第64話 強引な誘い⑪
土煙が舞い上がる。
俺はそれを手で払って、瓦礫を踏み越えて進んだ。
派手に着地したが、身体に異常はない。
この程度の落下で傷付くほど脆くなかった。
落下の衝撃を消すこともできた。
しかし、どうせなら思い切りぶっ飛ばす方が愉快だろう。
国王も俺の居場所に気付いたに違いない。
身を隠して行動するのはどうにも苦手だった。
その辺りは医者と騎士に任せればいい。
あの二人は器用に立ち回っているのではないか。
俺を陽動にした形で、空中飛行から上手く忍び込んだと思う。
その場で準備運動をしていると、間もなく全身鎧の兵士の部隊が駆け付けた。
彼らは俺を包囲して進路を塞いでくる。
既に臨戦態勢で、今にも攻撃を仕掛けてきそうな雰囲気だった。
彼らはこの国では武士と呼ばれている者達だ。
国王の配下であり、俺達の侵入を察知してこうして止めに来たのだろう。
その迅速な動きは称賛に値する。
日頃から厳しい訓練で鍛えているに違いない。
俺は武士の並ぶ光景に懐かしさを覚えた。
極東にいた時期は、こいつらと毎日のように殺し合ったものだ。
気分が良くなった俺は話しかける。
「よう、久しぶりだな。俺のことを憶えているか?」
問いかけるも、武士達のノリは悪い。
神妙な顔で目配せするばかりで、俺との話を楽しもうとせず、殺害だけを考えていた。
そのうち一人が絶望に近い声音で呟く。
「ハワード・レント……虐殺の獣」
「おっ、知っている奴がいたな。正解だ」
俺は発言者を指差しながら笑う。
武士達の間にどよめきが広がった。
こちらの正体を知らなかった者も多いらしい。
緊急事態ということでとりあえず急行してきたのだろう。
俺は期待を込めながら武士達を見回す。
「はるばる飛んできたんだ。盛大にもてなしてくれ」
「総員、構えェッ!」
返答はなく、鋭い声で号令が発せられた。
同時に武士達は細い片刃の剣――刀を構える。
さらに刃に魔力を通して強化した。
あれで素の状態とは比較にならない耐久性と切れ味を得ているのだ。
練度によっては妄者にも通用する。
だがしかし、俺には効かない。
所詮は常人の武器だ。
一瞬で解体できるどうでもいい存在に近かった。
俺が注目するのは、武士共に混ざって立つ異形達である。
極東の妄者だ。
殺し合いの絶えないこの国で覚醒し、他を圧倒する暴力でのし上がってきた狂戦士であった。
単純な戦闘能力は、おそらく他国よりも優れている。
(悪くないな)
高揚する俺は、破裂寸前の殺意を抑える。
懸命に頭を働かせて、戦い方を考えた。
そうでもしないと走り出したくなる。
(いかんな。理性が飛びそうだ)
医者には競争だと言ったが、これは楽しんでしまいそうだった。
これだけ豪華な歓迎を素通りするのは、さすがに無粋すぎる。
俺としても我慢ならないことであった。
いつの間にか指の刃が太く鋭く伸びて、一本一本が剣のようになっていた。
精神の変調に伴って変貌が進んだようだ。
特に使い心地で困ることはないだろう。
(でも念のために試してみるか)
俺は己に言い訳をしながら前に跳ぶ。
加速しながら武士の間を駆けて、反応される前に両手を往復していった。
彼らのそばを通り抜けた後、勢い余って別の建物に衝突しそうになる。
今度は寸前で勢いを殺し、指の刃を刺して蜘蛛のように張り付く。
壁に着地した俺は、通り抜けた跡を見下ろす。
そこには肉片が散らばっていた。
進路上にいた武士が甲冑ごと切り崩されて残骸を晒している。
妄者も二人ほど犠牲になっていた。
さすがに武士とは違って反応できていたが、回避も反撃も失敗したのだ。
憐れな彼らは、自らの死を知覚できずに生涯を終えたのだった。
俺は無言で視線をずらす。
残る武士達は、突然の凶行に凍り付いていた。
次にこちらを見て戦慄する。
その反応が嬉しくなり、俺は歓喜しながら襲いかかった。




