結成と目標
「は〜い、お待ちどうさま!。特製一角猪の香草焼きで〜す。」
そう言われ、テーブルに置かれた皿には、綺麗な焼き目が付いた肉の塊が乗っていて、香草のいい香りが漂って、肉体労働に従事するオレ“達”の胃袋を刺激してくる。
「よぉ〜し、みんな飲み物はあるわね?。なら・・・カンパーイ!!」
「カンパーイっス!!」
「「か、カンパーイ・・・」」
樽型のジョッキを持ちながら、高らかに宣言するリーシュ。そして、イッセーも声を出し合い、同じ樽型ジョッキをリーシュのジョッキに軽くぶつけ合っている。
そんな和気藹々としている二人の横で、オレとスズハは戸惑いながらもジョッキを掲げていた。
シュゲン達はホームから少し離れた場所にある飲屋街へとやって来ていた。そこは、いくら夜が更けようとも、賑やかさが消えない場所で多くの義勇兵や住民達が酒を呑み合い、ドンチャン騒ぎになっている。
その中で、リーシュの行きつけの店にやって来たシュゲン達もまた、酒を呑み会が始まってしまっていた。
ちなみに、双子には果実水で乾杯だ・・・そこは・・・ねぇ?。
「プッハァ〜〜!!!。くぅぅ〜〜〜・・・沁みる・・・沁みるわぁ〜!!。今まで必死に我慢して来たけど、やっぱこれよ、これなのよ!!。このエールの為に、一日を頑張れるって感じよねぇ?。」
「いいなぁー、おれも呑みたいっス。果実水も美味いけど。」
「うふふっ。イッセーちゃんは、もう少し大きくなったらね?。まぁ、絶対にダメって事もないし、良いだけど、取り敢えずはね?」
「ちぇ〜・・・早くデカくなりてぇな・・・」
この二人、いつの間にこんなに仲良くなってんだ?。出会ったのは、ついさっきだろうに?。あれか?。アレなのか?。ポジティブな性格同士仲が良い的なやつなのか?。
まぁ、酒に関しては良い判断とは思うけど・・・酒を飲むのに年齢なんて関係ない。呑みたちゃ、呑めばいいっと言うのが、一般常識だ。
けど、実際にイッセーやスズハぐらいの子達が酒を飲む事は少ない・・・まぁ、苦いしね?。俺だって、イッセー達ぐらいの時は、大抵果実水を飲んでたさ・・・今では、酒がメインだが。
って、そんな事はどうでも・・・言い訳ではないが、その話は別の時に取っておいて。
なぜ、今飲み会が始まったかと言うと、ホームでの出来事がキッカケだった。
一度、(一方的に)別れた筈の双子が、いつの間にか付いて来ていた。
状況が掴めないでいたオレの元に、二人はやって来たが、ソワソワとしているが何も話そうとしないので、どうしたものかと考えていた。別に怒っているわけじゃ無いし、怒る様な事をしていたわけでも無い。
ただ、オレに用がある様だったので、それを話して欲しいだけなんだけどな?。
そんな時、「そうだ!。私、今日はこれで帰るの。夕飯もまだから、食べて帰ろうと思っているの。だから、みんなで行かない?。」と、一緒にいたリーシュが掌を合わせながら声を掛けて来た。
まぁ、オレも双子もエルドアに戻って来たばかりなので、夕飯はまだで腹も減っていた。
それに、立ったままでいるのもアレだし、飯を食えば双子も何か言ってくれるかと考えたオレは、リーシュの誘いを受ける事になり、双子も驚きながらも行く事になって、今にいたっている。
「それでさ?。結局、イッセーちゃんとスズハちゃんは、シューちゃんに何か様だったの?。」
食事と酒も進み、初めは大丈夫だろうかと思っていたけど、思いの外に楽しい時間を過ごす事が出来て、全員が馴染んで来た。そんな頃合いで、リーシュが双子に質問をした・・・しかも、核心的な質問だ。
別に、オレが忘れてたわけじゃない・・・決して忘れていないし・・・言うタイミングを見計らってただけだし。
すると、スズハが食事していた手を止めて、少し俯き考え込むと、意を決した様に顔を上げて、オレの顔に視線を向けた。
オレはリーシュの右隣に座り、斜向かいにはイッセーが、正面にはスズハが座っている。
