第11話 合金を錬金して見せた結果
「こんな感じで作ればよくないですか? もちろん実際現場で使う際には、もっと大量に」
そう言いつつ、俺は剣を作った時と同じ錬金魔法で、一辺3センチのオリハルコンーアダマンタイト合金の立方体を作った。
「これで骨組みの材料費は実質タダでは?」
そしてそう続けながら、俺はその立方体を机の上に置いた。
まあ厳密には、タダとはいかないだろうがな。
それでもかかるのは下請け魔法使いの人件費分程度なので、もともとの材料の原価すら下回る金額で調達は可能だろう。
「……えっ……え!?」
職員はといえば、突如空中から現れた金属塊に目が釘付けのまま、開いた口が塞がらなくなった。
「重っ……! この重さは間違いなくアダマンタイト合金……こんなもの、一体どこから?」
「普通に空気を錬金魔法で変換しただけですが」
「空気をアダマンタイト合金にできる錬金魔法が普通なわけあるか!」
現象を説明すると、なぜか職員に勢い良くツッコまれてしまった。
「というかさっき……現場で使う際はもっと大量に、とか言っていたな? その錬金魔法、そんな大規模に使えるのか?」
「まあそのくらいは……」
「なんて出鱈目な……ちょっと待っててくれ」
かと思うと、職員はそう言ってどこかに駆けていってしまった。
「アダマンタイト合金を空気から……?」
「そんなの教科書のどこにも載ってなかったよな……」
「建築業界の根幹を揺るがす技術で草」
職員がいなくなった間、他のインターン生たちは各々そんなことを呟き始める。
原子変換錬金魔法、割とメジャーな錬金術の一種だと思うんだがな……。
教科書に載ってないとは、一体どういうことだろうか。
色々不思議に思いつつも、5分くらい待つ。
するとさっきの職員が、目元のキリッとした長身の中年男性を連れて戻ってきた。
「はじめまして。私がバンブーインサイド建設の社長のライトだ。この中に、空気を錬金してアダマンタイト合金に変えたインターン生がいると聞いたんだが……」
長身の中年男性は机の上の金属塊に目をやりつつ、半信半疑な様子で自己紹介をした。
……社長!?
社長なんか呼んできてどうするんだ。
「あの……彼です」
などと思っていると、最初の職員が俺を指しつつ、社長に説明する。
「ほう……君か。良かったら、私の目の前でもう一度、錬金魔法を見せてくれないかな?」
「あ、はい」
社長を呼んでまで何をしたいのかさっぱりだが、一応言われた通り原子変換錬金魔法を発動することにする。
今回はさっきと同じサイズのオリハルコンーアダマンタイト合金の他、5センチ四方のミスリルーオリハルコン合金も作ってみた。
「こんな感じです」
「うむ、実際に見ても尚、にわかには信じ難い光景だな……。だが確かにこの光沢は、オリハルコンーアダマンタイト合金とミスリルーオリハルコン合金だ……」
生み出した金属塊を見て、社長はそんな感想を述べる。
かと思うと、社長はとんでもないことを言い始めた。
「ちょっと君、悪いが今日は通常のインターンに参加するのではなく、私に付き合ってくれないか?」
「……え?」
「こんな特殊技術を持っているんだ。学生ではなく一事業主として、君に案件の相談をしたい」
……あれ。
なんでそんな話になってるんだ?
「ついてきてくれ」
「……あ……はい」
社長に手招きされたので、とりあえず行くしかないなと思い、後をついていく。
「ではこちらでは、通常のインターンを続行する」
職員は他のインターン生相手に指導を再開し、俺たちは完全に別行動となってしまった。
◇
社長についていった先にあったのは、巨大な倉庫だった。
倉庫に着くなり、社長はこう聞いてきた。
「ではまず単刀直入に聞きたいんだが……君、さっきの合金はどれくらい錬金できるんだ?」
どれくらい、というのは魔力の限界的な意味合いだろうか。
「そうですね……一日あたり馬車1000台分くらいが限界でしょうか」
とりあえず、余裕を持って総魔力量の8割くらいを使って生産できる量を答えてみる。
すると、社長の動きが固まった。
「一日あたり、馬車1000台分……!? 作れる量まで現実離れしてると来たか。変な夢でも見ている気分だ……」
……あれ。
もしかして社長、なんかとてつもなく巨大な馬車でも想定しているのだろうか?
