第80話 異界事変⑨
隔離用の結界が消滅すると同時に、俺達の攻撃が始まった。
先陣を切って動いたのは"灼熱"だ。
両手から白炎を放射して光の卵を焼いていく。
そこに"分解"が手をかざして補助をする。
光の卵がきしきしと音を立てた。
炎で見えなくなっているが、何らかの変調を来たしているようだ。
固有の能力で存在構造を分解しているのだろう。
"術王"は楽しげに笑いながら術を連鎖させる。
数千にも及ぶ攻撃が四方八方から光の卵に襲いかかっていった。
いずれも並の妄者に当てれば致命的な威力を誇る。
あらゆる防御を想定した魔術の嵐は、どんな相手だろうと滅殺する。
(遠慮がねぇな)
その様子を俺は静観していた。
この遠距離は得意な間合いではないからだ。
哭き崩しで作った武器を投げることもできるが、他の攻撃の妨げになるだけであった。
他の妄者達も黙って見守っている。
いや、一部はこっそりと接近を試みていた。
隙を見て中距離や遠距離から仕掛けるつもりなのだろう。
たっぷり百秒ほど待った頃だろうか。
三人の妄者の遠距離攻撃が中断された。
医者が指示を出して止めさせたのだ。
爆心地に浮かぶ光の卵は健在であった。
多種多様な攻撃を浴びながらも、確かに存在している。
ひびが少し深くなった気がするが、もはや誤差の範囲だろう。
数十万の軍隊すら一瞬で屠る攻撃でさえ"終焉"の殺害には届かなかったのだ。
「こいつは大したものだ」
単純に頑丈というより、攻撃を吸収して己の力に変換したのだろう。
そうでなければ説明がつかない。
これは殺し甲斐がありそうだった。
(近付いて切り裂くか)
そう考えた時、卵のひびの奥から視線を感じた。
じっとりとした嫌な視線だ。
ぞわりと心臓を撫でるような感覚を覚える。
死の予感。
何かが来る。
「おっ」
俺は反射的に身を屈めた。
すると頭上を何かが通過していく。
後ろで悲鳴が上がった。
振り向くと、背後にいた"羅刹"と"滅剣"の首が消滅している。
俺の躱した攻撃に当たったのだ。
四肢が痙攣しているが、間もなく動かなくなるだろう。
妄者でもこれは即死である。
俺は視線を戻す。
光の卵は変わらず浮遊していた。
まるで何事も無かったかのように、静かに君臨する。
ただ、隙間から覗く視線は明確な敵意を持っていた。