「わ、私達・・・シュゲンさんに、お願いがあって来ました。」
「おれ達、兄ちゃんとパーティを組んで貰いたくて、お願いしに来たっス!。」
「・・・・はい?」
オレは今、どんな間抜けな顔をしているんだろう?。
ジョッキに入ったエールを飲もうと口元に運んでいた時に聞いて、動きが止まってしまった・・・しかも、目を見開いて、間抜け顔を晒しているだろう。
隣では、「おぉ〜シューちゃん、モテモテじゃない。」とか、面白そうに笑うリーシュが茶化している。
おっし・・・落ち着け、シュゲンよ。動揺を感じさせない様にしていると、スズハとイッセーの声が聞こえてくる
「私達、まだ義勇兵になって間もなくて、何も知らない未熟者です。」
「だから、シュゲン兄ちゃんに色々と教えて貰いたいって思ったっス。」
あ、頭が痛い・・・・いや、二人の意欲とか凄く良い事だと思うんだけどさ?。なんで、オレ?。
しかも、ついさっき出会ったばかりの奴だよ、オレ?。
「ねぇ?。私は当事者じゃないから、余計なことかもしれないけど、なんでシューちゃんなの?。シューちゃんには悪いけど、もっと腕のいい人は居るし、パーティ組むのだって二人に近いランクの人との方がいいんじゃない?。」
おっと、リーシュがオレが言おうと思っていた事を代わりに言ってくれた。
少し複雑な気持ちだが、彼女の言う通りだ。オレより腕の良い義勇兵がいっぱい居る。その中に二人と組んでくれる奴も居ると思うし、何より同期の連中と組むことも出来るだろう。
それなのに、なんでオレなんだろう?
「それは・・・その・・・」
リーシュの問い掛けに戸惑うスズハ・・・すると、イッセーが代わりに答えた。
「そんなのシュゲン兄ちゃんがいい人で、組んで欲しいと思ったからっス。腕がいいとか、そう言うのは関係ないっスよ。」
何ともストレートな答えであり、予想外の答えで、オレとリーシュは少し固まってしまった。
基本的に義勇兵は損得勘定で動いている。利益があるからやるし、損があるならやらない。どんなに報酬が良くても、危険な事には手を出さないし、しようとは思わない。
それはパーティを組む時にも表れている・・・パーティを組む際に必要な事とはなんなのか?。
まぁ、これに関しては人それぞれだとしか言いようが無い。
人によっては実力だと言う人達もいる・・・まぁ、それも答えの一つだろう。強くなくては、良い報酬の仕事は出来ないし、利益も無い。弱い奴と組む利点も無い。確かに、そうの通りかも知れない。
オレも少なからずと、そう言った考えには同意出来るし、考えてしまってもいた。
一にも二にも、金は必要不可欠なものだ。それを得るためには、損得勘定をきちんと出来ないと、この仕事は成り立たない。
けど、この二人は違っていた・・・この子達は、まだ新人で、素直で、擦れてなくて、真っ直ぐだ。
歳は近くても、オレにもう無いものを持っている。
あぁ・・・あの人も、同じ気持ちになってたのかな?。
「これは、なかなかの口説き文句じゃない?。シューちゃん、どうするの?」
頼むから、そんなに楽しい見世物を見ているようなニヤニヤした目で見ないでくれ。
リーシュの視線を感じながら、オレは軽くため息を吐き、もう一度考えてみる。
確かに、オレもパーティを組むことを考えていたから、悪い話じゃない。損得で考えるなら、得をしているだろう。じゃあ、損は?。
損は双子の実力が低い事で、それは組んだ仕事の内容に作用されてしまう。報酬も減るしね。
けど、利点要素も多い。まずは、オレが二人の事を嫌いじゃないという事だ。
これは利点としては、大きな要素だ。嫌々、パーティを組むより何十倍も良い。精神的にも衛生的だ。
それに、弱いという事は、これから強くなれるという事だ。時間は掛かるが、慎重にして行けば良いんじゃないか?。
ん?・・・意外に良い条件かも知れないな?。
そう考えていると、双子から熱い視線が送られているのに気が付いた・・・うぅ、こういう視線って苦手なんだが?
