日常風景
学校に行くまで億劫だった頃、こんなだったら行きたくなるのになあと、思っていた妄想です。
後、ハリウッドアクションスターが日本の高校生役を演じたらどうするんだろっていうのも。
朝、目覚ましがなった瞬間から彼の戦いは始まる。
昨日家電量販店で購入した、飾り気皆無の目覚まし時計をスイッチごと叩き割り、掛け布団を巴投げし、寝間着を引き千切り、壁掛けごと制服をぶち抜き羽織る。
自室のドアを三度目の体当たりで、番いごと廊下へ押しだし、二階の手すりから階下へ飛び降りた。
リビングのガラスドアへ、腕を十字に交差させて突っ込み、着地と同時に一回転。
いつも通りの盛大な音に、リビングと隣接した洗面所から母が「おはよう」と顔を出す。
テーブルの上にすでに存在した弁当箱を、同じく椅子に立てかけてあった鞄の中に叩き付けると、母が「コーラよ!」と言って、阪神淡路大震災も真っ青にシェイクした魔法瓶を顔面めがけて投げつけてくる。それを彼は歯で受け止め鞄へ。口の中から異物をはき出すと、前歯が一本折れていた。
彼はリビングの窓に鞄を思い切りぶつけ粉砕すると、庭の父が丹誠込めて育てていた盆栽を蹴散らし踏み砕き塀を越え、路地へ出る。
そして、アスファルトを蹴り出し、学校を目指す。
途中曲がり角でパンを咥えた見知らぬ少女とぶつかる、彼女はそのまま道路へ転げると、おばちゃんのスクーターに撥ねられ「私はいいから先へ行きなさい」と、血反吐をまき散らしさわやかにそう言った。
彼はその言葉に一目もくれず疾駆する。
狭い路地の正面から訪れた車のボンネットへ、右肩から体を丸め乗り上げ、そのまま回転し後方へ着地。、そこへ横道から突っ込んできた自転車に乗った同級生へラリアット。自転車を乗っ取りこぎ出す。
鐘が鳴る。
学校前に訪れると身長二メートル五十はありそうな体育教師が鉄製の校門を今まさに閉めようとしているところだった。
彼は自転車から後方へ飛び降りる。自転車は勢いそのまま校門へと突入するが、体育教師は、鋼鉄の門と門壁コンクリの間で自転車を何度もプレスし、それは、ひしゃげ原形すらとどめなくなる。
けれど、彼は止まらない。
自転車を取り除き、体育教師が校門を閉めようとした時、彼は鞄から魔法瓶を取り出し、蓋を開け体育教師に投げつける。吹き出す内容物。
しかし魔法瓶は裏拳とともにくの字に折れ曲がる。
ここまでで、朝の鐘は全四回中三回鳴っている。
後一回。
全身をコーラまみれにしながらも、体育教師は立ちはだかる。
それでも一瞬の隙を突き、彼は体育教師の眼前に迫る。
しかし、そこは体育教師の射程圏内、当然ながら万力のような圧迫が訪れる。
彼は焦り鋼鉄の門と門壁を両手で押し返す。
車五台はまとめてプレスしてしまえそうなほどの力に、彼は全身全霊をかけて抗う。
徐々に、開き始める鋼門、そして、先ほどまでは余裕のあった体育教師の表情がみるみる内に、苦しげな物となり、奥歯をぎりぎりと、押しつぶし噛み砕くような音が聞こえ――――。
バギンッッ!!!
と、体育教師の奥歯が自身の咬合力により砕かれた瞬間、校門は弾かれたように開く。
体育教師はその場に、へなへなとくずおれる。
彼は鞄から弁当箱を取り出し中身を体育教師の顔面にぶちまけ、ようやく学校の敷地内に足を踏み入れる。
そうして、最後の鐘が鳴り響いた。