい合うようにして座った。
「例えば、さっきの客は自分が持ってきた腕時計をベルトの色でフランス製だと判断した。それはその客が持つ『青は国旗の色にも使われてるからフランスを連想させる』という認識を暗に示しているんだよ。」
「その時計に興味なかっただけじゃない?浮気相手からのプレゼントだったとか。」
「ゴホッ!」
薬袋は思わずむせてしまった。
「ちょっと大丈夫?!」
「あぁ、大丈夫、大丈夫…。…あのもしかしてだけど、僕とさっきの客との会話盗み聞きしてた?」
「いや、するわけないじゃない。勘で言ったのよ。指輪さすってたから。」
「指輪?」
「さっきの男の人、結婚指輪さすってたのよ。なんか着け慣れてないもの触る感じで。多分奥さんが見てないところでは指輪外してるんだと思う。」
「…なるほど。ご名推理というわけですな。」
「“ご”は余計じゃないかな。」
「で、ご用件は?『大学ノート置き忘れてたのに気付いて取り来ました!』なのかい?」
「いいや。」
「だろうなぁ。じゃあ一体何なんだろうか?わざわざこんな回りくどい言い訳を作って、一日ブランクもとって、前衛的なインターホンの押し方をして、僕のコーヒー派イメージを無言で一蹴して、挙句来客用のハーブティーをおかわりするんじゃないかというくらい長居までして。それでも君はここに目的があって来た。君はここへ一体何をしに来たんだろうか?さぁお答えください!」
「いや、来た理由を聞きたいの?それとも私の言動を非難したいの?どっち?」
「両方の思いを込めてみました。」
「答える気がみるみる失せていくんですけど。」
「ハーブティーの二杯目やっぱりお下げいたしm…」
「わかりました、答えます!おかわりお願いいたします!」
薬袋はティーカップを六花の前に置いた。
「じゃあ改めて聞くけど、何しに来たの?」
「・・・スケッチよ。」
「え?」
「如月堂にある時計を全部スケッチしようと思って・・・。」
「・・・嫌がらせ?」
「私がここに通うことは嫌がらせなの?」
「そうじゃない。それだけ時計が好きならわかるだろ。これだけの芸術品が集まっているのにはそれ相応の理由がある。部外者にのこのこ出入りされては困るんだよ。」
ふざけているように話しているが言っていることは的確だった。
タイムマシンが無くてもここの存在はそう簡単に露見してはいけない。
六花は薬袋の感情が読み取れなかった。モノクルが彼の表情を分かりにくくさせている。
「別にここの存在は口外しないわよ。」
「信用できる根拠は?」
「単に時計が好きだから。それ以上の理由はないでしょ。」
「根拠にはなってない。そもそも実物が無くたってスマホ検索で画像は出てくるでしょう?」
「スケッチの出来を決めるのは描く対象の存在感よ。実物があった方が断然良いに決まってる。それに言ったでしょ、全部スケッチするって。」
今度は六花にもわかった。薬袋は今困惑している。彼女の意図に気づいたのだろう。
薬袋はどこでもないところを少し見つめてからもう一度六花の顔を見た。
「あんなものスケッチして何になる?」
「あなた言ってたじゃない、『あれも時計だ』って。この世に存在する時計全てを描きたいの。そうなればあの時計も描く対象ということになる。」
「・・・二月乱天時計だ。」
「えっ?」
「あの時計の名前だよ。『二月乱天時計』っていうんだ。」
「なんで二月なの?造られたのが二月だから?」
「いいや。」
「二月に起こった出来事に由来しているとか?」
「いいや。」
「製作者の名前が二月さんだからとか?」
「いいや。」
「じゃあ何?」
「二月限定なんだよ。」
「何言ってんの?今は十月だけど昨日普通に稼働してたじゃない。」
「そうじゃない。行き先が二月限定なんだよ。」
「行き先が?」
「二月乱天時計は過去や未来を自由に行き来できるわけじゃない。過去、それも二月にしか行けないんだ。」
「何それ、めちゃくちゃ不便じゃん!」
「漫画やSF映画じゃないんだ。そういきなり時間軸を全網羅したタイムマシンなんてできるわけがない。」
「そういうもんなの、タイムスリップって?」
六花はまたしてもペースを崩されてしまった。
「おい要、ミス・オールソンのご飯が切れちゃったから買ってきてくr…、あっ、昨日の小娘か!」
奥のドアから聞き覚えのある声がした。見るとそこには『伴さん』がいた。
その姿は変わらず二本足で立つフェレットそれそのものである。なんなら昨日よりも鮮明にフェレットそれそのものである。
「やっぱりどう見てもフェレットじゃん。」
「口を慎め、小娘が!お前もお前でなんで客でもない小娘を簡単に上がり込ませてるんだ!」
「まぁそう怒るな伴さん。これは面接なんだから。」
「面接?」
「とりあえず時給は五百円くらいが妥当だと思うんだけど、どうかな?」
「いや、何言って・・」
「ここで働いてみないかい、喜志森六花さん?」
ここ半月程、両目の充血が止まりません。
時折フラッシュモブのように痒みもやってきます。
「眼科に行かなきゃ!」と意を決したタイミングに限って用事が舞い込んできます。
半月も経つともう神様からマイルドに呪われてるんじゃないかと思ってしまいます。
「中途半端な素人が小説連載すんな」って。
幼稚な文章、味気ない構成、伝わりづらい展開、確かに呪いたくなる気持ちもわからなくはありません。
それでもめげずに頑張ろうと思います。アイボンが尽きるその時まで。