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厄介に巻き込まれて 前半

時間が経つと言うのは、本当に早いんだと思う時がある。特に、目標を立てていると尚更だ。

シュゲン達がパーティを組む様になり、早一ヶ月が経とうとしていた。苦労もあったが、どうにかパーティとしての活動が板に付き、安定してきた矢先の事だ。

シュゲン達は今、予想外の出来事に巻き込まれていたのだった。


「はぁぁぁぁぁ!!」


旧市街の森の中で、シュゲンが気合の入った大声を上げながら戦っていた。

相手は、赤い毛皮をしたレッドウルフと呼ばれる狼型の魔物だ。通常の狼に比べて、一回り程大きく、鋭い爪と牙を持っていてる。

シュゲンは一人で、そんな狼を三匹相手にしている。

レッドウルフは足場の悪い森を物ともせず、素早く動き、群れと連携しながらシュゲンに襲い掛かっていた。

素早い上に、群れで行動する魔物特有の連携に苦戦しながらも、どうにか致命傷を受けずに、持ち堪えるシュゲンはスキル・【守式 剛の壱型・硬】を使い、鋭い爪や牙から身を守りながら応戦しているからだ。


拳闘士は“気”と呼ばれる生命エネルギーを操る技術があり、拳闘士はその気を使いながら戦う職業(クラス)だ。そして、気を持ち行った基礎技術には二種類の型がある。それを【剛・柔の型】と言い、攻撃と防御にそれぞれが存在する。

”柔“の型は、”気“を体外に流し出し、身体の表面に気の膜を作り出して、攻撃を受け流し、相手の力を利用する型に対し、“剛”の型は体内の”気”を操り、肉体を強化することにより防御力を上げ、瞬発的に力を増幅させるスキルなのだ。


そして、今使っている【守式 剛の壱型・硬】は、体内の気を操作し、皮膚を岩の様に硬くする事で、相手の攻撃を受け止める技だ。そのお陰で、本来なら大怪我になるはずのレッドウルフの爪に引っかかれようが、軽い怪我で済んでいる。

そんな状態で飛び掛かってくる狼を殴る蹴るを繰り返しながら、相手をしているシュゲンだが今一歩攻め切れていない。

【守式 剛の壱型・硬】の難点は、使用している間は動きが鈍くなってしまう点だった。ちなみに、【守式 柔の壱型・流】は受け流せずに攻撃を受けてしまうと、致命傷になってしまうのが難点だ。



