第33話 代理戦争⑮
「よう、良い動きじゃないか。惚れ惚れしたぜ」
俺は樹木の影から分離して音もなく着地した。
そして、スーツの襟元を整える。
今日の柄は蛇模様だ。
茶色や黒を基調としており、全体的に地味である。
視線の先には"妄者殺し"の騎士がいた。
漆黒の鎧と希薄な気配のせいで、闇から滲み出てきたような印象だ。
構えられた大鎌は血を滴らせている。
妄者の力が付与されており、俺の命すら奪い取れるだろう。
「…………」
騎士がこちらを向いた。
暫し沈黙が続く。
やがてその内側から女の声が聞こえてきた。
「なぜ、助けなかった」
「あ?」
「仲間を見捨てて、傍観していた」
どうやら俺の行動を非難しているらしい。
味方の妄者がやられる様を手出しせずに見ていたのが気に障ったのだろう。
騎士の視線には怒りと不快感が含まれていた。
何やら生真面目な性格である。
おそらくは俺みたいな悪党が許せない性質なのだ。
だから俺は周囲を指しながら指摘した。
「そっちこそ妄者共を助けなかっただろうが」
「彼らは、仲間ではない」
「はは、冷酷だな」
俺は笑いながら一歩前へ進む。
死体を踏み付けるのも構わず、両手の形状を変化させた。
ナイフとフォークが指の刃になっていく。
そのままでも戦えるが、やはり使い慣れた武器がいい。
「俺が傍観していたのは、二人きりになるためだ。この状況を待ち望んでいたからなァ……」
「どうして」
「楽しい殺し合いをするためだ。邪魔をされたくなかった」
正直に答えると、騎士の怒りが跳ね上がった。
研ぎ澄まされた殺気が周囲に放射される。
大鎌が鈍い光を帯びた。
感情の昂りに合わせて刃が強化されたのだろう。
「やはり、妄者は狂っている。生かしては、おけない」
「人種差別は良くないと思うがね。俺達だって立派な人間だぜ?」
「関係ない」
刹那、騎士が突進してきた。
突風のように襲いかかってくると、大鎌を叩き付けてくる。
「おっと」
俺は指の刃で受け止める。
かなり重い一撃だった。
ともすれば指の刃が砕けそうなのを、力を込めることで耐え凌ぐ。
火花が散る中、大鎌を振り払うように腕を薙ぐ。
騎士は回転しながら後方に着地した。
「妄者は、残らず滅する」
「やってみろよ」
俺は指で誘うように挑発した。