一応俺は、標準的な最大積載量1.5トンくらいの馬車を想定して1000台と答えたつもりだったのだが。
10倍くらいの量を想定されでもしてたら、訂正しないといけないぞ。
などと焦っていると、社長はこう続けた。
「……分かった、とりあえず信じよう。では早速、取引のほうに移りたい。良かったら……とりあえず今日のところは、試しでオリハルコンーアダマンタイト合金を250トンほど、ミスリルーオリハルコン合金を750トンくらい生産してもらえないか?」
よかった。とりあえず、キャパオーバーした量は求められないようだ。
「建造物の安全性を最優先したいというクライアントは、いくらか抱えているからな。彼らなら、骨組みの材料費に従来の相場の30倍くらいをかけてでも、これらの合金を使いたいと答えるはずだ。オリハルコンーアダマンタイト合金はキロあたり4000クルル、ミスリルーオリハルコン合金はキロあたり3600クルルとして……買取価格は37億クルルとしようと思うが、どうだ?」
安心していると、社長はそう買取価格も提示してくれた。
37億クルルか。
クルルとはここゼルギウス王国の通貨単位で、宿代が朝晩食事つきで一泊6500クルルなので……50万泊相当以上の金額だな。
……って、え!?
「そんなにいいんですか?」
「当たり前だ。君の能力は、それほどの価値があるのだからな」
なんか急に、当面食うに困らない金額が手に入ってしまったぞ。
計算間違いとかじゃないよな。
「錬金場所は……ここでいいんですよね?」
「もちろんだ。そのために倉庫に来たんだからな」
社長に錬金した合金の置場を聞いたところで、早速俺は魔法を発動した。
魔力を5割ちょい使ったところで、要求された量の合金ができあがる。
もちろん、ちゃんと一本一本鉄骨の形に仕上げて、だ。
「ぬおおおお……実際に見ると、とんでもない光景だな……。ちょっと待っておれ」
社長はそう言ったかと思いきや、どこかに走り去っていった。
帰ってきた時は、その手にはマジックバッグが握られていた。
社長はマジックバッグから、大白金貨(一枚1000万クルル相当)を370枚取り出した。
「これが報酬だ。受け取ってくれ」
言われるがまま、大白金貨の山を収納魔法でしまう。
かつて目にしたことのない大金に、俺は完全に心ここにあらずとなってしまった。
が──しかし、社長から受け取るものはこれだけではなかった。
「あとは、これもだ」
そういって社長が俺に渡したのは、一枚の紙。
そこにはこう書かれていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
内々定通知書
ハダル 殿
あなたのゼルギウス王立魔法学園の卒業をもって、当社に常務取締役として配属されることが内々定しましたので、通知いたします。
尚、当社の内々定を辞退する場合には、他社への就業と兼任して当社の社外取締役を勤めていただきたいと思っておりますので、ご了承ください。
(その際の出勤義務はございません)
バンブーインサイド建設
代表取締役社長 ライト=ベールバレー
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「建材の費用としては、予算の都合上さっき渡した額くらいの報酬しか出せないが……あれではオリハルコンーアダマンタイト合金の買取価格としては全く足りていないからな。君は満足してくれているようだが、そこに甘んじるのは大企業の社長として申し訳ない。そこで何か代わりにできないかと考えた結果……役員報酬として、別途人件費を支払うことにしようと考えた」
紙の内容を読み終わった頃、社長はそう説明を付け加えた。
「そ、そんな……そこまでしてくださるなんて」
「当然だ。君のおかげで、他社では到底できない高品質な施工ができるようになるんだからな。弊社の評判の上昇なども加味すると、君の貢献は間違いなく材料費分に留まらない。……会社が潤えば役員報酬もその分はずめるから、今後もそれを楽しみに弊社に合金を供給してくれ」
「は……はい……」
なんか想定の斜め上の更に斜め上を超えてきたけど、まあ貰えるものをみすみす拒否するのはないよな。
俺は内々定通知書も収納魔法にしまった。
「とりあえず今回はお試しでこの量を生産してもらったが、在庫が勢いよく掃けるようであればもっと生産してもらいたいと思っている。需要次第では単価の増加も検討するから、期待しておいてくれ」
最後に社長は、そう話を締めくくる。
37億さえ大金なのに、これを超えてくる可能性まで出てきたときたか。
内々定キープまでできちゃったし。
ただのインターンのつもりがどうしてこうなった。
【※大切なお願い】
少しでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新がんばって!」
と思ってくださったら、
ブックマークと広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです!