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異界事変 ~狂いし妄者は殺戮の日々を味わう~  作者: 結城 からく


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第42話 死霊退治⑥

 その日の夜、俺は街の門前にいた。

 教会からの指示で、ここに同行者が来るそうなのだ。

 煙草を吸いながら待っていると、現れたのは修道女だった。


「こんばんは。今回もよろしくお願いします」


「あんたが同行者か」


「はい。教会関係者として助力するように言われました」


 修道女はお淑やかな佇まいで応じる。

 柔らかい笑みを浮かべているが、その内心では極度の緊張と警戒が張られていた。

 俺の一挙一動に注目している。

 危険人物だと見なされているようだ。


 俺は肩をすくめて、短くなった煙草を捨てながら呟いた。


「同行者なんて必要ないがね」


「足手まといになれば見捨てていただいて結構です」


「その前に逃げ出すんだろう?」


「いえ、それは……」


 修道女は言葉を濁す。

 戦闘中に逃げ出したことを未だに気にしているらしい。


 たぶんプライドが高いのだ。

 本人としては屈辱的な出来事だったのだろう。


 それでも賢い判断ができた辺りを俺は評価している。

 今回も形勢が悪くなれば、即座に姿を消そうとするに違いない。


「ふむ」


 俺は修道女の背後に目をやる。

 首輪をつけて追従するのは異形と化した筋肉男だ。


 元は岩の巨人だったが、現在は全身の端々に花が咲き誇り、角と羽が追加されている。

 さらに蠢く羊皮紙を巻き付けていた。


 いずれも他の妄者から移植された部位だ。

 修道女の改造によって理性を壊された怪物になっている。

 既に自力で哭き止むこともできないだろう。


「そいつも連れていくのか?」


「護衛として申し分ない戦力になるかと」


「まるで奴隷だな」


 嫌味をぶつけるも、修道女は澄まし顔で受け流す。

 筋肉男は虚ろな様子で唸るばかりだった。


 その時、街の通りから駆けてくる人影に気付く。

 俺はそちらに向かって手を振った。


「こっちだ」


 怪訝そうな顔をした修道女が振り返って、凍り付く。

 俺達の前に現れたのは、漆黒の鎧に大鎌を携えた"妄者殺し"の騎士だった。


 修道女は崩れかけの笑みで俺に尋ねる。


「……そちらの方も同行するのですか?」


「ああ。俺の秘書なんだ。仕事を手伝ってもらおうと思ってな」


「…………」


 騎士は無言だ。

 兜で顔は見えないが、剣呑な雰囲気を漂わせている。


 俺との交戦で破損した彼女の装備は、ロド商会の財力で修繕させた。

 職人系の妄者に頼んだらしく、見事な仕上がりである。

 外見に大きな変化はないが、性能が底上げされていた。


「…………」


 騎士はどこか不満げな姿だ。

 無言だがなんとなく伝わってくる。


 彼女は俺に敗北して逆らえない関係となった。

 今はこうして律儀に従っているが、隙あらば殺しにかかってくる。

 それも面白いので放任していた。


 俺は念のため修道女に忠告する。


「余計な真似はするなよ。手綱が外れることがあるんだ」


「しょ、承知しました」


 修道女は息を呑みながら頷く。


 これで依頼のメンバーは揃った。

 なんとも愉快な四人である。

 楽しい仕事になりそうだ。

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