第79話 異界事変⑧
俺達は結界に近付いていく。
すると各国の軍隊は無言で退いた。
所属する兵士の中には妄者も混ざっているが、一様に怯えや驚きが感じられる。
こちらの正体に気付き、関わるべきではないと判断したらしい。
当然の反応だった。
医者が集めたのは、世界でも指折りの妄者達である。
それも癖の強い危険人物ばかりだ。
ここにいる全軍隊を相手にしても楽に殲滅できる戦力だった。
誰であろうと邪魔することはできないはずだ。
ところが、どこかの国の騎士が抗議の声を上げた。
「待て、貴様ら! 何をするつもりだッ!」
怒気を発しながら進み出てきた騎士は俺の前に立ちはだかる。
どうやらただの人間だ。
正義感に駆られたのだろうか。
周囲は同情の目を騎士に向けている。
俺は特に腹を立てることもなく応じた。
「何か用かい?」
「あの妄者の扱いは各国が協議しているところだ。勝手に干渉することは許さん」
「へぇ、いい度胸だ」
俺は気にせず歩み寄る。
騎士は反射的に斬りかかってきた。
「この……ッ!」
「おっと、危ねぇな」
斬撃を躱した俺は、騎士の首を掴んで持ち上げる。
そして、軽く息を吸ってから叫ぶ。
「聞け!」
声は周囲一帯に響き渡る。
それだけで辺りは静まり返った。
誰もが俺の言葉を聞き入れようとしている。
「俺は今から"終焉"の妄者を殺す! お前らは勝手にしやがれ。逃げても加担しても邪魔しても俺は構わんッ!」
言い終えた後に騎士を投げ捨てた。
騎士は咳き込みながら俺を睨み付けるも、同僚らしき騎士に引っ張られていなくなってしまった。
一部始終を傍観していた他の兵士達は、我先にと道を開けて見ないふりをする。
俺達はそうして作られた道を進んでいく。
後ろを歩く医者が小声で嘆く。
「相変わらず無茶苦茶だね。これで鎮まるのは君だからだね」
「知っている」
やがて俺達は結界の前に辿り着いた。
何重にも張られたそれは、各国の魔術師が構築している。
いくつか強力な術が混ざっているのは、妄者が施したものだろう。
とは言え、これらがどれだけ有効なのかは疑問であった。
少なくとも光の卵を封じ込めるには、あまりにも貧弱だった。
俺は哭いて影の身体になると、結界に指の刃を刺し込んだ。
十本の刃は何の抵抗感もなく貫通していく。
「いくぞ。あいつをぶち殺す」
宣言と同時に両手を掻き広げる。
進路を阻む無数の結界は、残らず引き裂かれて木端微塵に砕け散った。




