第7話 虐殺の対価③
「逮捕なり何なりやってみろよ。できるものならなァ……」
俺は衛兵達に歩み寄る。
それだけで数人が顔面蒼白になって後ずさった。
今にもギルドから逃げそうになっている。
唯一、優男だけが拳銃の狙いをキープしていた。
歯を食い縛って銃口を俺に向けてくる。
(へぇ、なかなかの胆力だ)
俺は素直に感心する。
妄者を相手に威勢の良い態度を保つのは至難の業だ。
もっとも、それが適切な行動とは思わない。
一見すると勇敢だろうが、どちらかと言うと蛮勇に近いだろう。
常人が妄者に逆らうなど愚の骨頂。
自殺に直結する対応であった。
俺は優男に近付いて、隙を見て銃口を掴む。
そのまま力任せに持ち上げた。
鋭い銃声が響き、天井に穴が開く。
「くっ、貴様!」
「お前らふざけているのか? 俺のことを調べておきながら、この人数で制圧するつもりなんて言わないでくれよ」
「く、ははっ……そんなわけなかろう。貴様を投降させる備えは、ある!」
優男は俺を突き飛ばすと、再び拳銃を向けてきた。
咄嗟に撃てなかったくせにまだ諦めていないようだ。
「まず特殊弾だ。妄者が強化したものだから貴様にも通用する。この至近距離では避けられないだろうな」
「ほうほう、それで?」
俺は腰に手を当てて話を聞く。
隙だらけな姿をどう思ったのか、優男は悔しそうに歯噛みする。
彼は気を取り直して話を続けた。
「つ、次にこの剣だ! 炎の呪術を施してある。貴様が哭いても容赦なく焼き尽くすだろうッ」
「そいつは怖いな。で、他には?」
「ギルドの周りには、百人を超える衛兵が待機している! 余計な真似をすれば突入してくるぞ。貴様にはもう逃げ道がない!」
「外にいるのは七十三人だろ。半端に盛るとダサいぜ」
俺が冷静に指摘すると、優男は顔を真っ赤にした。
怒りと共に銃弾が放たれる。
弾は棒立ちだった俺の脇を抜けて、背後にいた傭兵の腹に命中する。
傭兵の呻く声と倒れる音がした。
ちなみに俺は何もしていない。
優男の腕前が下手だっただけである。
誤射をやらかした優男は、気まずそうに話を強行した。
「……とにかく、これだけの備えがある。いくら貴様とて、戦いたいとは思わないだろう。賢い判断を期待しているぞ」
そこで話が終了する。
衛兵達は探るように俺の答えを待ち始めた。
一連の話で俺が投降すると考えているらしい。
(なるほどな。先に策を見せることで牽制しているのか)
おそらく連中は他にも策を隠している。
たとえば、俺が飲む酒だ。
こいつには毒が含まれている。
店と結託して仕込んで来たのだろう。
毒殺はよく狙われる手法だ。
哭いていない妄者を始末するのにちょうどいい。
実際、これで死ぬ妄者も少なくない。
油断したところでやられるのだ。
もっとも、俺は毒対策を怠っていなかった。
体内を部分的に哭かせることで処理できる。
たとえ妄者が調合したものでも死ぬことはないだろう。




