第51話 死霊退治⑮
接近する筋肉男の両腕が、俺の肩にしがみ付いた。
そのまま握り潰そうとしてくる。
「おっ」
裏切りを確信した俺は即座に肘打ちを浴びせて、筋肉男の顔面を粉砕する。
ところが、両肩にかかる力は微塵も緩まない。
そこどころか、さらに指先がさらにめり込んでくる始末だった。
筋肉男は狂気に染まった笑みを浮かべている。
「チッ」
俺は舌打ちしながら肘打ちを連発した。
岩の頭部が砕けて、破片が地面に散乱していく。
その間に、視界の端で修道女が行動する。
彼女は筋肉男の一部と化した羊皮紙を引っ張ると、それを操って俺の片腕――鉈を持つ腕を巻き付いて拘束してきた。
圧迫する力が強烈なのは、元は妄者の身体だからだろう。
俺は腕に力を込める。
羊皮紙を千切りながら強引に動かすと、医者の首を完全に切断した。
頭部を失った身体が、くたりとあっけなく倒れる。
修道女は羊皮紙をさらに伸ばして、その僅かな猶予で俺の全身を縛り付けた。
羊皮紙の端を地面に縫い止めて固定し、さらに封印系統の魔術を施して強化していく。
俺が斬首に費やした一瞬で、拘束は数十倍の強度となった。
「小賢しい術だ」
立ったまま拘束された俺は、一心不乱に術を重ねる修道女を睨む。
全身に花を咲かせた彼女は疲労しながらも手を止めない。
俺の無力化に集中していた。
決して手を抜いてはいけないと理解しているのだ。
背後の筋肉男は、俺の四肢や胴体を順に握り潰して破壊していた。
殴り飛ばすと術が破れるので、慎重に攻撃を加えてくる。
頭部が砕け散っているが、本人は気にしていなかった。
(ここで裏切ってきたか)
最初からこれが目的だったのだろう。
決定的な瞬間を狙っていたに違いない。
一方、斬首された医者の身体が起き上がった。
地面を探って自らの頭部を掴むと、鉈で斬られた断面同士を押し付ける。
皮膚が溶け合って繋がった。
「ふむ」
医者が首を回す。
異常がないことを確かめると、足元に転がる騎士を踏み付けた。
彼女は巨大な百足が巻き付いて身動きが取れなくなっている。
おそらく魔術で生み出した生物だろう。
拘束作業を終えた修道女は、医者の隣に寄り添った。
医者は彼女の肩に手を置く。
親しげな雰囲気を醸し出していた。
「油断したね。これが真実だ」
医者は勝ち誇った様子で微笑した。