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プロローグ─長い長い朗読─

どうも、書きたくなったので新規投稿です。





「轟ィ! てめぇまたとんでもねぇ記事書きやがったな!」

「んー? 面白かったでしょ?」

「面白いだろうなぁ俺以外にとってはなぁ!」




 部室に入って来た男子生徒が開口一番、紙切れを握り潰さんばかりにクシャクシャにし、俺の座る机までズカズカと歩み寄ってくる。漫画やアニメだったら、間違いなく怒りマークが、こめかみあたりにくっきり浮かんでいるだろう。

 サッカー部員達が、部室に置いてある箒やらゴミ箱やらを使ってエアバンドをしていた写真を構内にばらまかれたような怒りっぷりだ。実に滑稽……おっと本音が漏れてしまった。

 ケラケラと笑いながら、怒り心頭の彼の顔を見る。さて、どう料理して見せようか。


 もっとも、彼らを撃退する手段は幾らでもある。ちょちょいと揺さぶれば、もうこっちのもの。




「なになに? もっとやっばいのが良いって? しょうが無いなぁ。じゃあ君が部室でサッカー部員達としていた、クラスの女子のルックスランク付け会議の議事録でも流そうか?」

「なっ……なんでそれを!?」

「面白いと思うなぁ。サッカー部の次期エース候補がそんな下世話な会話をしていた! 面白いことが起きそうだよねぇ! あっ、一応言っとくけどさァ……花耶はSSSランクだからね? 次間違えたらあることないことばらまくよ?」

「お前水無月さんのこと好きすぎかよ! もういい! いつか絶対覚えとけよ!」




 若干顔を青ざめた様子の彼は、そのまま僕に向けて握りしめた紙を投げつけ、ドタバタと立ち去って行った。

 甘んじて顔面で受け止めた僕は、その紙を丁寧に広げる。『サッカー部の次期エースの意外な趣味!?』という目を引く書体が踊る紙面。割といい出来だったなと、一人で笑う。一応データはパソコンの中にあるので、どこかで流用させてもらおう。




 ──さて、もうお分かりの事だとは思うが、一応説明。僕はごく普通の私立高校にて、報道部としての活動を全うしていた。

 我が私立桜立高校報道部は、伝統として『面白おかしい新聞を作る』という活動方針があり、正しいことを面白おかしく新聞にするという。


 それに感化された僕は、嬉々として入部。六人ほどの部員と共に毎日面白おかしいネタを集めるために校内を奔走している。

 そのため、校内では誰かと会う度に『げっ……』と顔を顰められる。生徒会と報道部には逆らうな、がこの高校の隠れた教訓だ。


 おっと、自己紹介がまだだった。僕の名前は轟 和(とどろき のどか)。つい二ヶ月前に入学したばかり。ピッカピカの一年生だ。一年生なのに、校内の危険人物リストに入っているともっぱらの噂だ。




「さてと……あれ、メモ帳……」




 作業を再開しよう、といつもの癖でポケットの中に手を入れたが、そこには雰囲気で使っている愛用のメモ帳が入っていなかった。

 どうしたんだっけ、としばらく頭を悩ませていたところで、遠くから聞こえる、とたとたとたとた、と廊下を走る心地よい足音。あぁそうだ、彼女に貸していたんだっけ。

 




「ハイハイのどくん、ただいま帰りましたー!」




 ガラガラガラガラ、ビシッ!


 そんな効果音と共に入ってきた、右手で敬礼する小柄な少女。

 僕の同級生である、水無月 花耶(みなづき かや)。産婦人科ベッドから隣同士という、筋金入りの幼馴染。お互いの家は歩いて二十秒のお隣さん。誕生日はたったの一日違い。酸いも甘いも共に味わってきた。

 元気印が頭上にずっと輝いているような女の子で、小柄な体で運動神経抜群。更に、ちょっと常軌を逸した頑張り屋。その短く切りそろえられた茶色い髪を精一杯振り回しながら、校内を駆け回る。