「う〜ん・・・まぁ、うん・・・いいよ。組もう、パーティ。」
「ほ、本当ですか!?」
「やった〜っス!!!」
若干、純真な視線攻撃の所為で、撃沈した感は否めないけど・・・まぁ、きちんと考えての答えなのは、本当なのでしょうがない。
それに、目の前では双子が満面の笑みで、ハイタッチをして喜んでいるのを見ると、「やっぱ無し」とか言える雰囲気じゃないしね。
「パーティ結成おめでとう!。スズハちゃん、イッセーちゃん、良かったね!。 よぉ〜し、お祝いにお姉さんが良い情報を教えてあげよう!。」
「「「良い情報?」」」
リーシュが拍手をしながら、オレ達のパーティ結成を喜んでくれていると、気になる事を言い出した。
双子は首を傾げながら、リーシュに視線を向けているが、オレは食い入る様に目の色を変えて、振り向いた。
リーシュは《サポーター》だ。そのサポーターが良い情報だと言うのなら、良い情報に違いないのだから!。
サポーターと言うのは、義勇兵事務所で仕事をしている人達の事だ。
だけど、リーシュ達は義勇兵ではなく、ヴァルドニア王国から寄越された職員だけど。
まぁ、国の事はどうでも良いか?。取り敢えず、サポーターについてだったっけ?。
サポーターって言うのは、義勇兵達の依頼が順調に出来るように下準備をしてくれる人達の事だ。
主には、事務処理らしいけど、今回のリーシュみたいに遠征に出たりもしている。
そう言う時にやっているのは、情報収集だ。
出先で直接依頼内容を聞き、ホームに持って帰って来たり、地域における魔物などの情報を集めて来たりと言った裏方の仕事をしてくれている。
なので、リーシュ達の情報網は義勇兵よりも優れていて、持っている情報も良い物が多い。
だけど、何でもかんでも教えてはくれない。物によっては、秘匿義務があるらしいけど、そのほかの情報開示は、サポーター個々人で行なっている。なので、人によっては金銭を要求する事もあるし、交換条件で教えてくれる事もある。
ただ、無理に情報を聞き出そうとすると、二度と情報公開をしてくれなくなってしまう。情報だけでなく、他の事でも義勇兵はサポーターに支えられている所があるから、サポーターを敵に回す事を恐れる程だ。まぁ、サポーターの援助が必要ない連中もいるけど、基本的みは信頼関係を大事にしている。
「いい?。これは他言無用よ?。所長には報告済みだから、時期が来たら公開予定の事なんだけど・・・」
リーシュは声を落とし小声になると、オレ達も興奮を抑えながら、リーシュへと顔を近付け、耳を澄ませる。
「まだ予測の範疇なんだけど。遅くても、四ヶ月・・・早くて、二ヶ月後に、河がやって来るわ。」
真剣な面持ちで話すリーシュに、双子達が首を傾げ、互いの顔を見つめ合っている。その顔には、『なんの事だ?』と書いてあって、双子は理解していない様だ。
しかし、オレは違う・・・ リーシュの言葉を聞いた瞬間、オレの中のやる気スイッチが一気に入ったのが分かった。
「リーシュさん・・・それ、マジ情報っすよね?。『やっぱり、嘘!』とか言わないですよね?」
「ふっふっふっ・・・シューちゃん?。私と何年の付き合いなのかしら?。私が嘘をついた事あるかしら・・・特に、こんな特ダネの情報に関して。」
「はははっ、そうっすよねー・・・おっし!!。やる気出てきたぁ!!」
不敵に笑うオレとリーシュ・・・それを見ている双子達が若干引いてる気がするが、気にしない事にしよう。
何せ、本当に良過ぎる情報過ぎて、笑みを抑え込む事が出来ないのだから。
そんなオレ達に、スズハが少し遠慮気味に声を掛けてきた
「あ、あの・・・”河“ってなんなんでしょう?。エルドアに河なんて、近くには無かった筈ですけど?、」
何とも純粋な勘違いをしているスズハ・・いや、イッセーもか?。まさに新人義勇兵と言った感じで、つい和んでしまう。
しかし、この情報を得てしまった以上、二人にも頑張って貰わないといけなくなったので、きちんと説明しないといけないな。
「河って言っても、水が流れている大きな川じゃないんだよ。それは例えで、本当の呼び方は深緑の河って言うんだ。」
「ゴブリン・・・ですか?」
オレの説明を聞いた双子だったが、やはり理解していない様だ・・・・って、オレの説明が悪いのかな?。
「そうよ。エルドアには三大名物と言う大イベントがあって、その中の一つ深緑の河。
ゴブリンって、異常に繁殖力があるって有名でしょ?。雌雄のゴブリンが居たら、二十匹の子供が産まれるし、産まれて数日後には幼体から成体になっちゃうって言われてるの。そんなゴブリン達には、数年に一度の大繁殖期があって、通常の繁殖力の十倍だって言われてる。
