ひとつめのせかい。
ひそひそ、ひそひそ。
…きみも、のぞいてみる?
ふふ、さあ、おいで♪
ぼくと一緒に、お話しようよ。
*
コツ、コツ。
コツ、コツ。
冷たい空気で満たされた、天界のとある大きな宮殿。まだ幼ながら幹部として午前の業務を終えた華奢な少女は、クラシカルロリータに分類される、お気に入りのミニワンピースを揺らめかせていた。そう、淡いピンク色のヒールを鳴らし、宮殿の大廊下を歩く一人の少女___ハニエル・フローラ。澄んだ鶯色のまあるい瞳は眠そうにうつらうつら。二つに束られた綿菓子の様なクリーム色の髪は、歩みを進める度ふわりと揺れる。
お昼の美味しかったご飯は眠気を誘い、彼女は、ふわあ、と欠伸を零してからゆっくりと口を開いた。
「…今日は後何があるの?」
「はい。13時30分辺り、靴屋のフェイ様がカタログを持って伺いに来るとの事です。サイズも確かめるとの事ですのでいつもより少々時間が掛かるかと。15時から1時間程天界幹部総会議、16時20分から恐らく数時間程精霊界王妃との御茶会出席、王妃の秘書から御茶会で何曲かバイオリンを披露してほしいとの要望も御座いました。後の仕事は全て書類です。それから____」
パタン、と渋い赤茶色のノートを閉じるのはハニエルの秘書、メアリィ。ミルクティー色の長い髪は三つ編みで纏めていて、金縁の眼鏡を光らせながらハニエルの隣で厚底靴を鳴らしていた。
数秒間を空けると、メアリィはほんの少し赤らんだ頬をノートで隠しながら、小さな声で言葉を紡ぐ。
「………夕食前にグレイス邸に来てほしいと、…る、ルージュ様から、伝言が。」
グレイス邸。___ハニエルの愛する『彼』が住む、此の宮殿と同じ位大きな御城。ぼうっとしていたハニエルは理解するまでに数秒掛かり___沈黙が続き_____そして、漸く理解した。
「…………………えっ、レティ様が!?」
小さなまるい羽をぴんと伸ばして、早足でメアリィの前に立てば何度も感度も肩を揺さぶる。…嬉しさを隠せずに。
ぐらぐらと体を揺さぶられたメアリィは目を回しながら「や、やめてくださ…い…」とひ弱ながらに抵抗する。
グレイス邸には、彼女達の愛する人物が居る。
ハニエルが愛す、フルーレティ。
メアリィが愛す、ルージュ。
____互いに鼓動が高鳴っていた事は、一目瞭然だった。
*
あはは、いやあ、かわいいねえ。
…どう?きみもこの世界の事、すこし興味が湧いてきた?
そっかそっかあ、うれしいなあ!
じゃあ…もうちょっと、お話しよう?♪
…これは、天界と、魔界と、精霊界。ちょっと愉快な、三つの世界のお話。
興味があるなら覗いてご覧?
きっとしあわせになれるはず。
でも…『あの子』には気を付けて。
きみを『 』と、してるから。