 部活では主に情報収集係だ。面白そうな噂や出来事を片っ端から集めてきて、それを僕が記事にする。役割分担は割ときっちりしていた。




「お帰り花耶ちゃん。どう? 面白い話はあった?」

「んっとねんっとねー、色々あるよー? 二年の田所先輩の浮気相関図とかー、数学の原田先生の盗撮の証拠とか!」

「OKOK。とりあえず、花耶ちゃんの口からそんな単語聞きたくなかった」




 鈴がなるような心地いい声色で語られるどぎつい内容。

 昔は僕の後ろをよちよち歩きで歩いていた花耶が、汚れてしまった……と胸に来るものがある。同い年だけども。

 昔の無知な花耶ちゃんの方が良かったなぁ……と苦笑い。こうしたのが自分である、という事実にも苦笑い。変わらない人間は、ごくごく一部なのだ。


 イケないことした気分。


 僕はすっと立ち上がり、部屋の中心に設置してある応接用のソファに腰掛ける。ポンポン、と隣の空いているスペースを叩くと、ぱあっと笑った花耶ちゃんが隣に勢いよく座り、僕の腰に抱きついてくる。んふふー、と花耶ちゃんは上機嫌。ほんと、もうちょっと警戒心を持ってほしい。これでも、一応男なんだけど。




「えっと……はいこれ、メモ帳! 貸してくれてありがとう!」

「ほいほいどういたしまして。どれどれ……うわっ、えぐっ」




 隣で季節外れの向日葵が咲いていたが、手に持ったメモ帳に書かれた内容は、この世の闇の赤ん坊みたいな内容が綴られていた。とてもじゃないが、花などには例えられない。

 この子の教育上宜しくないのではないかと思わないでもないが、もう今更だよなぁ……とため息一つ。いつか花耶ちゃんの両親に、責任取れとか言われそうで怖い。いや、怖くない。


 苦笑い一つ、可愛らしい丸文字で書かれた内容を目で追ってく。流石にこれは記事に出来ねぇよ、という内容も容赦なく書かれていた。僕らの記事で、その人間の人生を終わらせることは出来ないので、記事にできるのは決まってごく一部。誰も損も得もしない、しょうもなくも、どこか笑える話のみ。




「……校内に住む男子生徒?」





 ふと、目に止まった異質な文字。


 三日もすれば忘れるようなしょうもない内容が山ほど書かれている中で、その話だけはどうにも信憑性に欠けた。

 いや、信憑性という意味ではどれも裏付けされていない分、無いと言えば無い。しかし、他の話がまだ有り得る話だなぁ……と、取り敢えず納得出来る内容である分、その話だけ異様に目に付いた。


 出来の悪いライトノベルじゃ無いんだ。そんな突拍子もない話があるとは、にわかには信じがたい。



「そうなの! 去年から噂になってたらしいんだけど、一年生……今の二年生さんだね! の男の子が、学校を寝床にしているとか! でも、その人が寝泊まりしてる所は誰も知らないって!」

「……心霊系なの? 僕心霊ダメなんだけどなぁ……」

「大丈夫! おばけは私がぶっ飛ばすから!」




 ぷにぷにぷにぷに。


 シュッシュッシュッシュッ。


 手持ち無沙汰なのか、花耶ちゃんは右手で、僕の頬をその細くて白い親指と人差し指でつまんで遊んでいた。左手は、風切り音が聞こえる程のジャブ。

 幼い時から触感のいい物が好きだった。プチプチ潰せる梱包材や、スライム。それこそ、僕のほっぺもその対象だった。ただ、男子高校生となった僕のほっぺは、そこまでいいものではないと思うのだが。


 だんだん目では追っていけない速度になっている左手から目を背けつつ、花耶ちゃんの頭を撫でる。明らかに僕とは違う柔らかい髪質にドキリとする。決して、ジャブにビビった訳ではない。

 嬉しそうにえへへと笑う彼女を見てしまっては、僕はもう撫で続けるしかない。


 昔のように無邪気に触れ合える程、僕らは幼くないのに。




「……これさぁ、どーやって裏付けする? 学校に寝泊まりしてるのはあなたですかって聞いて回る?」

「夜に二人で学校に忍び込もうよ! 忘れ物しましたって、今から警備員さんに言っておいたら、きっと大丈夫だよ!」

「……今から忘れ物するのかぁ……そうかぁ……」




 何を忘れていこうか。やっぱり筆箱あたりが定番だろうか?

