第44話 死霊退治⑧
休憩を終えた俺達は再び走り出す。
地形を考慮せず、最短距離でひたすら進んでいった。
そうしてまだ夜も明けない頃、遠くに廃村を発見する。
小高い丘から見下ろす風景は決して良いものではなかった。
廃村は朽ち果てる寸前といった有様で、ほとんど建物が残っていない。
周囲の草木は枯れて大地はひび割れていた。
加えて妙に甘ったるい臭いが、霧となって一帯を漂っている。
「空気が腐ってやがる。こいつも結界の一種だな」
霧は自然発生したものではない。
粘質な魔力が込められている。
修道女は怪訝そうに呟く。
「まだ何も臭いませんが……」
「よく感じてみろ。向こうは俺達を察知してるぜ。感知能力は鍛えていないのか?」
「申し訳ありません。そちらは昔から鈍いもので……」
顔を伏せて謝る修道女。
哭いた状態の彼女は、咲き狂う無数の花で構成されていた。
少し動くたびに花粉が散って鬱陶しい。
ただ、今はそれより気になることがあった。
(感知できていないのは嘘だな)
こいつは結界に気付いている。
死霊術を得意としているのだから、同系統の力には敏感だろう。
わざと無能として振る舞っているのだった。
(一体、何が目的なんだろうな)
ますます信用できなくなったが、別にそれは構わない。
元からこいつを頼るつもりなんて皆無だからだ。
疑惑が強まったと言っても誤差の範囲である。
哭き止んだ俺は煙草を吸う。
この結界は無害だ。
もし有害な効果に切り替わるとしても、即座に察知して哭けばいい。
俺は隣に立つ騎士に煙草を差し出す。
「吸うか?」
「煙草の、煙は嫌いだ」
「へぇ、そうかい」
気にせず吸い続けると、騎士から微かな怒気が発せられた。
大鎌に魔力が浸透していくのが分かる。
生身で食らえば、何の抵抗もなく切り裂かれるだろう。
こいつも要注意だ。
俺を殺せると確信した瞬間、仕掛けてくるに違いない。
仲間なんて思わない方がいい。
煙草を吸い終えた俺は、筋肉男を指差しながら提案する。
「おい。そいつに先遣させてくれよ。どうせ使い捨てなんだろう?」
「貴重な戦力ですよ。そんな真似はできません」
「人道とか倫理とかを理由にしないんだな。あくまでも自己保身が優先ってことかい」
「ぐっ……」
「気にすんなよ。誰だってそういうものさ。聖職者だって例外じゃない」
言葉に詰まる修道女を嘲っていると、筋肉男が地面を叩いた。
岩石と化した頭部から低い声が漏れ出す。
「グオ、オ……ヌグク」
「寂しがってるぜ。可愛がってやれよ」
「ただ唸っているだけです」
修道女はすぐさま訂正する。
俺の冗談に苛立っているようだった。
自慢の笑顔も崩れつつあった。




