第35話 代理戦争⑰
「なかなかの美人じゃねぇか。隠すのは勿体ないぜ」
俺は軽口を叩きながら接近する。
別に皮肉や挑発ではなく本心からだった。
割れた兜から見える騎士の素顔は、紛れもない美貌である。
そんな騎士が大鎌を振るう。
純粋に速く正確な一撃は、俺の動きに合わせているようだった。
ちょうど首を切り払うタイミングだ。
(このスピードも目視するとは……いや、戦闘勘か?)
俺は大鎌を指の刃で食い止めると、そのまま強引に回し蹴りを放つ。
騎士は片腕でガードするも、勢いを殺し切れずに吹き飛んだ。
樹木に背中を強打してよろめく。
いくら頑丈でも衝撃は内側の生身に響くだろう。
俺はそこに追撃を加える。
指の刃を引っ込めて、左右の拳による高速のラッシュを披露した。
「ぐっ」
騎士は大鎌で身を庇いながら横に回避する。
粉々になった樹木の破片を受けながら退避し、体勢を立て直そうとした。
無論、それを俺が許すはずがない。
久々の強敵で昂る本能は、加減という概念を放り出していた。
戦いを長く楽しもうという考えも忘れて"妄者殺し"の騎士へと襲いかかる。
「ハハッ、もっと抗ってみろよォ!」
暴風を伴う拳の連打を見舞う。
騎士は寸前のところで防御しているが、大鎌には亀裂が走っていた。
俺の攻撃を受けるたびに破損していたのだ。
いくら妄者の職人が仕立てたと言っても限度がある。
さすがに俺の猛攻を耐えられるほどではなかったらしい。
こればかりは使い手の問題ではない。
騎士は必死になって距離を取って反撃に移ろうとする。
俺はそれを嘲笑うかのように接近し、大鎌の苦手な間合いをキープした。
割り込むようにして攻撃を繰り返して、相手のペースを崩していく。
こういった小細工は得意なのだ。
無意識レベルでやっている。
だからこそ、大人数の妄者を一方的に蹂躙できる。
積み重ねた戦闘経験が由来の技能であり、俺が"虐殺"の二つ名を持つ所以とも言えよう。
「そら、隙ありだ」
駄目押しの二連蹴りが、ついに大鎌を破壊した。
刃が砕け散って柄が折れ飛ぶ。
「……ッ!」
武器を失った騎士は動揺した。
そこから俺は右手の指を刃に戻すと、振り上げによって彼女を切り裂く。
指の刃は鎧を斜めに縦断し、腰から腹、胸と順に引き裂いた。
最後は鎖骨を割って首元から体外へ抜けていく。
迸る鮮血。
騎士は割れた兜から驚愕した表情を見せる。
そこから静かに崩れ落ちた。