「シュゲン兄ちゃん!。」


狼達の攻撃に耐えていると、背後から声が聞こえた瞬間、シュゲンの横顔を何かが通り過ぎる・・・そして、通り過ぎた物が狼に命中すると狼の一匹が倒れ込んだ。

倒れた狼の首には、深々と矢が突き刺さって入る。

仲間が倒れた事に気が付いた狼の動きが止まるのを見計らって、シュゲンは軽く振り返り、背後を確認すると、後方には弓を構えたイッセーの姿が見えた。


「ナイス、イッセー!!。」


今放たれた矢を撃ったのは、紛れも無くイッセーだ。歯を見せながら、満面の笑みを浮かべ、親指を立てていた。

背後と言っても、かなり距離が離れている・・・良く狙えたモノだと感心してまう。狩人じゃ無いから良くわからないが、イッセーの弓の腕はかなりのものなんじゃ無いか?。

感心してしまっているが、今はそれどころじゃ無い事を思い出した。落ち着いたら、イッセーの事を褒めてやらないとな。


「その前に、オレも良いとこ見せないとな!。」


残るは二匹。しかも、仲間が死んだ事で、オレから距離を取り始めて、警戒し始めている狼達。

先程までとは打って変わり、流れがオレ達の方に向いて来ているのが分かると再び、拳を構え直す。

そして、一匹に狙いを定めて、気を両足へと集中させる・・・そして、足に溜めた気を爆発させ、その勢いで距離の離れた狼の元へと、一気に距離を詰めた。

急激に距離を詰められた狼は咄嗟に、飛び避けようとしたが遅い・・・飛び避けようとしていた時には、既にオレの距離だ。

そして、オレは右手を開いたまま、狼へと突き出し、飛び跳ねた狼の胸部へと掌底を当てる。


【掌底撃】・・・気を込めた掌底により、相手に気による衝撃と打撃を与える技だ。

胸部に技を喰らった狼は、全身に気による衝撃を喰らい、口から血を吐き出しながら吹き飛んで行った。


「二匹目!」


二匹目を仕留め、オレは最後の一匹の方へと振り返る・・・しかし、「なぁ!?。逃げんな!」と、つい声を上げてしまった。

振り返ると、最後の一匹が既に背を向けて、逃げ出しているのが見えていたからだ。

すると、「任せろっス!」とイッセーの声が聞こえて、矢が放たれていく。しかし、元々素早いレッドウルフが逃げ足になると、弓が当てるのは難しい。

イッセーが連続で矢を射るが、全て避けられてしまった・・・それを見てしまうと、流石に諦めが付いてしまう。


「逃がしません・・・法式展開。」


オレが諦めようとしていた時、静かに呟く女の子の声が聞こえた。すると、逃げていく狼が駆ける地面に、紫の印が組み込まれた法式陣が現れ、中から紫の縄のようなものが出現し、狼へと伸びて行き、絡まり動きを封じた。

一瞬、何がどうしたのかと戸惑ったが、良く良く考えてみると、これはスズハが使う技の一つ・【紫縛の印】だ。イッセーが居る方を見ると、彼の後ろにもう一人の人影が見えた。そこにたっていたのは、杖を構え、集中しているスズハの姿だった。


「イッセー、今!」


「りょーかい!!」


スズハの合図に合わせ、イッセーが再び、弓を構えて矢を放ち・・・動けないでいたレッドウルフへと命中したのだった。




「お疲れ様です、シュゲンさん。」


「スズハもお疲れ。助かったよ。」


レッドウルフを討伐し終えると、オレは二人の元へと歩いていくと、スズハが労いの言葉を掛けてくれて、傷付いていたオレに治療を始めてくれた。

ちなみに、治療をしてくれている間に、イッセーはレッドウルフの毛皮を剥いでくれている。レッドウルフの毛皮は、そこそこの金額で売れるし、防具の素材にもなるので無駄には出来ないんだよね。

なので、イッセーの毛皮とかは頼んで置いて・・・オレには、()()()()()()()()()()()()()・・・。


「所でさ、()()()()はどうしたんだ?。」


「はい。あの人達は、向こうの方に・・・」


スズハがそう答えると、茂みの奥の方を見つめるのを見て、オレは治療はまだ終わっていないのだけど、茂みの方へと歩いて行く。


「こりゃまた・・・凄まじいな・・」


茂みの奥へと行くと、そこにはとんでも無い事になって、ついつい声が出てしまう。すると、オレの声を聞いて、オレの方を振り向く人の姿があった。


「坊主かい。・・・悪いね、とんな目に合しちまった。」と声をかけて来たのは、一人の女義勇兵だ。


俺と変わらない背丈に、下手をしたらオレよりも筋力のある体をした女性の姿があった。鎧を身に纏っていて、職業(クラス)は戦士だろうか?。野性味のある出で立ちで、ワイルド・・・と言うべきなどだろうか?。

取り敢えず、そんな女戦士が疲れた表情で、オレの方を振り向いて来た。


「いや、こっちは大丈夫ですけど・・・()()は大丈夫なんすかね?。」


「さぁね。アタイ()とこいつらとは、もう関係ないからね。これからどうなろうと、関係ないさね。」


オレは憐れみの視線で、女戦士は穢らわしい物を見るような視線で、()()()()()()()()()()()眺めていた。

倒れているのは、男女合わせて四人・・・その全員が、ボッコボコにされて使い古された雑巾の様になってしまい、倒れて込んでいた。しかし、死んではいない様で、時たま動いたらり、「うゔぅ・・」とか、「た、たすけ、て・・・」と声を出している。


