第53話 死霊退治⑰
数日後の深夜。
教会の敷地に侵入した俺は、一軒の家屋の前にいた。
三度のノックをして、施錠された扉を粉砕する。
「何者だッ」
部屋の奥で散弾銃を構えるのは司教ドエルだ。
彼は部屋の外を埋め尽くす闇に怯えていた。
「そんなに怖がるなよ、司教様。みっともないぜ」
俺は闇から抽出されるかのように姿を現した。
既に哭いており、スーツは艶のない漆黒だ。
夜闇の中ではさぞ見えにくいだろう。
一方、ドエルは絶望に浸った顔を見せる。
「ハワード・レント……!」
「俺が無事で驚いたか? 裏で殺そうと企んでいたんだから当然か」
家屋に入った俺は遠慮なく進んでいく。
ドエルの散弾銃が火を噴いた。
聖水で清められた無数の弾が胴体に刺さるも、別に何てことはない。
俺は微笑を湛えて歩み寄る。
ドエルはその分だけ後ずさることになった。
「ま、待て! 私は悪くないぞ! これは……そう! そうだ! 本部からの指示で――」
「うるせぇな。そんなことは聞いてねぇよ」
俺は指の刃を一閃させる。
散弾銃と一緒に、ドエルの両腕が宙を舞った。
血飛沫が床と窓に降りかかる。
「ぐおおおおあああっ!?」
「喚くなって。警備の連中が来ちまうだろうが」
「誰かっ、すぐに来い! 侵入者だっ! この異端者を始末しろォ!」
ドエルが必死に大声を上げる。
しばらく待つも、それに反応する者はいなかった。
家屋の外は静寂に包まれている。
多量の血を流しながらドエルは膝をつく。
「なぜ……誰も、来ないのだ……」
「俺が始末したからさ。すまんね、忘れていた」
平然と言いながら椅子に腰かけた。
机に頬杖をついて、憐れな司教の姿を見守る。
「あの者達は……死霊術師の二人はどうなったのだ」
「寂しいだろうと思って、持って帰ってきたぜ」
俺は指を鳴らして合図する。
室外で待機していた騎士が大きな物体を部屋に引きずってきた。
それを目撃したドエルは腰を抜かす。
「ひ、ひいっ」
運び込まれたのは、顔面が砕け散った筋肉男の死体だった。
哭いたままで身体は生きているが、魂は消滅している。
死霊術の影響でアンデッドに近い状態なのだ。
筋肉男の右肩には、苦悶に歪む修道女の顔が張り付いている。
岩の肩に半ば同化しており、たまに呻いていた。
ちなみに首から下は背骨だけで、筋肉男の腕に埋没している。
あの後、修道女の首を刎ねたのだが、死霊術による特性で生きていた。
せっかくなのでさらに拷問を加えたところ、理性が壊れてしまったのだ。
死にたくないという本能が、醜い姿になりながらも生き永らえようとしたらしい。
だから現在も、力を内包する筋肉男の腕に寄生している。
意識もないまま生にしがみ付いているのだった。
愉快かつ珍しい状態なので、ドエルに見せようと思った次第である。
「どうだい? 手土産は喜んでもらえたか」
「うああああ……」
ドエルは涙を流して首を振る。
己の運命を悟ったらしい。
椅子を立った俺は、彼の肩に手を置く。
「あんたの企みは失敗した。俺が気に食わなかったらしいが、ちょいと見込みが甘かったな。その報いを受けてもらおうか」
「い、嫌だ……助けてくれ……」
「駄目だ。何事も上司が責任を取るもんだろう。黒幕が弱気になったら程度が知れるぜ?」
俺は優しい口調で説得しながら、とどめの一言を告げる。
「――安心しな。死が喜びになるまで苦しめてやる」




