第34話 代理戦争⑯
騎士が無音で疾走してくる。
そこから横薙ぎに大鎌を振るってきた。
軌道上の樹木を切断しながら、発光する刃が迫ってくる。
「よっと」
俺は跳躍して回避し、木の幹を蹴って反撃に移る。
振り下ろした指の刃に対し、騎士は大鎌の柄で対抗してきた。
そこから見事な武器捌きで弾いてみせる。
「いい反応だ」
大鎌の斬撃を凌ぎながら俺は後退する。
辺りの影に溶け込みつつ、間合いや立ち位置をずらして連撃を返した。
意図的に防御しづらいタイミングや角度を狙っていく。
それでいて向こうの攻撃が当たりにくい動きを意識した。
騎士は紙一重のところで防御する。
鎧を掠めていく攻撃も恐れず、大鎌による反撃を強行してきた。
(大した度胸だ)
その反撃をいなしながら俺は感心する。
騎士は一流の戦闘能力を有していた。
正直、噂以上である。
これならば妄者とも渡り合えるだろう。
その大層な異名にも納得できた。
彼女の装備は特別製だが、決してその性能に任せた立ち回りではない。
むしろ性能以上の力を引き出している節さえあった。
彼女の鎧と大鎌は着用者を強化するものの、効果はそれほど高くない。
妄者の中にはもっと理不尽な武具を作る者もいた。
そういった類に比べれば、まだ常識の範疇と言えよう。
純粋な身体能力で考えた場合、一般的な妄者より弱いと思われる。
しかし、目の前の"妄者殺し"は凄まじい能力を発揮していた。
装備という後押しを最大限に活用し、一般人の身でありながら、妄者の領域に殴り込んできたのであった。
それで圧倒できるのだから大したものだ。
(まあ、負けるつもりはないがな)
俺はこの素晴らしい殺し合いのひと時に酔い痴れていた。
きりきりと張り詰めるような空気。
真っ向から浴びせられる殺意。
命を差し出して削り合うこの感覚。
どれを挙げても至上である。
故に加減が利かなくなってくる。
楽しもうとする理性と殺したい本能がせめぎ合って、徐々に後者が勝り始めた。
それに従って俺の動きは加速する。
パワーも劇的に跳ね上がり、大鎌を弾き飛ばすようになった。
「……っ」
「そらそら、休む暇はないぜ!」
俺は歓喜しながら指の刃を縦横無尽に振るう。
大鎌が押し退けながら叩き込んだ斬撃が、鎧の一部を抉りながら地面に刺さった。
しかし、致命傷にはなっていない。
「よく避けたな。並の妄者なら真っ二つなんだが」
「私は、妄者ではない」
騎士は嫌悪感を滲ませて答える。
爪による破損で、兜から口元が見え隠れしていた。
汗と血で頬が濡れている。