「で、これからどう———」


そんな無残な連中を見ながら、オレはこれからの事を相談しようとした時、茂みから音がした。そして、茂みから出て来たのは、また別の女性が姿だった。


「”リーザ”・・・最後の一人を捕まえて来たわ。」


「おぉ、捕まえたかい?。ったく、面倒掛けさせやがって。」


茂みから出て来たのは、リーザと呼ばれていたワイルド女戦士とは、真逆な出で立ちの女剣士だった。

パッと見での感想を一言で表すと、”美少女”としか言い様がない。綺麗な長い髪と顔立ちで、まさに美少女としか言い様がないが、キリッとしていて、かわいいと言うよりも綺麗だと表現した方がピッタリな気がする。

そんな美少女はリーザよりも軽装備で、腰には細剣(レイピア)が携えている。


流石に、未成年が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女にぐらいの美少女だと仕方がない気がする。

オレは、彼女に視線が固まってしまっていて、流石に彼女も気付いたのか、「・・・何?」と睨みつけられてしまって、慌てて視線を彼女の手元の方に向けた。

そこには、倒れている連中同様に、ボコボコにされている女が髪を掴まれ、引きずられている・・・余りにも、似付かわしくない光景が余計に恐ろしく見えて、背筋が寒くなる。


あぁ〜これをあの子がやったと思うと、マジで恐ろしい・・・はぁ、嫌な予感が的中しちゃったな。

オレは深いため息を吐きながら、事の発端を思い出していく。



事の始まりのきっかけは、昨日のホームでの出来事にまで遡る。




ーーーーーーーーーーーーーー


昨日の昼間も、今日と同じ旧市街でゴブリン討伐の依頼を達成して、日が暮れた頃にホームへと戻り、依頼達成の報告をした時の事だ。


「はい。依頼達成の確認が取れました。只今、報奨金をお持ちします。また、お二人の誓紋の同調率が一定を超えて、ランクアップしていますよ。お二人とも、ランク23になられました。おめでとう御座います。」


「マジっスか!!。やったっス!。」


「やったね、イッセー!。シュゲンさんも、ありがとうございます!。」


「いや、普通に二人が頑張ったからだろ?。オレは何もしてないよ。でも、良かったな?。おめでとう。」


ランクアップの報告を受けて、双子はハイタッチをしながら喜び合い、オレに対しても礼を言って来てくれた。

パーティを組み始めた時は、二人ともまだ13とかのランクだったけど、この一か月近くで10もランクを上げている。確かに、新人のランクは上りやすい所もあるんだけど、それを差し引いてもイッセーとスズハの頑張りは、目を見張るものがあった。

元々、二人の能力が高かったのもあるんだろうけど、今までの頑張りは本当に凄いのだと、オレは心の底から思っていた。


初めは息が合わなかったり、互いの邪魔をし合ったりと、チームを組んだ時ならではの問題もあったけど、今ではどうにか解決しつつある。それに関しても、二人の性格が良かったからだ。仲間同士が理解し合えなければ、すぐに解散してしまう事も少なくない。


その点、二人はオレにとってはかなり付き合い易い性格をしてくれていた。


イッセーは元気で明るい性格の為、一緒にいて楽しいし、オレにも懐いてくれている。まぁ、少し無鉄砲と言うか、猪突猛進な所もあるので、時たま危なかしい。けど、まだ許容範囲内の事なので、注意ぐらいでどうにかなっている。

ただ、いつまでもそのままと言う訳にもいかないので、頃合いを見て話合わないといけない。


スズハはイッセーとは違い、大人しく賢い女の子だ。初めはオレに対して壁があった気がするけど、今はある程度は仲良くなれた気がする。まだ遠慮がちな事があるので、遠慮せずに話せたらいいとは思うのだけど、そこは無理する必要はないよね?。

