第25話 代理戦争⑧
俺は突き付けられた大剣を見る。
次に岩石の大男と化した筋肉男を眺めた。
殺気が全開だ。
噴き上がった青炎のせいで室温が急上昇している。
天井に至っては少し焦げていた。
俺は苦笑いを浮かべて、筋肉男に尋ねる。
「へぇ、威勢がいいな。そういう年頃かい」
「ふざけるな。これであんたは動けねえだろ。余計なことをしてみろ、すぐに首を落としてやる!」
怒る筋肉男は、岩の顔面を振動させながら叫ぶ。
表面に亀裂が入っていた。
ぱらぱらと破片が落ちている。
隙間から青炎の光が覗いていた。
「この炎はすべてを焼き尽くす。妄者だろうと関係ねぇ。実際に何人も殺っているんだ」
「そいつはすげぇな」
「おい! クソッタレの虐殺だろうと容赦なく焼き切れるからなァッ!」
筋肉男は絶叫するも、一向に斬ろうとしない。
寸前のところで躊躇していた。
その理由を本人は理解していないだろうが、俺は分かっている。
本能が危機を察知しているのだ。
相手を傷付けた瞬間、自らに死が訪れると悟っている。
生憎と理性の部分ではそれを感じ取っていないから、これだけ短絡的な行動に出ているのだろう。
(随分と張り切ってやがる。コンプレックスでも感じているのか?)
俺は他人事で考える。
その間、他の妄者は静観していた。
どちらの味方になることもなく、じっとこちらを見ている。
魔術師は汗を拭いながら俺の一挙一動を凝視していた。
修道女は、先ほどまでと微塵も変わらない笑みを湛えている。
老人は退屈そうに茶を啜っていた。
そして俺は、欠伸を噛み殺しながら首を回す。
刃から発せられる青炎で僅かに皮膚が炙られたが、別に痛がることもない。
この場の中で、筋肉男だけが場違いな熱量を抱えていた。
「く、ははっ。大層な二つ名の癖に、実際は大したことないんだな。噂なんて信用ならねぇもんだ」
「随分と舐めてくれるじゃないか。後で負けたら恥ずかしいぜ」
「黙れ! お前の返事なんて聞いてねぇ! 四人に減ったとしても、帝国軍なんて退けられるだろう。誰も文句はないな?」
筋肉男が他の三人に尋ねる。
答える者はいなかった。
それを肯定と解釈したらしく、彼はますます調子に乗ってしまった。
大剣を力を込めて少し振りかぶると、勝利を確信して俺に告げる。
「くたばれ、ハワード・レント。あんたの二つ名は俺が貰うぜ」
「戯れ言はそれだけかい?」
俺は鼻で笑い、左右の腕だけを哭かせる。
影となった腕が伸びて、男の両肩を瞬時に握り潰した。
割れた岩が崩れて床に散乱する。
大剣も落下して、円卓に食い込みながら止まった。
「――あ?」
筋肉男は自らの両手を見やる。
肩の粉砕によって、もはや使い物にならない状態となっていた。
岩の大部分が剥げて青炎の骨格が露出している。
それも勢いが衰えていた。
本人の精神がぶれた証拠だ。
筋肉男は膝をついて悶絶する。
「ぐ、おおおおおおおおおぉぉぉっ!」
「おいおい、脆いな。見かけ倒しなのか?」
俺は立ち上がって筋肉男の後頭部を掴むと、円卓に叩き付けた。
「おごぁっ」
重い爆発音と男の悲鳴が重なった。
岩の頭部が大きく欠けて、破損個所から血が迸る。
男の胴体や足腰にも生身らしき部分が見え隠れしていた。
あまりの苦痛に哭き止みかけているのだ。
俺はそんな筋肉男を椅子に座らせる。
そして、半壊した円卓を軽く叩いて宣言した。
「さあ、皆で仲良く作戦会議しようぜ」




