第63話 強引な誘い⑩
地面が迫る中、ふと思い出したように医者が疑問を呈する。
「ところで、着地はどうするのだね」
「勝手にやってろよ。それくらい簡単だろう」
「……君はここに常人がいることを忘れていないかね。いくら装備が充実していても、この落下速度を殺すことはできないよ」
医者は呆れた様子で説明をした。
彼が言っているのは騎士のことだ。
優れた身体能力と、妄者の造った装備を纏っているので大丈夫かと思っていた。
まさか過大評価だったのだろうか。
俺は念のため騎士に確認する。
「着地できないのか?」
「無理」
即答されてしまった。
このままだと死ぬというのに、この女は冷静だ。
俺達がどうにかすると思っているが故の態度なのだろうか。
何にしても俺の判断が誤りだったのは認めざるを得ない。
反論できずに唸っていると、医者が頭を振って苦笑する。
「やれやれ、困ったものだ。仲間の能力を決め付けず、しっかりと把握しておくべきだと思うよ」
「……チッ」
今回ばかりは何も言えなかった。
俺は医者に向かって命令する。
「お前が助けてやれよ。それくらいできるだろ」
「まったく、僕に感謝してほしいものだね」
そう述べた直後、医者が何らかの術を発動させた。
百足の側面から純白の翼が飛び出して、長い胴体が騎士の上半身に巻き付いて固定する。
百足は翼をはためかせて飛行した。
急速落下を止めると、華麗な軌道を描いて彼方へと突き進んでいく。
「それでは先に行かせてもらうよ。また後で会おうっ」
医者と騎士はそのまま遠くへと去ってしまった。
彼らの進行方向には、首都のシンボルである城がある。
あそこに王がいるのだ。
競争ということで最短距離を選んだらしい。
(気に食わねぇ野郎だ……)
俺は苛立ちを覚える。
別に俺が騎士を抱えて着地することもできたが、余計な荷物になりかねない。
医者に押し付けられるならそれでいい。
ちょうど今回は単独で暴れたい気分だったのだ。
だから、これは、計算通りである。
俺は二人のことを思考から追い出して、大地に注目した。
落下地点は首都の只中で、どこかの建物の屋根だ。
俺は影の身体で高笑いしながら両手の刃を擦り鳴らす。
「――皆殺しだ。まとめて八つ裂きにしてやる」
呟きの瞬間、俺の身体は屋根を突き破った。
天井と床を粉砕しながら落下していく。
最終的には衝撃で建物そのものを吹き飛ばしながら、三点着地で地上に降臨したのだった。




