第97話 異界事変㉖
"終焉"の胴体に三筋の爪痕が刻み込まれた。
影の粒子が散り、毒のように広がって蝕んでいく。
「……っ」
"終焉"が前のめりとなるも、光の槍を持って刺突を繰り出した。
俺は指の刃を絡めて軌道をずらしつつ、もう一方の手を突き出す。
指の刃が"終焉"の腰を貫通した。
さらに片脚を破るようにして体外へと出る。
膝をついた"終焉"が歪みを放ったので、俺は両腕で防御した。
感電したような衝撃と共に吹き飛ばされる。
しかし、損傷と言えば腕が少し欠けただけだ。
大哭きの影響で、基礎的な身体能力も向上しており、必殺の一撃でも耐えられるようになっていた。
視界の端では騎士が倒れているが、鎧の防御力があるので無事だろう。
俺は追撃で放たれた歪みを切り裂くと、喜色のままに笑みを深める。
「ハハ、上等だ」
俺は地面に手を置く。
影の大地が変形し、水のような質感となった。
海のように波が立って"終焉"を呑み込もうとする。
"終焉"は両手に裂け目を作り、いくつも重ねることで影の波を食い止めた。
しかし、押し潰されそうになっている。
胴体の傷跡が響いているのだろう。
"終焉"の力を以てしても、瞬時に再生するのは困難らしい。
大哭きの力が、奴を死に至らしめようとしている。
俺がそこに突貫すると同時に、"終焉"が影の波を相殺した。
そして数十本の光の槍を発射する。
「もう効かねぇよ」
俺は防御しながらそのうち一本を掴むと、哭き崩して影の槍にした。
そのまま"終焉"に飛びかかる。
"終焉"も光の槍で対抗してきた。
頭部を狙った刺突を紙一重で弾くと、影の槍を回転させる。
穂先が"終焉"の肩を掠めて、黒い傷跡を描いた。
"終焉"の片腕がだらりと落ちる。
それでも"終焉"は諦めない。
不格好な姿勢から蹴りを放つも、大地から伸びた影の手が足首を掴んで逆さに持ち上げた。
絶妙なタイミングで医者が仕掛けたのだ。
さらに裂け目を操る腕を大鎌が切断して駄目押しをする。
「やめ、て」
いよいよ追い詰められた"終焉"が極光を放出した。
己の存在を破壊力に転換し、周囲を無差別に吹き飛ばそうとしているのだ。
正真正銘、最終手段であった。
医者の影の手が霧散し、大鎌ごと騎士が転がっていく。
球体状の影の大地がめくれ上がり、表面から蒸発していた。
あまりの力に耐え切れていないのだ。
その中で俺だけが"終焉"の間近にいた。
極光に照らし上げられる中、俺の身体はさらなる漆黒へと至る。
何もかもを呑み込む闇の色だ。
その状態で"終焉"に告げる。
「光が輝くほど影は深みを増す」
「――嫌だ」
"終焉"から恐怖が滲み出した瞬間、指の刃がその首を薙いだ。