そんな異常繁殖したゴブリンの群れは、街道を埋め尽くしてしまい、前進して来る様はまるで河のように見えることから、緑の河・・・深緑の河って呼んでいるの。」
「ゴブリンの群れっスか・・・」
「じゅ、十倍・・・そんな・・・」
ゴブリンと聞いて、二人の顔色が変わった。
まぁ、ついさっきまで戦っていて、殺され掛けていたんだ。顔色一つ変わるのは、仕方ないだろう。
「それでね、ゴブリンの群れが野放しには出来ないでしょ?。何もしなければなら、近くの村やヴァルドニア王国に攻め入ってしまうから、王国や周辺貴族達が義勇兵に大金を掛けて、討伐依頼を頼んで来るの。
報酬額は、通常の依頼よりも高額よ?。しかも、報酬の半分を前金で貰えるけど、金額は銀貨数十枚は硬いわね。それにゴブリンを多く倒せば、追加報酬も貰えて、ザックザックな訳なのよ。
けど、一度受けたら、取り消し不可。前金だけ持ち逃げしたら、お尋ね者になっちゃうからやっちゃダメよ?。」
と、リーシュの説明が終わると、双子はどう反応すれば良いのか分からない様子で呆然としている。
まぁ、急にこんなこと言われても、困るわな?。
「あ、あの・・・それって・・・」
「おれらも出来るんすか?。」
「あぁ、基本的にはランクが低くても出来るクエストだ。数が数だし人出が欲しからね。だから、低ランクの義勇兵達も参加する。ただし、基本的にはパーティを組んでのクエストになるから、ソロでは出来ないんだ。」
「ちなみに、三大名物の中でも、深緑の河は新人義勇兵向けなのよ。油断は禁物だけど、新人義勇兵には良い経験にもなるし、お金儲けも出来ちゃう。正に、一石二鳥。三人がパーティを組むなら、それぐらいの目標があってもいいと思うの。」
オレとリーシュの話を聞いていた双子は、全く別々の反応を見せた。
イッセーは目を輝かせながら、先の話だと言うのにワクワクが止まらないと言った様子に対し、スズハは不安で仕方がないと言った表情をしている。やっぱり、双子でも男女で反応が違うらしい。
「あ、あの・・・それは、私達なんかでも・・・出来るのでしょうか?。」
「何言ってんだよ、スズハ!。これから強くなれば良いだけの話だろ!?。シュゲン兄ちゃんも居るんだし,
大丈夫だって!。」
「い、イッセー・・・だけど・・・」
う〜ん・・・まぁ、スズハの不安も分からない訳じゃない。と言うか、イッセーがオレに対して、何でそんなに過大評価しているのか、ちょっと不安なんだが?。
それはとりあえずは良いとして・・・二人の言い分はどちらとも正しい。
今日の失敗があるから不安になるのも分かるし、これから強くなれば良いと言うのも理解出来る。
ただし、オレは無理強いをするつもりは無いし、まだ時間があるから、これから良く考えれば良いことでもある。
「まぁ、不安なのもわかる。だから、取り敢えずは参加しても大丈夫な様にするのを、目標にすればいいんじゃ無いか?。と言うか、オレ自身も実力的に不安だしね。そう急ぐ必要はないよ。」
「わ、わかったっス。」
「判りました。」
オレがそう言うと、白熱仕掛けていたイッセーはそれ以上は何も言わなくなり、スズハもひとまずは納得してくれた様だ。
「なら、一先ずは決定ね。でも・・・いざ、参加する事になっても、三人だけだと幾ら何でも危険よね?。」
「そうっすね・・・出来たら、もう少し人手が欲しいところですけど。」
基本的に、パーティは五〜八人が一般的だ。
だから、少なくてもあと二人・・・メンバーが欲しい処なんだけど、どうしたものか?。
幾ら何でも、そう易々と人が見るかる筈がないし、居たとしても入ってくれるだろうか?
「こうなったら、お姉さんが一肌脱いであげますか?。シューちゃん達と組んでくれそうな人を見つけたら、声をかけておいて上げる。
でも、声はかけるけど、交渉は三人でするのよ?。自分達のことなんだから、いいわね?。」
「助かるよ。ありがとう、リーシュさん!。」
「「有難うございます!!」」
流石は、サポーターのリーシュだ。リーシュの協力があれば、何とかなるかも知れない。
けど、それに甘えるのもダメだし、オレらもオレらで強くならないとね。
「じゃあ、当分の目標が出来た所で、もう一回乾杯しようか?。」
リーシュの掛け声を聞いて、オレ達はジョッキを再び持ち直し、始めとは違って、全員でジョッキをぶつけ合った。
目指すは、深緑の河!!。
目指せ、大金を稼ぐ為に!!