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第3話 お母さんの寿命を伸ばした

 十歳になった。


 朝食を食べ終わると、俺は日課の読書を始めた。

 今日読んでいるのは、「放射性ヒヒイロカネの核分裂について」という本。

 お母さんが言うには、これは何千年も昔に書かれた「古典」というものに該当するらしい。


「ハダルは人間なのだから、将来は人間社会で生きていく必要がある。そのためには教養が必要だ。そして教養といえば古典だ」


 そんな理由から、俺は6才あたりから何千年も昔の本を読まされまくっているのだ。


 こういった本に使われる言語は、普段お母さんが使う言語とも捨てられる前に使ってた言語ともかけ離れているので、最初は読むのにかなり苦労した。

 何か月もかけて基礎的な単語と文法の知識を入れた後、初めて読んだ文章がどこぞの国の王子による「姫様かわいいね」的な手紙だった時は、正直かなり学ぶ意義を疑ったものだ。


 だが今となっては、こうしてためになる内容の本を読めているので、ここまで続けてきてよかったなと思っている。


 そんな経緯から、今俺に分かる言語はお母さんの母語である「竜語」、古典のための「古代語」、そしていずれ人間社会に出る時に使うという「大陸共通語」の三つにもなっている。

 一番慣れ親しんでいるのがどれかというと、間違いなく竜語だ。


 1時間かけて120ページほど読み進めると、俺はそこに栞を挟んで本を閉じた。

 そして、魔法の勉強に入ることになった。


 ◇


「今日教えるのが最後の魔法だ」


 突如として……俺はお母さんからそう告げられた。


「その魔法とは……寿命延長魔法」



 これまで俺は、以下のような順番で魔法を学んできた。


 まずは、単純だが魔力消費は多い魔法。

 若いうちは魔力を使えば使うほど総魔力量が増えるので、一発あたりの魔力消費が大きい魔法をガンガン使おうという方針でそれらを習ってきた。


 それを一通り習熟すると、今度は魔力消費こそ小さいが高度な魔力操作が必要となる魔法を習い始めた。

 ちなみにお母さんは、そういった魔法は使えないらしい。

 時にはお母さんが人間の姿になって山を降り、魔導書と呼ばれる教科書を買ってきてくれたりしつつ、俺はそれらの魔法を習熟していった。


「こういう魔法を使うのは人間の特権だからしっかり習熟しておきなさい」とのことで、頑張って身につけてきた。


 9才になったころからは、魔力消費が大きく、かつ高度な魔力操作も必要な魔法を習いだした。


 高度な魔力操作が必要な魔法は、その分暴発もしやすい。

 だから俺は、まずは暴発しても大惨事にならない、魔力消費の小さい魔法から習い始めていた。

 が、そういった魔法が1000回撃っても1回も暴発しないレベルになってくると、「そろそろ教えてもいいだろう」という判断になったようで、魔力消費の大きい魔法を教えてくれるようになったのだ。


 これらの魔法は、一つ一つ習熟するごとになぜかお母さんが「おお……この魔法が実際に発動されるのを目にできる日が来るとは……」と涙するほど感激していた。

 なんか自分で理論を組み立てた魔法だかららしい。


 そしてそれらも……今日に至るまでで残すところあと一つというところまで来ていたようだ。


「魔法陣はこれだ」


 お母さんは魔法陣を見せてくれた。

 例によって、お母さん自身では発動できないらしい。


「この魔法は私にかけてほしい」


 しかしそう言われると……流石に俺も躊躇した。

 ……魔法陣を見るのも初めての魔法だぞ?


「自分でも撃ったことのない魔法でしょ? ぶっつけ本番はちょっと……」


「ハダルなら大丈夫と信じているのだがな……」


 いやいやいや。信頼してくれてるのは非常に嬉しいんだが、その手の親バカは万が一の事故に繋がりかねないだろ。


「……まあでもどうしてもというなら、試し打ちをしてからでもよかろう」


 それでも、俺の不安げな気持ちを汲んでくれたのか。

 お母さんはそう言って、魔法の試し打ちを許可してくれた。


 寿命延長魔法だよな。

 てことは魔法の発動対象は、何らかの生物である必要がある。


 生物、生物……あっ、ちょうどいいところに兎が。

 まずは魔法発動前の寿命を知っておくべく、俺は寿命解析魔法を発動した。


 兎の寿命は、残り二か月のようだ。

 その確認が済むと、お母さんのオリジナル魔法である寿命延長魔法を、兎にかけてみる。


 見た目には何の変化もない。

 が……再度寿命解析魔法をかけてみると、兎の余命が150年にまで伸びているのが確認できた。


「……うん。問題なく使えるみたい」


「だろう? 我の魔法理論にも、ハダルの発動能力にも、初めから問題などあるはずもなかったのだ。さあ、我にもかけてみておくれ」


 お母さんの現在の余命は、あと477年。

 それを確認した上で、先ほど兎にかけたのと同じ魔法をお母さんにかける。

 すると……お母さんの余命は、1526年にまで伸びた。


 同じ魔法をかけたはずなのに、1000年以上も伸びたな。

 生物種によって伸び率が違ったりするのだろうか?


「どう?」


「な、なんという素晴らしい効果……明らかに身体が軽くなったように感じるぞ」


「これって……何回か重ね掛けしたら、その分もっと寿命が増えるの?」


「ああ、そういう風に術式を設計したからな。ハダルの魔力に余力があるなら、もっとかけてほしい」


 お母さんの希望に沿い、俺はあと8回ほど寿命延長魔法を発動した。

 余命が一万年に近づいたところで、「流石にこれまでの倍も生きられれば十分だ」と、お母さんの方からストップが入った。


「なんという素晴らしい効果……立派に成長したものだ」


 お母さんが感激する光景は、お母さんオリジナル魔法を習得する度おなじみとなっているのだが……今回の感激は、ひときわ大きい気がする。

 そこまでのことをした実感はあまりないが、寿命が伸びたのはそれだけ嬉しいことなんだろうな。たぶん。


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― 新着の感想 ―
[一言] 余命が150年のウサギって… その内言葉を話しだしたりして。
[気になる点] 実際にやるかどうかは別にして、ここで自分にも魔法をかけてみる的流れがあると、より面白い展開になりそうだったのに、と。
[一言] はやく!はやく!
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