第21話 代理戦争④
商会を後にした俺は、そのまま街の兵舎に向かう。
依頼人がそこにいるからだ。
道中の露店で適当に買い食いながら移動する。
俺が近付くと、兵舎の人間は露骨に警戒した。
敵襲でもあったのかと思うほどの慌てぶりである。
「落ち着けよ。殺しはしないぜ」
依頼書を掲げてみるも、彼らは構えた武器を下ろそうとしなかった。
仕方がないので目についた衛兵を昏倒させながら進んでいく。
命までは奪っていないので別に構わないだろう。
こちらの事情を聞こうとしない兵達が悪い。
そうして俺は衛兵長の部屋に到着する。
扉をノックすることなく開くと、そこには拳銃を携えた優男がいた。
俺は気楽に挨拶しながら入室する。
「よう、突然すまねぇな。待ち切れずに来ちまったよ」
「…………」
優男――現衛兵長であるログナスは、険しい表情で俺を観察している。
不審な動きがないか探っているのだろう。
もっとも、何か見つけたところで俺を止められるはずもないが。
前任者のハンニルが死んだことで、ログナスは衛兵長になったのであった。
こいつは傭兵ギルドで俺を捕縛しようとした間抜けだが、意外と高い地位にいたらしい。
お飾りに近い身分だろうが、責任感は強いのだろう。
この二カ月で衛兵の汚職事件が劇的に減ったと聞いている。
俺はそばにあった椅子に座ると、露店で買った果実を齧りながら笑う。
「そんな怖い顔をすんなって。別に今日は争うつもりはない」
「依頼の説明は三日後のはずだったが」
「だから待ち切れなかったって言ってるだろ」
依頼書はログナスから送られたものだった。
内容の詳細説明は三日後、都合が合わなければそれ以降と記されていた。
しかし、辛抱できなかったので来訪したわけである。
どのみち話をするのだから、それが早くなっても問題ないはずだ。
「酒を持ってきた。一緒に飲もうぜ」
「気分ではない」
「はは、勤務中ってわけかい。真面目な奴だ」
俺は酒瓶を呷って半分ほどを飲み干すと、ログナスの顔を見据える。
「それで、依頼書の詳しい説明をしてくれよ」
「……ああ、分かった」
覚悟を決めたのか、ログナスは俺の正面に座った。
堂々とした態度だ。
虐殺の妄者を相手に怯えを見せない。
前に会った時とは明らかに異なる雰囲気だ。
衛兵長という立場に就いて、意識が変わったのだろうか。
ログナスは十分な間を置いて話し始める。
「この街は王国と帝国の中間地点にある。歴史上、何度も所属国を変えてきた」
「奪い合いがあったんだな」
「そうだ。ただ、ここ八十年ほどは王国のものとなっている。周辺諸国もそう認識している」
「読めたぞ。どうせ帝国は認めていないんだな?」
俺が皮肉を込めて言うと、ログナスは苦い顔で頷いた。
「近年、帝国はこの街を乗っ取る動きを取っている。訓練と称してこちらに軍を派遣したり、輸出入の締め付けを行っている。街道に出没する盗賊の一部は、帝国が派遣した集団だろう」
「陰謀ってやつか。面倒だな」
俺が始末してきた盗賊も、帝国に関わっていたのかもしれない。
どいつも肉塊になったので話を聞けないのが残念だ。
それにしても帝国は自己中心的な国らしい。
ただ、王国も色々とやらかしているだろうから、一方が悪いとは言えない案件だろう。
基本的に歴史は正義と正義のぶつかり合いだ。
勝者の主張だけが真実として語り継がれることになる。
「一週間前、この街から帝国へ抗議文が提出された。数々の工作に耐えかねたのだ」
「返事は戻ってきたのか?」
「二日前にな。歴史的な正当性を証明するため、この街を奪還するそうだ。しかも、悪しき洗脳を受けた住民と兵を奴隷にするらしい」
ログナスは怒気を押し殺しながら語る。




