ある小さな村に、小さな女の子がおりました
ある小さな村に、小さな女の子がおりました。
その女の子は、周りからイケニエと呼ばれていました。
イケニエの女の子は、小さい頃から、小さな家の外に出ることなく育ちました。みんなは窓の向こうで行ったり来たりしているのに、どうしてイケニエの女の子は窓のこちら側にばかりいなくてはいけないのでしょうか。女の子がソンチョウに尋ねると、ソンチョウはイケニエには外を見る必要がないからだと説明しました。外には出られなくても、女の子は一緒に遊ぶトモダチもいませんでしたし、ご飯はたっぷりと与えられ、特別寒かったり暑かったりもしなかったので、特に不満もなく育ちました。
女の子が七歳になったとき、ソンチョウによれば「約束どおり」女の子はイケニエとして、捧げられることになりました。
七歳になった日の朝早く、目隠しをされて、覚えている限りはじめて家から連れ出された女の子は、どこか静かなところに連れてこられてひとり置き去りにされました。連れてこられる途中で訊いたところ、そこはモリノオクというところでした。きっとすぐに迎えが来るから大人しく待っているようにと言われたので、女の子は素直に頷いて待ちました。
ところが、いつまで経っても迎えが来ません。きっと今頃はお昼もすぎたことでしょう。退屈だし、お腹は空くしで、女の子は次第に癇癪を起こしてきいきい叫びはじめ、それから心細くなって、しまいにはとうとう泣き出してしまいました。
すると、遠くからがさがさと、誰かの歩くような音が近づいてきました。きっとこれがお迎えなのでしょう。
「だあれ、あなたがお迎え?」
女の子が尋ねると、唸るような低い声が答えました。きっと男の人です。
「もしもおまえがイケニエなら、そうだ」
「わたしはイケニエよ」
元気良く女の子は答えました。ようやくお迎えが来てくれたので、嬉しくてたまりません。
「ねえ、この腕を縛っているものと、目を隠しているものを外してくれないかしら? とても窮屈だし、何も見えないのは退屈なのよ」
お迎えはしばらく黙って動かずにいましたが、しばらくして女の子に近づいてきて、女の子が言ったとおりにしてくれました。
目隠しを外された女の子は、きつく縛られていたせいで痺れる手が痛いなあと思いながら目をこすって、それからお迎えを見て目を瞠りました。
なんて大きなひと! 女の子を育てた人たちで一番大きかったひとだって、このひとの胸くらいにしか届かないでしょう。
それから、真っ白な髪。白い髪の毛を生やしているはお年寄りだけのはずです。このひともお年寄りなのかしら、と女の子は思いました。そのわりには、厳つい顔は若く見えました。皺も見えません。
「ありがとう」
微笑んで、女の子はお礼を言いました。お迎えはぷいと顔を背けました。イケニエの女の子は、話しかけても無視されることには慣れていたので、そのまま話しかけ続けました。
「ねえ、お迎えのひと、わたし、これからどうするの?」
お迎えのひとのとても粗末な服をひっぱって尋ねると、お迎えは振り向いてちょっと驚いたように目を見開きました。その目は、赤色でした。そんな目は見たことない、と女の子は思いました。
「逃げないのか……?」
「ねえ、お迎えのひと?」
女の子はもう一度尋ねましたが、お迎えは「どうする……」と呟いたきり黙りこみました。
「わたしはここへ連れてこられて、あなたを待つように言われたの、お迎えの人。それからどうするかは、あなたに聞きなさいって」
お迎えのひとは苦笑いをして、答えを返す代わりに言いました。
「その『お迎えのひと』という呼び方をやめてくれ」
「それじゃあ、何て呼べばいいのかしら?」
「俺は――」
お迎えのひとは誰かを馬鹿にするような顔をしましたが、イケニエの女の子はきっとそれは自分を馬鹿にしたのではないなと感じました、
「――化け物だ」