けど、イッセーみたいに暴走はしないし、ちゃんと周囲を気にする事が出来ているので、かなり心強い存在になっている。


多分だけど、二人はこれからかなり強くなる・・・正直な所、不安でしょうがない。

このままだと、オレの立場がない気がするんだけど、どうしたものか?。いや、ここは大人の対応として、彼らの成長を喜ぶべきだろうか?。

いや、オレだってこれからだし?。気にする必要なくないか?・・・などなど、将来的な危機感を感じながら、オレは心の中で困惑してしまっていた。


「あと二人にはギルドの習得資格を得られましたので、後日にギルドへ足を向けて下さい。」


「「はい」」


二人が元気よく返事をした後、報酬を受け取り、山分けをしてからホームを後にした。

帰り道に串肉の屋台で買い喰いをしながら、三人で今後の予定について相談をする事にした。


「じゃあ、明日からどうする?。二人はギルドでスキルを学びに行くか?。」


オレは肉汁たっぷりの串肉にかぶり付きながら、二人に話し掛けていた。

先程言われた通り、二人はギルドでのスキル習得の資格を得ているので、近いうちに行く必要がある。


義勇兵が使うスキルは、全てギルドで教えてもらう事になっている。腕を磨きランクが上がると、各自のギルドに向かい、教わるスキル毎に決められた金額を支払う事で、習得するために修行をしてくれる様になっている。所謂、授業料と言うやつだ。

その間、義勇兵はギルドに寝泊まりしながらスキルを学ぶのだが、その期間が大体一週間ぐらい掛かる。


なので、二人がスキルを学びに行くとすると、オレもどうするか決めないといけない。

ちなみに、二人とパーティを組む時にスキルの習得資格を得ていたが、それは既に習得済みなので、オレにはギルドへ行く理由がない。

となると、オレは必然として休みにするか、一人で依頼を受けるかになってしまうんだが、二人の意見を聞かないと決められない。


「そっすね・・・おれはスキルの前に装備を新しいのにしたいっスかね。新しい弓とか防具とかっス。」


「うん・・・私もかな?。」


「そう言えば、防具とか新しいのにしてないんだっけ?。」


二人の装備は、殆どが新人の義勇兵に渡されるお下がりの装備のままだった。

勿論、新しいのも使っているけど、全部では無いので、そろそろ新しいのにしたい気持ちも分かる。しかし、全部を新しいものに変えるとなると、かなりの金額になってしまう。そうなると、買うとしたら中古品になってしまうだろうな?。

あぁ・・・ダメだ。中古品だと、体に合う様に仕立て直して貰わないといけないから、それなりの金額になってしまう。


「となると・・・素材を持って行って、作って貰うしか無いか。」


そう呟くと二人はオレの顔を見上げ、目を輝かせた。

武器や防具はいい物が欲しいけど、それだとかなりの金額がかかってしまう。しかし、自分で素材となる魔物を倒し、その素材となる部分を持ち帰ってくれば、買うよりも数段安くなる。まぁ、制作費とか手数料とか取られるけど、新しくて自分に合っているから、手間は掛かるがそれなりの活用できる。


「シュゲン兄〜〜?。」


「あの・・・シュゲンさん?。」


あ〜はいはい・・・そんな猫なで声で言わなくても良いって、分かってますよ。手伝いますよ。勿論。

強くはなっても、まだまだ子供なんだよな・・・この二人は。

それは、それが可愛くって、ついつい和んでしまうし、頼られている感が凄く嬉しくなっていた。


「じゃあ、これから防具屋に行区か。どんな防具にして、なんの素材が必要か確認しないとな。」


オレがそう言うと、二人は喜んでくれた・・・全く、可愛い妹と弟だよ、この二人は。



話が纏まると、食い掛けの串肉を頰張りながら、防具屋へと向かって行く。

そして、そこでどんな防具を作るか、店の人と相談し合った・・・そして、決まったのはレッドウルフの毛皮を使った防具を作る事に決まった。

それが決まった時には、既に外は完全に真っ暗になってしまっていた。


「じゃあ、明日はレッドウルフの討伐か狩りをしに行こう。丁度よく、依頼があれば金にもなるしな。」


「了解っス!」


「よろしくお願いします。」


と言う事になり、その日は早めに解散し、明日の準備をする事にしたのだった。





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