 そんな馬鹿なことを考えながら、さらにメモ帳をパラパラと読み進めていた。

 

 ペラペラペラペラ。


 なでなでなでなで。


 ぷにぷにぷにぷに。


 シュッシュッシュッシュッ。


 ガラガラガラガラ。


 四つの音だけが暫く響いていた部室に響いた五つ目。ジトっとした目線を感じて顔を上げてみると、そこにはやはり予想通りの男が一人。




「……うーい、帰ったぜー」

「おかえり! すっごい土まみれ!」

「どうしたの? 相撲でもしてきた?」

「あれを相撲というのであれば、そうだな」




 憎まれ口を叩きながら入ってきた、やけに背の高い男子生徒。報道部一年生最後の一人、長崎 新(ながさき あらた)

 疲れきった表情を浮かべたかと思うと、ぱっぱと土を払って僕たちの座る反対側に腰掛ける。普段はその目も覚める金髪を後ろで軽く束ねているのだが、今はゴムが切れたのか下ろされていた。

 すっとポケットの中からスマホを取り出し、僕らへ向けてその画面を見せてくる。

 二人して身を乗り出して中身を見てみると、体育館裏の光景だろうか、一人の男子生徒が他の男子生徒に取り囲まれ、暴行を受けている一部始終が映されていた。


 その中の一人がこちらに気付き、凄い形相で迫ってきた所で映像が終わった。




「酷い! 場所教えて! 懲らしめてくる!」

「今頃まとめて生徒指導室だよ。俺は当事者じゃないから早々に開放されたけどな……」




 そう言いながら軽くお腹をさする新。恐らくある程度やられたのだろう、その顔は少し苦しそうだった。

 そんな新を見た花耶ちゃんは、可愛らしく両手の拳を握り締める。拳に青筋が浮かんでいるように見えるのは、気のせいだと信じたい。


 はぁ、とため息。立ち上がって棚の中にある救急箱を投げて新に渡す。




「派手にやられてるね……あーそうだ、新。今日の夜、学校に忍び込もうよ」

「あ? なんでまた……あー、いや待て。もしかして学校に住んでる男子生徒の噂か?」




 湿布を取り出してお腹に貼りながら、思い出すように目線を泳がせる新。流石腐っても報道部。情報を収集する事だけは欠かしていないようだ。

 そうだよ、と首肯してみせると、新は先程よりも不機嫌そうに眉をひそめた。大方、『面倒臭い』とでも考えているのだろう。





「あんなもん、ホントなわけ無いだろ……俺は帰って勉強して寝る」

「…………」

「……そっか。じゃあ、のどくん! 二人で行こっか!」

「よし、お前は留守番な。俺と和二人で行く。あんまり人数多くてもあれだし、怒られるのは野郎で十分」




 無言で睨み付けたのと、花耶ちゃんの爆弾発言。

 二つ合わさった結果、すぐさま手の平返し。


 僕だって、深夜に幼馴染の女の子を連れ回したくもない。が、放ったらかしにしていたら、きっと花耶ちゃんは着いてきてしまう。




「えー! 私も行きたい!」

「花耶ちゃん。待っててくれたら、今日は僕の部屋で寝てていいよ?」

「私、全力でお留守番するね!」




 こちらもまた手の平返し。こんな事でホイホイ釣られてしまって、本当に大丈夫なのだろうか、僕の幼馴染は。

 釣ってる僕も僕だが、と少しの優越感と多大な罪悪感。年頃の男女だぞ僕ら。


 いい子いい子、と花耶ちゃんの頭を撫でてやる。嬉しそうに頭をぐりぐりとボクの右手に押し付ける花耶ちゃんを、新が苦虫を噛み潰したような顔で見つめていた。





























「どうだい? 完璧に合っているだろう? これで少しは信用してくれたかな?」




 目の前の男は、実に厭らしく、かつ無邪気に笑う。


 アニメやゲームでたまに見かける、全知全能のイタズラ好きの神様のようなわざとらしい笑顔。

 小さい子がすれば微笑ましいそれも、ある程度成長した男が浮かべれば、それはもはや恐怖。






 ──そう、僕と新は、目の前の光景に恐怖していた。






 月明かりに照らされた屋上に佇む、少し痩せ、サイズの合っていない制服を着た男子生徒に。




 彼から手渡された、この本に。




















 僕らの名前が背表紙に書かれていて、今日の放課後に実際にあった出来事が、その時の僕らの心情付きで書かれている、その本に。






















 自分が、目の前の男ないし、得体の知れない存在の操り人形でしかないという、有り得てしまってはならない、その事実に。















 ──『神様』が、笑った。



ご閲覧ありがとうございます。神様なんて、本当に居るんですかね。


感想、評価等頂けると、泣いて喜びます。


それでは、また次回。

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