第55話 強引な誘い②
訓練場では、衛兵達が徐々に立ち上がり始めていた。
まだ気を失っている者を起こして医務室へと向かっている。
かなり手加減をしたので、魔術ですぐに治せるだろう。
俺は手持ちの煙草をくわえる。
ログナスに一本差し出すも、首を横に振って断られた。
「それだけの力量に達するまでに、一体どれほどの研鑽を積んだのだ」
「知らんね。いちいち数えていない。ひたすら殺し合っているうちに強くなれた」
「そうか……」
ログナスはそれきり黙り込む。
真剣な横顔は何か思案しているようだった。
葛藤と決意が入り交じった様子である。
俺はそんなログナスに尋ねる。
「妄者に憧れているな?」
「なっ!? そんなわけないだろうっ!」
「見れば分かる。そういう人間を何度も見てきた。誰だって圧倒的な力を欲するものさ」
それなりに長い年月を生きてきたのだ。
ログナスのような人間が珍しくないことは知っている。
近くに俺みたいな妄者がいるのだから、むしろ当然の感情だろう。
こんな狂人に憧れたくないという理性は働くだろうが、その半面で何もかもを蹴散らせる暴力には羨望を抱いてしまうものだ。
俺は笑いながらログナスの肩を叩く。
「妄者になるのに才能や種族、年齢は関係ない。精神力が引き起こす現象だ。覚悟があるなら目指してみるといい」
「…………」
何も言えないログナスを置いて俺は歩き出した。
これから彼がどうなるか知らないが、ちょっとした楽しみにはなりそうだ。
兵舎の出口に向かう途中、秘書である騎士と合流する。
今回の訓練は、彼女と手分けして実施していたのだ。
「よう、待たせたな。そっちも順調だったかい?」
「普通」
騎士は言葉少なめに答える。
仏頂面で不機嫌そうに見えるが、これが通常の顔だった。
俺達は歩きながら雑談を進めていく。
「衛兵の練度はどうだった?」
「弱かった。動きの行儀が、良すぎる」
「真っ当な指摘だな」
俺は笑いながら紫煙を吐き出す。
騎士が顔を顰めるもお構いなしだ。
このやり取りもいつものことであった。
街の司教を殺害してから数カ月が経過した。
彼女とも腐れ縁ができつつある。
名目上は秘書で、俺の仕事の補佐を任せている。
戦闘時も打ち合わせをせずとも連携できる程度にはなっていた。
それでも別に親密な仲というわけでもない。
油断すると暗殺を試みてくるし、暇になると何でもアリの手合わせを志願してくる。
たまに行方を眩ませたかと思えば、大金を持って帰ってくる。
ロド商会に調べさせたところ、よその地域の妄者を殺害しているらしい。
立場や事情は変わったが"妄者殺し"の異名は健在のようだ。




