第52話 死霊退治⑯
妄者の羊皮紙で縛り付けられた俺は、くぐもった声で呟く。
「やはりグルだったか」
いち早く反応したのは医者だ。
彼は嬉しそうに首を傾げる。
「ほう。気付いていたのかね」
「馬鹿にしているのか? お前らの能力が似すぎているんだよ」
どちらも人体改造に特化した死霊術だ。
医者は妄者の死体を移植し、戦闘時に活性化させることで戦う。
一方で修道女は妄者の頭を弄ったり、死体と合成させることができる。
能力が似通っているのは明らかだった。
医者は修道女の頭を撫でながら語る。
「この娘は僕の弟子なんだ。妄者になったから捨てたが、仲はそこまで険悪ではない」
「気を抜くと人体実験に利用されますけどね」
「それは必要な行動だ。研究結果は君にも提供しているのだから問題ないだろう」
二人は仲睦まじく会話する。
とても素晴らしい師弟関係のようだ。
反吐が出そうな気持ちを抑えつつ、俺は必要な情報を集めていくことにした。
「お前は何者だ。教会の人間なのか」
「そうだね。主に裏の仕事を担当しているよ。今回のように、標的という立ち位置となって囮になることも珍しくない」
「つまり本当の標的は俺だったわけか」
「よく分かったね。教会は君の影響力を無視できなくなり、始末することを決めたそうだ。僕も前々から"虐殺"の死体が欲しいと思っていたから依頼を受けたよ」
医者はあっさりと真相を暴露した。
今の俺は無力で、何もできないと確信したから饒舌になっている。
おかげで状況を完全に把握することができた。
「最初から、罠だった。教会は俺を騙して殺そうと、している……その解釈でいいんだな?」
「間違っていないね。よくまとめられているよ」
「そうか、ははっ……そうかそうか」
俺は小さく笑いながら全身に力を込めた。
無数の拘束術が作動し、容赦なく身体を締め上げてくる。
全身のあちこちが軋んで折れそうになった。
それでも俺は力を降り注いでいく。
医者はこちらを憐みながら自慢話を展開する。
「無駄な抵抗はやめたまえ。その拘束は僕が考案した多重結界だ。たとえ真竜の大群だろうと決して――」
影の身体が一瞬だけ膨張した。
ずたずたに引き裂かれながらも、施された拘束術を残らず破壊する。
眩い光が弾けたのは、術の粉砕によるものだろう。
反動を受けたのか、修道女が血を噴き出しながら崩れ落ちた。
俺は身体に張り付いた羊皮紙を剥がしながら医者に笑いかける。
「……今、何か言ったか?」
「化け物め」
医者は全身を異形に変貌させながら跳びかかってくる。
その姿は形容し難い怪物だった。
目にしただけで狂気を掘り起こされるようなおぞましさだが、俺が臆することはない。
絡み付く触手を切り裂き、溶解液を浴びながら腹を掴んで臓腑を抉り、魂を掻く死霊の手を噛み千切り、空へ飛び立とうとした翼をもぎ取り、呪詛を発そうとした顔面を踏み潰す。
「僕の、死霊……術を……っ」
「舐めんなよ。これくらいで俺を縛れると思ったか」
受けた屈辱を百倍返しで叩き込む。
そのまま徹底的な破壊し、再生限界が訪れるまでひたすら殺し続ける。
最初は反撃を試みていた医者もやがて動きが鈍り、ついには完全に息絶えてしまった。
俺は残骸を踏みながら嘆息する。
そばでは目を覚ました修道女が呆然としていた。
「ああ、そんなまさか……」
修道女は逃げ出そうとする。
俺は足首を掴んで引きずり戻すと、その背中に鉈を深く突き刺した。
そして耳元で囁く。
「今後は逃がさねぇよ?」
「――あああああああああああっっ」
修道女の悲鳴は廃村に響き渡る。
彼女を救う者はいなかった。




